「国家の品格」で有名な数学者の藤原正彦氏が、先週発売の週刊新潮のコラムで”英語力が弱いと国際的な経済力が低くなるのか?”というようなことを書いていました。藤原氏は、日本の国際競争力を高めるために英語力を強化するということに、かねてから疑問を持っていたようです。

 

確かに、英語ができないと国際的な経済力が弱くなるという意見は、よく耳にすることがあります。外国とのビジネスでは英語が必要とされますので、そこで英語力が弱ければ交渉などをまともにできないことになります。

 

日本は世界の中でも英語力が弱い方と言われていますが、どのくらいの位置にいるのでしょうか。下の表は、TOEICテストを年間500人以上受験した国の順位と平均スコアについて、アジアの国だけ抜き出したものです。更に、各国の国際競争力の順位も付け加えてあります。

 

アジア各国のTOEICテスト国別平均スコア
TOEIC国別平均スコア

資料出所:TOEICテストWorldwideReport2013、「国際競争力(WEF)ランキング」世界のネタ帳
注1)TOEICテストは年間総受験者数が500名以上の国が対象(対象国は48カ国)
2)国際競争力は「国家の生産力レベル」の2014年順位(対象国は144カ国)

 

TOEICテストの国別平均スコアを見てみると、日本は48カ国中で40位、アジアの中でも15と順位が低くなっています。

 

一方で、国家の生産力レベルという国際競争力を見てみると、日本はシンガポールに次いでアジアで2となっています(シンガポールはTOEICテストでは対象国から外れています)。

 

他にも、香港、台湾、韓国、タイなど英語力がアジアで下位の国の方が、国際競争力が高くなっています。逆に、英語力上位のバングラディシュ、ネパール、レバノン、パキスタンは、国際競争力では100位台となっています。

 

英語力が高くなれば本当に国際的な経済力が強くなるのか、上の表を見ると懐疑的にならざるをえません。

 

 

日本以外のアジア各国では、英語が分からないと専門的な学術書を読むことができません。そのような本は母国語で書かれたものは極僅かで、英語で書かれた本を読むしかないからです。アジアの多くの国では、大学など高等教育機関で勉強するとなると、英語が理解できないと専門書を読むことができないという状況にあります。

 

それに対して日本では、外国語で書かれた専門的な本の多くは日本語に翻訳されているので、英語が分からなくても勉強することが可能です。日本人が日本語で書いた専門書も多いですから、日本語だけで十分高度な勉強をすることができます。

 

戦前には多くのアジアの人が日本に留学して学んでいました。なぜなら、日本は戦前でも多くの外国語の本が翻訳されていたため、日本に来て日本語を習得すれば欧米の専門書を読むことができたからです。

 

欧米の本は英語以外にも、ドイツ語やフランス語などで書かれたものがありましたが、その本を読むには複数の外国語を身に付ける必要があります。しかし、日本語だけ理解できれば、それらの本を読むことができたのです。

 

 

英語力が強ければ経済的な競争力も高いのであれば、藤原氏が指摘しているように最も英語力が強い英国はもっと経済的な競争力が高いはずです(ちなみに英国は国際競争力ランキングで9位です)。国際的な経済力を高めるには、英語力を強くすることよりも重要なことがあるような気がします。


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