限局性学習症(Specific Learning Disorder)とは知的な発達に遅れがないにも関わらず、読む・書く・話す・聞く・計算する・推論するなどの能力の中で苦手とするものがある場合を指します( 学習症、学習障害とも言われます)。
これらの能力は学校での学習に大きな影響を与えるものとなります。 算数はできるのに国語の点数が低かったり、その逆があったり、読み間違いや板書(黒板の文章を写すこと)が極端に苦手な場合もあります。
知的な発達の遅れがあるわけではありませんが、学習症があるために、勉強がうまくいかず、落ち込み、それが不登校につながることもあります。
そこでこのブログでは学習症について理解し、課題を解決するヒントについてご紹介していきます。
この記事でわかること
▶︎限局性学習症について
▶︎学習症の種類
▶︎学習の助けになる17のヒント
この記事を書いた人:なかがわひろか
▫️発達障がい・不登校・ひきこもり専門カウンセラー
▫️学校・PTA・自治体での不登校・ひきこもり講演多数
▫️子どもから大人までの発達障がい全般に関わる
限局性学習症(以下学習症)とは、
「読む・書く・話す・聞く・計算する・推論する」 という能力に苦手なものがあることを指します。
以下の症状のうち、少なくとも1つが存在し、6ヶ月間持続しているものであり、暦年齢に期待されるよりも、低い学業、職業遂行能力、日常生活活動に障害を引き起こしている状態の場合に診断されます。
学齢期の子どもたちの5~15% 、成人においても4% が有していると推定されます。
【学習症の診断基準(DSM-5改)】
▫️読むことが不的確または速度が遅く、努力が必要である
:単語を間違って、またはゆっくりと音読する、言葉をあてずっぽうに言うなど
▫️読んでいるものの意味を理解することの困難さ
:読んでいるもののつながり、関係、意味するもの、またはより深い意味を理解できないなど
▫️つづり字の困難さ
:母音や子音を付け加えたり、入れ忘れたり、置き換えたりする
▫️書字表出の困難さ
:文法または句読点の間違い、段落のまとめ方が下手、思考の書字表出に明確さがない
▫️数学の概念、数値、または計算を習得することの困難さ
:数字、その大小、関係の理解に乏しい。一桁の足し算を指を折って数えるなど
▫️数学的推論の困難さ
:定量的問題を解くために、数学的概念、数学的事実、数学的方法を適用することが非常に困難である
これらの能力は学校という現場においては、どれも非常に重要なものとなります。国語の授業では、音読で当てられることがあります。宿題では漢字の書き取りも出ますし、年齢が上がってくると文章題も増えてきます。
元々の能力が低いわけではないのですが、特に苦手とすることがあることで、学習に成果が伴わないことがあります。
知能検査(WISCやK-ABC)を受けることで得意、不得意が明らかになりますが、検査をしなければ見落とされ「怠けている」「やる気がない」とみなされることがあります。
学校生活において勉強が苦手というのは子どもたちの自信を失わせる大きな要因になります。自己肯定感が低くなることで、学校に行くことにしんどさを感じ、不登校になるケースもあります。
不登校になることで初めて学習に困難さがあることがわかる場合が多いです。宿題の国語の教科書の音読が苦手だったり、連絡ノートの記述がうまく書けていなかったりする場合は、もしかしたら学習に対して苦手とすることが隠されているかもしれません。
学習症に限らず、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障がいに関して「親の育て方が悪い」などは理由になりません。
元々も脳の働きにおいて「苦手」とすることがある先天的なもの となります。理由がはっきりと解明されているわけではありませんが、脳の中枢神経に要因がある脳機能障害と言われています。
そのため文字を読むことに困難がある子どもたちに対して「もっと集中すれば読める」などの対応は、的が外れた対応となります。「読む」という脳の機能がうまく働いていないため、「ちゃんと読みましょう」と言われても、子どもたちはただただ混乱するだけになります。
「生まれつきの脳機能の課題によって苦手がある」 という点をまず意識するようにしましょう。
識字障がい:ディスレクシア(dyslexia)
▫️文字がぼやけたり、滲んだり、歪んだりして見える
▫️単語の音と内容がリンクしないなど
学習症として、もっとも有名なものとなります。ディスレクシアを抱えることによって、音読や板書の困難さ、作文を書くことの困難さが生じます。
書字表出障がい:ディスグラフィア(dysgraphia )
▫️漢字などの文字を書くことの困難さ
▫️マス目をはみ出して書いてしまう
▫️鏡文字になることがある
私がこれまでお会いしてきた中では漢字の書き取りに困難さを抱えている方が多いです。日本後の漢字は、さまざまな形が組み合わさって作られます。高学年になるほど複雑になり、形を認識することが難しくなることで、より書き取りにも困難さが出てきます。
また高学年になるほどマス目が小さくなり、さらに年齢を経ると罫線だけのノートに書きとることを求められます。書く範囲が狭くなることで、より書くことの困難さが現れることがあります。
算数障がい:ディスカリキュリア(dyscalculia)
▫️計算が苦手で、九九が覚えられないことがある
▫️計算式を立てることが苦手
▫️数の大小の把握が難しい
ディスレクシアに比べると数は少なくなりますが、数の概念に困難さを抱える子どもたちも存在します。ここに挙げたものの他に時計を読むことが苦手、数字の暗記が苦手ということも挙げられます。
学習症を抱える子どもたちの多くは、「自分は勉強ができない」と思い込んでいることがあります。 特に学校生活においては、勉強ができないことは大きなハンデと感じるようになります。
ただ間違ってはいけないのは勉強が「できない」のではありません。 学習症は知的な発達の遅れは伴いません。つまりIQとしても、問題ないということになります。大半の子どもたちと同じ方法ではできないかもしれないけれど、やり方を工夫することで平均、もしくはそれ以上の学力を発揮することもあります。
読み取りが苦手だったお子さんが、先生に問題文を読み上げてもらったら、それまで30点台しか取れなかったテストで満点が取れるようになった、というケースもあります。
けれども配慮がなされなかったら、お子さんは自分に自信を失い、それが不登校につながることもあります。やり方を変えることで、成果を上げることは十分に可能です。お子さんに合う方法を試すようにしてみましょう。
ここからは学習症に見合った道具についてご紹介していきます。お子さんの学習の参考にしていただけたら嬉しいです。
読みにくい漢字などは、Googleレンズ を活用することで、辞書を調べなくてもすぐに知ることができ、手間が省けます。無料で使用できますので、スマホやタブレットに入れておきましょう。
注意点としては、漢字の上にルビを打つことです。学習症は文字が見づらい状態です。そのためルビを打つと余計に読みにくくなることがあります。ただ、ルビがある方が勉強しやすい方の場合は、その限りではありません。お子さんのやりやすさを重視して使い分けましょう。
スマホやタブレットで簡単にできる方法です。多くの人は、文字を黒く、背景を白っぽい設定にされていると思います。スマホのライトで目が疲れてしまうことがあるので、背景をダークモードにし、文字を白抜きにしてみてみましょう。
こんな感じです。こちらの方が読みやすい方は、早速ダークモード設定にしてみましょう
▶︎iphoneのダークモード設定方法
▶︎Androidのダークモード設定方法
学習症を抱える方にとって、ITの活用は学習環境を大きく改善してくれるものです。学校とも話しながら、例えば国語の教科書をタブレットから見られるようにし、ダークモードで文字を見やすくする方法も検討してみましょう。
教科書の読みたい行に当てるだけで読みやすくしてくれる道具です。学習症において特に読みに苦手がある方は、文字が大量にあると、揺れたり歪んだりして見えます。そのため読んでいるところがわからなくなり、同じところを読んだり、読み飛ばしたりします。
リーディングトラッカーを活用することで、読みたい行だけ集中して読むことができます。お子さんの目に合った色を選ぶことができますし、持ち運びもしやすいです。
▶︎リーディングトラッカーの例
ハリウッドの映画俳優の中には読みを苦手とする人がいます。その方たちは、セリフは全て音声に置き換えて覚えると言います。
読み上げアプリを活用することで、耳からの情報を活用し、書かれている内容を理解することができます。
▶︎読み上げ「ゆっくり棒読みトーク」
▶︎読み上げアプリ(かわりに喋る)
読み上げアプリはたくさんの種類があります。使ってみながら、お子さんに合うものを選んでいきましょう。
日本語の漢字は、いくつかのパーツが組み合わさって成り立っています。学習症を抱えるお子さんの場合、文字が歪んで見えたりすることで、画数が抜けたり、逆に必要のない線を付け加えてしまうことがあります。
例えば「外」という漢字であればカタカナの「タ」と「ト」を書けるようにして、合体させるという方法です。漢字は組み合わせできているため、「パーツに分ける」ことができれば書きやすく、また覚えやすくなります。
また「春」であれば「三人の日」というように口に出しながら書くことで覚えやすくなります。
▶︎こちらもおすすめです「ミチムラ式」漢字練習
小学生も高学年くらいになるとマス目の小さなノートを使うことになります。中学生になるとマス目がないノートを使うことも増えてきます。
マス目がないことで、文字のバランスがうまく取れず、書くことの苦労が重なることがあります。お子さんの見合ったマス目・ノート選びを行うようにしましょう。
マス目についても、大きすぎると書きづらいという方もいます。使ってみながら、ちょうどいいバランスのものを見つけていきましょう。
例えば英語の小文字の「b」と「d」は書き間違えが多いものになります。また書くことに苦手さを抱えているお子さんの場合、単語と単語の間が空くことで集中量が削がれてしまうことがあります。
筆記体であれば一つの単語を一気に書くことになるので、一つ一つを分けて書くよりも書きやすくなるかもしれません。
近年は学校でも筆記体を習うことが減ってきていますが、書くことに苦手さを抱えるお子さんは一度練習してみてもいいかもしれませんね。
ノートに問題文を書いたりすることは、書くことに苦手を感じている子どもたちにとってはかなり疲れるものになります。
あらかじめ要点をまとめたプリントを用意してもらい、穴埋めで必要な項目を書いていく形であれば負担を減らすことができます。
またこれは学習症を抱える子どもたちだけでなく、すべての子どもたちにとっても効率的に学習を進めるために効果的です。先生の手間は増えますが、板書が長くなってしまうような場合において用意してもらうといいです。
ここでもタブレットなどの活用は有効です。特にブラインドタッチを身につけることで、書くことの負担はかなり抑えることができます。
学校との協力体制が必要になりますが、授業においてもノートを取る際にタブレットによるブラインドタッチや、カメラで板書を写すなどができるように働きかけてみましょう。
書くことに苦手さを抱える子どもたちは、ノートを写すだけで、疲れてしまうことがあります。ノートテイクの負担を減らすだけでも授業への意欲が変わってきます。
▶︎デジタルメモ「ポメラ」
こちらは、パソコンやタブレットのように「余計な機能がついていないメモに特化したパソコン」です。立ち上がりも早く、メールが入ったりすることもないので、集中しやすくなります。値段にも幅がありますので、用途に合わせて活用しても良いですね。
学習症だけでなくADHDの場合において「ワーキングメモリー」と呼ばれる脳の機能に苦手さを抱える子どもたちもいます。
ワーキングメモリーとは、作業や動作に必要な情報を一時的に保持する機能 です。情報は聴覚や視覚を通して得られます。ワーキングメモリーの機能に苦手さがある場合、先生からの指示が頭の残っていなかったり、計算途中で何をやっているかがわからなくなることがあります。
耳からの情報を得ることが苦手なお子さんは、不特定の人に対しての「こっちに集まって!」や「そっちは危ないからここにいてね」という指示が耳に入らないことがあります。
先生や周りの人から「⚪︎⚪︎さん、こっち見てくれる?」と注意を促してから、「ここに来てくれるかな」と指示を出すようにすると、理解しやすくなります。
慣れてきたら手を振るなどの動作で注意喚起してから話す、という方法に変えていきます。
作業を促す場合において、耳だけの情報だと理解することが難しい場合あります。その場合において視覚的な情報で「今何をしていて、これから何をするか」を提示すると理解しやすくなります。
【例:発表の手順】
口頭だけでなく、視覚的情報があると、理解しやすくなります。またこれは特定の子どもたちだけでなく、多くの子どもたちにもわかりやすいものとなります。
もっとも基本的な対応になりますが、スタンダードな方法でもあります。付箋などに要点を書いて机やパソコンに貼っておき、順番に取り組み、終わったら捨てる、という方法などがあります。
ただメモをしたことを忘れてしまうことがあるので、可能であればスマホのリマインド機能を活用して、時間がきたらタイマーで知らせてもらうという方法もいいでしょう。授業で用いるのが難しい場合は、付箋に書いて机に貼っておいたり、友達に声をかけてもらうのもいいですね。
また、時間がきたら必ず見返すノートを作っておいて、そこにメモをしておくという方法もあります。
▶︎くり返しメモできるふせん
▶︎デジタルメモ
話したいことをまとめるのが苦手で、どう伝えていいのか固まってしまうこともあります。頭の中で考えるのではなく、「外に出して整理する」ことを第一に考えてみましょう。
お子さんが読みやすいノートに、発表で話す順番をつけた台本を用意します。
【台本の例:クラスでの発表の場合】
①クラスのみんなの顔を見るように前を向いて一礼
②「今から⚪︎⚪︎についての発表をします」
③「私たちは⚪︎⚪︎について調べました」
④「これがそのグラフです」(グラフを指差す)
⑤「結果はこのようになりました」
⑥「以上で発表を終わります」
⑦みんなの方を向いて一礼
最初は細かく決めておいて、練習をしながら、読まなくてもできることを増やしていきます。また事前に先生に目を通してもらってアドバイスをもらうとより良い発表を行いやすくなります。
学習症に限らず、人前で話すのは緊張するものです。人前での話がうまくなるには「場数を踏む」 ことに尽きます。やってみると思ったよりも緊張せずにできた、声を大きくしたら自信を持って発表できた、などうまくいったことはノートに書いておきましょう。
それが今後の発表の自信につながっていきます。もしうまくいかないことがあっても「チャレンジしたからうまくいかないことがわかったんだ」 と考えるようにしてみましょう。
どんなにお話が上手い人でも、最初はみんな失敗しています。数を重ねることで、必ずうまくなります。できることを一つ一つ増やしていきましょう。
学習症を抱えるお子さんが一番つまづくのは国語の授業だと思います。そのため見過ごされやすいのですが、実は算数につまづいているお子さんもいます。
特に現れやすいのが「九九」や「筆算」「四則計算」などの複雑な計算、そしてなんといっても文章題でしょう。それぞれの対応について見ていきましょう。
耳からの情報が苦手な子の場合、視覚的な情報から答えを導き出す練習をしていきます。例えば単語カードに「3 × 4」と書いて、裏面に「12」と答えを書くようにします。
たくさんの情報が書かれていると混乱しがちなので、1問ずつ取り組むようにします。カードでなくとも、スマホのアプリや画像を使って取り組むこともできます。
▶︎おすすめアプリ「九九を覚えてモンスター図鑑あつめ!」
耳からの情報を得るのが得意な子は、音声で録音したものを何度も聞きながら覚えるのもいいでしょう。
人によっては、順唱(1から順番に言う)はできるけれど逆唱(九から遡って言う)が苦手なお子さんもいます。完璧を目指さず「掛け算の答えがわかればいい」というスタンスで取り組むことが重要です。
例えば「(13+7)×4÷5+1」のような四則計算に混乱してしまう子もいます。ワーキングメモリーに苦手さを抱えているお子さんの場合、計算しているうちに、何をやっているかがわからなくなることがあります。
この場合、答案用紙や別紙の余白部分に
①まず( )の中の13+7(答え20)を計算する
②次に20×4(答え80を計算する)
③次に80÷5(答え16)を計算する
④最後に16+1(答え17)を計算する
と一息に計算するのではなく部分ごとの計算を行うようにします。そして答案用紙には最後の答え17を書くようにします。
正確な式を書くとしたら
=(13+7)×4÷5+1
=20×4÷5+1
=80÷5+1
=16+1
=17
となりますが、これだとこんがらがってしまうことが起こります。先生とも話して、式の書き方については、配慮してもらい、部分について余白で計算する方法を取れるように伝えてみましょう。
「読み」の部分でお伝えした方法を活用しつつ、ポイントを押さえながら情報を整理していきます。
例えば「山田さんは、20円のガムを5個と、35円のあめを2個買いました。合計いくらはらったでしょう」という問いがあるとします。ポイントになる数字にチェックするようにします。
絵に描いてみたり、表で整理したりするとよりわかりやすくなります。まずは絵を自分でも書いたり、表に記入したりという方法から整理することを試してみましょう。
ここに挙げたものは、ごく一部の方法となります。学習症と言っても、お子さんそれぞれに何を苦手にしている方は異なります。お子さんに合った方法を試しながら見つけていきましょう。
なかなかヒントが見つからないという方は、一度無料カウンセリングをお試しください。その際にWISCなどの検査データがありましたら、そちらもお見せいただけるとより具体的なアドバイスをお送りできます。
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■略歴:
中学時代に不登校を経験。その後学校復帰。関西学院大学に合格する。大学卒業後、人材紹介会社にてマーケティング・人事を経験。
あるひきこもりの青年に出会ったことから、起業を決意し、専門的なカウンセリング・学習サポートを行うOFFICE NAKAGAWAを2011年2月に設立。公認心理師、産業カウンセラーの資格を有する。
ひきこもりや不登校、発達障がいのご当人、並びにご家族のカウンセリング、学習サポートを行う。PTA、学校関係、行政関係など講演も行う。
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