アムロジン | kyupinの日記 気が向けば更新

アムロジン

循環器系薬物、アダラート、アムロジン(ノルバスク)、ペルジピン、バイミカード、バイロテンシン、ワソランなどはカルシウムチャンネル阻害薬と言われ、向精神作用を持つことが知られている。精神疾患でも特に双極性障害に有効である。

しかしながら、これらは使い慣れないと使いにくい薬物ではある。まして向精神薬も併用している精神科患者さんには、例えば頻脈性不整脈などに処方されるワソランなどは怖すぎる薬物といえた。元々、向精神薬にはQT延長などの副作用やそれほどではなくても若干の影響がある薬物も多く存在している。また精神科の患者さんは低血圧で悩んでいる人も多い。(参考

だから、僕はこれらのうちアダラートとアムロジン以外は処方しないことにしている。(引継ぎの場合は別)

一般に、カルシウムチャンネル阻害薬は第一選択の気分安定化薬に反応しない双極性障害、特に躁状態に有効である。カルシウムチャンネル阻害薬が躁状態になぜ有効なのかはまだよくわかっていない。カルシウムチャンネル阻害薬は血管平滑筋の電位依存性カルシウムチャンネルでのカルシウムイオンの細胞流入を抑制し、細胞内遊離カルシウムイオン濃度を低下させることにより血管を拡張させる。これにより降圧作用を示す。たぶん、精神科的には神経細胞にカルシウムが流入することを阻害することで、向精神作用を及ぼしているのであろう。

カルシウムチャンネル阻害薬は躁状態でも周期の短いタイプ、例えばウルトラ・ラピッド・サイクラーや反復性短期うつ病に有効といわれる。(ウルトララピッドに対する有効性は薬物によりやや異なる)

これらのカルシウムチャンネル阻害薬の構造式を調べるとわかるが、それぞれの構造式はあまり似ていない。そういうこともあるのだろう、ある薬物で無効だった人が異なる薬物で有効なことがあるという。リーマスに反応する患者さんはワソランにも反応するらしい。気分安定化薬の効果が不十分の時、補助的にも処方できる。カルシウムチャンネル阻害薬は全般に、躁状態により有効であり、うつ状態に有効とはされていない。ただうつ状態を悪化させることはないと言われる。(症例報告レベルでは、アダラートによりうつ状態になるという意見もある。)

最近発売された抗てんかん薬、ラミクタール(ラモトリギン、過去ログではラモトリジンと記載)は電位依存性ナトリウムチャンネル遮断作用を持つ。また軽度のカルシウムチャンネルへの作用を持つといわれている。ラミクタールは優れた気分安定化薬であるが、現在、日本ではてんかんにしか適応が認められていない。(参考

カルシウムチャンネル阻害薬のうち、ほとんどの薬物は半減期が短い。例えばアダラートの半減期は3.4時間である。ところが、アムロジンは半減期が長く33.8時間くらいである。

かなり以前だが過去ログに「男装の女性患者」さんが出てくる。彼女は双極性障害的な気分の周期(特に躁状態、うつはない)を持つ統合失調症であったが、最終的に以下の処方で落ち着いた。

ジプレキサ 5㎎
アムロジン 5㎎


彼女は高血圧があったので、これで必要かつ十分だったのである。

一般に、双極性障害的な統合失調症の患者さんは抗精神病薬に加えリーマス、デパケンR、テグレトールなどの気分安定化薬が併用されることがある。これはこれで良いのは良いが、やや服薬する錠数が増えるのが難点である。特にリーマスは抗精神病薬と併用によりEPSが出やすくなるようには見える。だから統合失調症の人にはリーマスは使いたくないが、どうしても使わないとコントロールできない人も存在する。シンプルに処方するためには何か工夫が必要とはいえた。

なお、ジプレキサ自体も双極性障害に有効といわれている。(参考

ジプレキサの双極性障害への適応(アメリカ)
双極性障害の躁状態    2000年3月
双極性障害の維持療法   2004年1月


個人的に、ジプレキサの気分安定化薬的作用は信頼性に乏しいと思う。双極性障害の色彩のある統合失調症の患者さんはジプレキサを服用していても、ある時、突然、躁状態で破綻することもないわけではない。

アメリカではジプレキサは双極性障害のうつ状態には適応がない(非定型抗精神病薬ではセロクエルのみ。2006年12月)。

彼女はジプレキサ5㎎とアムロジン5㎎で寛解状態に至り体重も10kg以上減少した。彼女は男装することもなくなったのである。その後、彼女は定年まで勤め上げ、現在は退職している。何を最近しているか聴いてみると旅行という。習いごとも始めたらしい。この旅行をするという所見が双極性っぽいのである。(参考

このジプレキサとアムロジンの処方は数学の解のように簡潔である。なぜか同じ5㎎だし。(謎)

参考
QT時間延長
男装の女性患者
躁のない躁うつ病
双極性障害適応状況(アメリカ)
IT従事者のうつ状態