統合失調症の寛解、就労、予後の謎 | kyupinの日記 気が向けば更新

統合失調症の寛解、就労、予後の謎

統合失調症は一般に慢性進行性と言われるが、長く診て来ている精神科医からみると、必ずしもそんな風に見えない。かなりのバリエーションがあると思う。

これは病型といえばそうなのだが、1つは統合失調症は単一の疾患ではないことを示している。また治療の仕方やその人の性格も予後を左右する。

過去ログで、セレネースからリスパダールに変更し、その後18年ぶりに増悪、ジプレキサで寛解状態に至った女性患者さんについて触れている。彼女はいくつものエントリで断片的に出てきている。(参考1参考2

彼女は高校時代から統合失調症に罹患しているし、病型的には稀に緊張病性の増悪を来たすタイプの破瓜型(解体型)なんだと思う。だから、徐々に空虚になるというか、陰性症状が進行し働けなくなってもおかしくはなかった。

しかし、このままいくと、どうみても彼女は定年まで働ける上、定年後も雇用延長してもらえそうなのである。彼女は若い頃からもし働けなかったら、間違いなく障害年金2級だったと思う。彼女は未成年で発病しているからである(参考)。

彼女の兄ちゃんは少し発病が遅かったために、働けないほどの重さなのに年金を受給できない。この差は非常に大きい。(国民年金を納めていれば100%受給できたであろう)

彼女は、当時からずっと継続して働いており厚生年金をずっと支払っているため、このままいくと65歳以降に普通に厚生年金が支給されるようになる。

僕は過去ログで薬物変更のために大変な増悪になったことをアップしているが、万一、あのまま復活できていなかったら、おそらく障害厚生年金申請の診断書を書き、就労期間が長いために付加金もつき結構な額をもらえたはずだ。もちろん、このような年齢で1ランク悪くなって長期入院になるのは非常に好ましくない。(薬剤変更にはリスクが伴う)

今はどのようにしているかというと、地方としてはまあまあ大きな会社で、それなりにバリバリ働いている。やはり彼女の場合、雇用環境も良かったんだと思う。(職場ではリーダーをしているようである)

これは性格、特に前向きであることも大きい。性格といってもいろいろな視点があり、彼女の場合、医師の指示をきちんと守る(つまり勝手に薬をやめたりしない)タイプだったのもある。彼女はセレネース時代はけっこう苦痛な副作用が出ていたのに服用し続けていた。

過去ログでは同胞に多くの統合失調症がおり本人も統合失調症の男性患者さんを紹介している。彼の場合、定年を過ぎても更に延長雇用で働いており、やがて真に引退するだろう。彼も全く障害年金を受給していないが、精神疾患を持つ兄妹のうち障害年金を受けていないのは彼だけである。

統合失調症はなぜか病勢の進行が突然、頓挫する(ように見える)人たちがいるようなのである。(参考

1人の女性患者さんの話だが、初診から診ている彼女は今は驚異的な復活を遂げ、大きな会社で接客の仕事をしている。これは接遇がうまくできないといけない。また他の業務内容も高度だし精神面もかなりレベルが高くないとできない。彼女の場合、まず一般人には精神疾患とは見抜けないと思うので、社会的には治っているのとほぼ同じだ。服薬はしているが。

今回のエントリに出てきた人たちは、みんなアドヒアランスが良い点で共通点がある。また、社交的ではないが、ある程度の協調性があるのも特徴だと思う。統合失調症の人の場合、このような経過になるかどうかは、病型を含め、治療内容、家族関係、経済的な状況などすべてが関係している。 

また、統合失調症になるような人たちはある意味、純粋なので、治療者との不思議な信頼関係が保たれることも見逃せない。そういう視点からいうと、初期の治療導入のありかたは非常に重要だと思う。


「不思議な信頼関係」とは、真の病識がなく薬と精神症状の関連すらわかっていないのに、薬を飲んでくれるみたいな・・(略)

治療を失敗した人だけ障害年金をもらえるなんて、なんだか間違っていると思う。仕方がないけど。

統合失調症と広汎性発達障害の違いだけど、統合失調症は無治療だと、水深2000mの深海1000mくらいに沈んでいる感じ。しかし、広汎性発達障害の人で、しかも施設に入っておらず見かけの障害が軽い人は、水深10mであがいているような感じだ。

統合失調症は初期に良い治療を行えば、水深1mまでは来られる。だから、顔が出せて息が出来るのである。(稀に10cmまで来ることもある)

しかし、広汎性発達障害の場合、深さはたいしたことがないが、実際、1000mも10mも当事者にとっては、息が出来ない点では変わりがないと思う。

広汎性発達障害は浮上には、種々の治療的なテクニックが必要で、10mしか深さがないわりに脱出が容易ではない。しかし、元々浅い所にいるだけに何らかのうまい方法があれば、ほぼ完全に脱出も可能だ。水深30cmくらいに来られる。

ただ、30cmに来られたとしても、社会的に、あるいは個性的にそういう色が残るのはやむを得ない。脳までは取り替えられないからだ。

広汎性発達障害の場合、まずいのは、だんだん悪い方向に行った場合、更に100mの深さとか、逆に行ってしまう事もあることだと思う。

疾患的に、どちらが治療が容易かは、現代の薬物療法や社会状況を見れば明らかであろう。

参考
1人目の女性患者さんについて

プレコックス感はなくなるのか?
アスペルガーと前頭前野
社会的な目線での統合失調症とアスペルガーの共通点
発達障害は統合失調症の免罪符ではない
アスペルガーと正常の間の人々(←この人は完治している)
待合室の若い女性患者
デパス0.5mgの謎