デパス0.5mgの謎 | kyupinの日記 気が向けば更新

デパス0.5mgの謎

数ヶ月前に、友人から20歳くらいの女性患者を紹介されたことがある。患者さんの引き継ぎなのだが、しばらく診たのち、診断についての意見を聞かせてほしいと言われた。僕が最初に診た時、処方はデパス0.5mg。これを就前に服用するだけなのである。

診断は統合失調症であった。カルテをみると、発病当初は自我障害症状がみられ、幻覚妄想の記載も多くあった。本人は非常におとなしい子で、僕が診始めた時は寛解していて、既に就労していた。

最も悪かった時期はインプロメン6mg程度が処方されていた。インプロメンという薬物は、このブログではあまり出てこないが、ブチロフェノン系のセレネース的な抗精神病薬であり、セレネースよりは副作用が少ない。現在では非定型薬物が主流になったので、出番が非常に少なくなった薬物の1つである。一時、パキシル、テグレトール、リスパダールが使われていた時期もあった。

デパス0.5mgになった経緯であるが、どうも、カルテを参照する限り、ある日、本人が他の薬を勝手にやめてしまい、そのまま様子を診ていてもたいして悪化もなく、仕事も続いているので、そのままになっているようであった。本人が飲まないものは仕方がない。今の処方のまま1年以上経過していた。

近況を聞くと、幻覚妄想はこの処方でも全く消退しており、わりあい働けているようであった。ただ、表情の動きなどを総合すると、非常に統合失調症の色彩が強いといわざるを得なかった。その友人にはまだ1回だけしか診ていないのでなんとも言えないが、「十分に統合失調症が疑わしい」と答えた。薬物に関しては今のまま様子をみるつもりだった。

その後、数回の診察のうちに、彼女は間違いなく統合失調症であると確信した。しかし、デパスだけで十分に安定しているのである。

なぜ、彼女はデパスだけで落ち着いているのだろう?

それはきっと統合失調症なのだが、非定型精神病的な要素があるからだと思った。発病当時だが、いわゆるシュナイダーの1級症状がすべて言ってよいほど揃っている時期がみられた。これこそ、非定型精神病的色彩なのである。(参考1

クルト・シュナイダーの定義した1級症状 
1.思考化声
2.批判的幻聴
3.ダイアログ(複数人の対話)形式の幻聴
4.身体への悪意ある行為や影響
5.思考伝播
6.思考奪取
7.作為体験
8.関連妄想・妄想知覚


最近、少し涼しくなってきたが今のところ全然変化がなく、今のところは安定している。数年単位で考えると増悪するようなこともあるかもしれない。

「デパス0.5mgを服用していること」についてだが、僕に言わせると、何も服用していないことに限りなく近い。特に彼女が統合失調症であるだけに。

ただ、彼女にとっては、「1錠の薬物を服用している」という意味で、それがデパスであろうと、リスパダールであろうと、ジプレキサであろうと変らないような気がする。彼女にとっては精神科の薬物を服薬していることに他ならないから。

彼女が、いろいろ服用していた薬物の中から、デパスだけ選んで服用しているというのは、僕にとってデジャヴなのよね。(デジャヴ=既視感)

僕は数年後ごとに、こういう人に遭遇している。デパスはちょっと不思議な薬だと思う。

あと、ちょっと思ったのだが、ある特定の薬物を服用しているからと言って、全然、診断は確定しないのよね。

抗精神病薬と診断は必要でも十分でもない関係なのがわかる。