名古屋駅西のシネマスコーレでの“若尾文子映画祭”、第2回上映の7本目の鑑賞作品となっ
たのは増村保造監督の1968年の映画『濡れた二人』。今回の企画上映で何とか見ようと考
えていた増村保造監督との“コンビ作”は、上映作品の4本をすべて劇場で鑑賞できました。

タイトルの『濡れた二人』を見ると、私の想念は懐かしき“日活ロマンポルノ”の世界へ飛んで
いきます(汗)。「濡れた唇」「濡れた標的」「濡れた欲情」「濡れた週末」などなど。1968年はす
でに大映倒産へのカウントダウンも、どこかで始まっていたのかもしれません。増村監督によ
る若尾作品も、少なからず扇情的なタイトルで客寄せを図っているような気がするのですが、
どうなんでしょう。もちろん「裸」描写もあります(笑)。シネマスコーレ(会員当日1,000円)。 

若尾文子映画祭パンフ


濡れた二人 
『濡れた二人』(1968年、監督/増村保造、脚本/山田信夫、重森孝子、原作/笹沢左保、撮影/小林節雄、美術/下河原友雄、音楽/林光)

野崎哲也(高橋悦史)と万里子(若尾文子)は共働きの夫婦で、子供はいない。哲也はテレビ
局、万里子は出版会社でお互いに忙しい日々を送っているため、毎年万里子は夫婦二人だ
けの旅行を計画するのだが、それが実現したことは一度もない。今回も仕事の多忙を理由に
旅行は中止しようという夫。万里子はそんな夫に腹を立てながら、ひとりで旅に向かいます。

伊豆の小さな港町にやって来る万里子。彼女は以前に実家で女中として働いていた勝江(町
田博子)の家の離れに身を寄せます。勝江の家族は彼女を歓待してくれますが、万里子の気
持ちは晴れません。漁港の組合長の事務所へ電話を借りに行き、夫と話をしますが、芳しい
返事はない。そこで昼間漁港で見かけた漁師の若者・繁男(北大路欣也)と再会します。

出会ってすぐに万里子の美貌に目を奪われたのか、組合長の息子で京江(渚まゆみ)という
婚約者がいるにもかかわらず、繁男は万里子に猛烈にアピールする。彼女のもとへ来ない
旦那より「俺の方が愛している!」の発言の唐突さに、場内で大笑いするオヤジがいました。

濡れた二人

仕事の多忙を告げるだけの夫との電話の様子を知る繁男は、その晩、友人の昌夫(平泉征)
を伴って万里子の部屋を訪れる。酒も入ってプライベートな話題にもあれこれ及ぶが、万里子
は繁男の遠慮のない態度に最初は驚き、やがてその素直さに好感を抱くようになる。そこへ
哲也から明日行くとの電報が届くが、繁男は哲也は来ないと断言し、万里子に愛を告白する。

繁男の直情的な言動に影響されたかのように、万里子は夫・哲也との結びつきを翌日の彼の
到着に賭けるのです。翌日、繁男のバイクに乗った万里子、昌夫のバイクに乗った京江は駅
に向かいますが、降りる乗客の中に哲也の姿はありません。繁男や京江の前では気落ちした
様子を見せない万里子は、その夜、夫に訣別の手紙を書きます(投函はしませんが・・)。

翌日、自ら繁男に小船に乗せてくれるように頼む万里子。泳げない身でありながら海に飛び
込み、助けてくれた繁男と体を重ね合います。このシーンでは一度コトを成した後、若尾さん
の口から「もう一度」の言葉があり、ちょっとしたジェラシーを感じてしまいました(笑)。しかし、
その日、勝江の家に戻れば夫・哲也が来ている。彼女は旅の出来事を夫に告白するのです。

濡れた二人 
 
旅の最初の夜は、地元の漁師の若者とお酒を飲み、翌日の夜はやってこない夫に失望して
別れの手紙を書く。そして、3日目の夜は久しぶりに夫に抱かれる。それで3泊4日の旅と共
に、万里子のアバンチュールは「旅の恥はかき捨て」のごとく終わってもおかしくないのです
が、それでは映画にならない(笑)。彼女はバス停で夫と別れて、ひとり港町に残るのです。

そして万里子が若い繁男と結ばれるかというと、そうはいかない。父親や婚約者の京江、さ
らには勝江らの偏見や妨害にあって、二人の愛は成就することなく終わります。激しい雨の
中、雨戸を開けたまま繁男の来訪を待つ万里子。赤いネグリジェ姿で香水を身にかける若
尾さん、ちょっと悩ましいシーンですが、取ってつけたような吹替えヌードも登場する(笑)。 

それにしてもこの4日目の夜、雨に濡れながら万里子を見つめ続ける繁男の心の動きや行
動が、まったく理解不能です。若い肉体と鋭い眼差しが印象的な北大路さんの演技も、失礼
ながらこの時点では“大根”の範疇といえます。それより何よりストーリー展開、シナリオに責
任があるように思いますが、最終的には全体を掌握すべき監督の責任であることは間違い
ない。若尾さんとの“コンビ作”の中では、鑑賞後に失望感の大きかった珍しい作品です。 


  若尾文子さん出演の増村保造監督・全20作品(すべて大映作品)

1957年 青空娘
1959年 最高殊勲夫人  氾濫  美貌に罪あり
1960年 女経 第一話/耳を噛みたがる女  からっ風野郎  偽大学生
1961年 好色一代男  妻は告白する 
1962年 爛(ただれ)
1964年 「女の小箱」より 夫が見た  
1965年 清作の妻
1966年 刺青  赤い天使
1967年 妻二人  華岡青洲の妻
1968年 積木の箱  濡れた二人
1969年 千羽鶴


濡れた二人 


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