あいち国際女性映画祭

今回の企画上映「増村保造監督×女優若尾文子」をコーディネイトした斉藤
綾子女史からは、各作品の上映前に簡単な作品紹介などがあった。1961年
『妻は告白する』から始まり、『「女の小箱」より  夫が見た』(1964年)、
『清作の妻』(1965年)と公開順に3作品。若尾文子を通して描かれたヒロイ
ン像の変遷から、増村保造の映画を捉え直そうとする意図はわかりやすい。

ただ、1日に3本の映画を見て、その後に講演(シンポジウム?)である。私も
そこまでは時間がないので、2本目の上映作品までのお付き合い。オープニ
ングの映像で「R18+」での上映になっているという、ちょっと信じられない映
画『「女の小箱」より 夫が見た』。見終えて思う。一体、夫が見たものは何、、、

 

 
(1964年・大映、監督/増村保造、原作/黒岩重吾、脚本/高岩肇・野上竜雄)

この映画はシネスコ・サイズのカラー作品。上映前の斉藤女史の説明にもあ
ったが、この画面サイズをフルに使った人物配置の構図が映画的な魅力を
生んでいる。テレビ用に編集された画像で、この映画の鑑賞はダメですね。

映画の中心になるのは二組の男女カップル。ひと組は川代誠造(川崎敬三)
と妻の那美子(若尾文子)夫婦。旦那の誠造は上場企業の株式課長で、株の
買い占めに忙殺され、家を空けることも多い。妻の那美子はそのことでストレ
スと不満を抱えている。そして、もうひと組はその株買い占めの張本人、事業
欲の旺盛な野心家・石塚(田宮二郎)とその愛人の西条洋子(岸田今日子)だ。

気晴らしに友人に誘われて出かけたバーで、その店の経営者の石塚と出会う
那美子。石塚は那美子が川代の妻と承知の上で誘惑する。一方、那美子の
夫の誠造も石塚の情報を得るため、彼の秘書であるエミ(江波杏子)と関係を
持っている。那美子がエミの存在を知った直後、彼女は何者かに殺される。

 

最初は夫のアリバイ作りのために帰宅時間を偽証する那美子だったが、その
ことで石塚が苦境に陥ったことを知ると、警察に真実を告げる。その結果、会社
での立場が危うくなる誠造。彼は石塚の那美子への好意を知った上で、那美子
に石塚に体を提供することで、株の買い占めから手を引くよう懇願してくれと妻
に頼み込む。那美子は会社人間の誠造の頼みを、離婚を条件に受け入れる。

そして、石塚と那美子は結ばれる。今までに味わったことのない女の歓びを知
る那美子。彼女の魅力にぞっこんの石塚も今までの野心家から、一転して恋す
る青年の趣きだ。彼は那美子の頼みを受け入れ、株を会社に買い戻させること
に同意する。夫との離婚も事前に取り付けているので、二人の未来には何の障
害もないはずだったが、そこに現れるのが石塚の長年の愛人の洋子なのだ。

映画の内容をまとめて見ると、一見ドロドロの男女の愛憎劇のようだが、那美子
と石塚の関係は意外に単純な「ボーイ・ミーツ・ガール」のドラマと思えてくる。若
尾文子が演じるヒロインに、女性の自我と情念を見る企画上映のはずが、その
女性の持つ妖しい奥深さを見せていたのは、実は岸田今日子だったということ。

そして逞しい裸体をスクリーンで見せる田宮二郎に対して、映画のオープニング
から豊満ボディの代役で巧みに那美子の「女」を強調する映画の作り手。女優・
若尾の演技力よりも、増村監督の演出力の方が強く出た作品という気がする。

 


ブログに書いた増村保造監督の作品
 『くちづけ』 (1957年、原作/川口松太郎、脚本/舟橋和郎)
 『妻は告白する』 (1961年、原作/円山雅也、脚本/井手雅人)
 『赤い天使』 (1966年、原作/有馬頼義、脚本/笠原良三)
 『遊び』 (1971年、原作/野坂昭如、脚本/今子正義・伊藤昌洋)
 『大地の子守歌』 (1976年、原作/素九鬼子、脚本/白坂依志夫・増村保造)
 『曽根崎心中』 (1978年、原作/近松門左衛門、、脚本/白坂依志夫・増村保造)