『カルチャーがゆく!』ももじろう2号の気ままブログ-080930_1247~01.jpg華岡青洲 

数年前までは仕事の関係で1年に数度は和歌山市に出張で出かけていました。地元・和歌
山ラーメンの人気店、井出商店や山為食堂に足を運ぶのはもちろんですが、プチお城オタ
クの私は紀州・和歌山城へも度々出かけております。ですので、城内の展示品の華岡青洲
の肖像画も何度も見ていて、その偉業についても、そのアウトラインくらいは知っています。

華岡青洲は家族の協力のもと麻酔薬「通仙散」を開発し、1804年ついにこの「通仙散」を使っ
て世界に先駆けて全身麻酔による乳がん手術を成功させた人物です。和歌山出身の作家・
有吉佐和子の小説がベストセラーになったことで、その名を広く知られるようになりました。

原作は未読ですが、増村保造が監督した映画『華岡青洲の妻』は以前にDVDで見ていま
す。青洲役の市川雷蔵、姑・於継役の高峰秀子と豪華な共演者でもありますから、今回の
若尾文子映画祭でスクリーン鑑賞することにしました。現代にも通じる嫁姑の対立を軸に、
青洲の功績を捉えている。脚本は新藤兼人。シネマスコーレ(前売5回券5,000円⑤)。

若尾文子映画祭 

華岡青洲の妻 
『華岡青洲の妻』(1967年、監督/増村保造、脚本/新藤兼人、原作/有吉佐和子、撮影/小林節雄、美術/西岡善信、編集/菅沼完二、音楽/林光、語り手/杉村春子)

紀州の名家・妹背家の娘・加恵(若尾文子)は、請われて華岡家に嫁いでいく。夫となる華岡
雲平(市川雷蔵)は医学の修業で京都暮らし。加恵は3年もの間、夫のいない結婚生活を送
らねばならなかった。しかし、雲平の母・於継(高峰秀子)は加恵にも優しく、その気品のある
美しさに幼い頃から憧れを抱いていた加恵には、その間の生活はつらいものではなかった。

やがて、雲平が京都から帰って来ると、加恵と於継の関係が大きく変わる。於継は妻の加恵
を押しのけるようにして雲平の世話をやき、加恵に孤独な思いをさせる。加恵は姑の於継に
対して、次第に敵意にも似た感情を胸に秘めるようになっていく。一方、父・直道(伊藤雄之
助)が亡くなり家を継ぐと、雲平は名を青洲と改めて、医学の研究にさらに没頭していく。

青洲の研究は、手術に際して使える完全な麻酔薬を作り出すことで、その研究は次第に進
み、猫や犬を使った動物実験ではほとんど完成の域に近づく。於継の冷淡な仕打ちに耐え、
逆に夫に対する愛情を深めていた加恵も娘を出産後は、夫の研究に協力をする。あとは人
体実験によって、その効果を試すだけだったが、それは容易に出来ることではなかった。

ある夜、於継は青洲夫婦の部屋を訪れ、自分を麻酔の実験台に使ってほしいと青洲に申し
出る。それに驚いた加恵は、自分こそ妻として実験台になると夫に迫り、嫁と姑が人体実験
の被験者を争うことに。意を決した青洲は二人いずれにも人体実験を施すことにする。実験
は成功するのだが、より強い薬を与えられた加恵は、薬の副作用により失明してしまう。

華岡青洲の妻

結婚後、3年間も夫婦生活がないというのは驚きですが、結婚式の際にも青洲は京都から戻
りません。このあたりは現代の感覚からすれば、やはり大きな驚きです。青洲が京都で医学
を身につけることは華岡家の一家の悲願で、本人も家族も必死に暮らしている感じです。

於継の娘である小陸(渡辺美佐子)や於勝(原知佐子)は、青洲の学資を稼ぐために自宅で
機織り仕事などもしている。やがて於勝は乳がんで命を落としますが、その際には青洲が自
身の無力感を妻に吐露します。これが青洲をやがて世界最初の全身麻酔による乳ガン手術
の成功に導く遠因になっている気もします。青洲の偉業の陰には、妻と母以外の協力もある。

家族の協力の中でも際立つ、妻・加恵と母・於継の献身的な行動。その背景に嫁姑の対立
を感じ取ったのは、有吉佐和子という作家のイマジネーションでしょう。200年以上前の江戸
時代の女性が、その思いや考えを公言したり文章に綴ったりする術はなかったでしょうから。
でも、現在は青洲の偉業には、失明までした妻の存在が大きいと解釈されるのでしょうね。

これほど劇的な嫁姑の対立が実際にあったとは思えませんが、二人の対立はこの映画の大
きな見どころではあります。『十代の性典』の私の記事にナカジマ&Tちゃんさんがコメントを
お寄せいただき、「若尾文子は大女優になりそこねた女優だと思っています」とありました。
遅れてきた若尾ファンを自認する私ですから反論すべきところでしょうが、この映画の高峰
秀子とがっぷり四つに組んだ芝居を見ると、やはり大女優の“凄み”は違うと感じます。

華岡青洲の妻 
 

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