名古屋駅西のシネマスコーレで開催中の「若尾文子映画祭・青春」です。これまでに劇場
鑑賞していない映画を見に行ってますが、本日は1953年の『十代の性典』と1952年の記念
すべきスクリーンデビュー作『死の街を脱れて』の2作品を記事化します。おそらく撮影時は
まだ十代と思われる若尾さんは、実に初々しいです。60年以上前の作品ですが、デジタル
映像により劣化も目立ちませんでした。 シネマスコーレ(前売5回券5,000円③・④)。

若尾文子映画祭 

十代の性典 
 『十代の性典』(1953年、監督/島耕二、脚本/須崎勝彌、赤坂長義、撮影/中川芳久)

この映画はセーラー服姿の女子高生たちの“性”にまつわる物語を綴った、いわば群像劇
です。「性典」なんて仰々しい表現を使っていますが、現代のスケベが横溢する時代から見
れば、実に可愛いものです。それでも公開当時はヒットをしたようで、本編の公開と同年に
『十代の性典』「續」「續々」と立て続けに製作され、さらに『十代の誘惑』なんて作品も。
シリーズ3作に出演した若尾文子、南田洋子は“性典女優”などと呼ばれることになります。

生理日の変調から体育を休んでいた西川房江(南田洋子)は、ふとしたはずみで同級生の
高梨英子(若尾文子)の財布を盗んでしまう。騒ぎが大きくなる前に、教師の温情ある対処
で救われる房江。一方、財布から英子あてのラブレターが発見され、それが学内では噂に
なるが、当の英子の“心の恋人”とでもいうべき相手は上級生の三谷かおる(沢村晶子)。

ここからは男女関係に大きなトラウマを抱えたかおるの物語が軸となる感じです。英子の傷
心をあとに卒業したかおるは、大学生の新田(長谷部健)と恋人として付き合いますが、体を
許すことはできません。そこに新田に好意を寄せる美大生の中津川麻子(津村悠子)が割り
込んで来て、やがて冬の諏訪湖へ向かったスケート旅行で不幸な事件を招くことになります。

十代の性典 
 
一方、問題を起こしてから不登校ぎみの房江は、路上で一万円の包みを拾う。すぐ届けよ
とは考えたものの、電気代の督促で集金人に頭を下げ続ける父(東野英治郎)の姿を見て、
千円を抜き出して渡してしまう。そのまま届け出ることもできなくなり、千円の穴を埋める方法
に心を痛めながら街を彷徨うことに。自身の肉体によってお金を得ることも考えるのだ。


鑑賞前に“十代の性典”の語感からイメージしたのは、戦後の開放的な雰囲気の中で、性的
にも自由に目覚めていく女子高生の明るい物語ではないかというもの。でも、これが実際に
作品を見ると、実に暗い話です。女性の道徳観とともに過去のトラウマに囚われたかおるは、
信州の湖で自死し、家庭の貧困にあえぐ房江は父のいる家を飛び出し夜の街を彷徨います。

その中で、ただ独り明るさを発揮しているのが、同性のかおるを愛してやまない英子を演じる
若尾文子です。一戸建ての家に両親と妹・弟と暮らす家庭は、当時とすれば中流以上なので
しょう。若尾さんの登場シーンは全編を通せば、さほど多くはありませんが、登場すればスク
リーンに華やぎが与えられる。若尾さん目線で見ている贔屓目のせいかもしれません。

                                                     

 
『死の街を脱れて』(1952年、監督/小石榮一、脚本/館岡謙之助、原作/五島田鶴子、撮影/姫田眞佐久、美術/仲美紀雄、音楽/伊福部昭)

昭和20年、日本が敗戦を迎える頃、大陸にとり残された満蒙開拓団の女性と子供たち。彼ら
の日本帰国をめざす過酷な日々を綴ったドラマですが、“死の街”というのが太平洋戦争末期
の中国とは想像できませんでした。過酷な物語の背景は小林正樹監督の『人間の絛件』と同
じですが、この作品は乳飲み子を抱えた母親や子供たちが一団になっての脱出行です。

開拓団の日本人集落で身を寄せ合うようにしている婦女子たち。婦人会長である俊子(細川
ちか子)が、日本人として潔く自決しようとその場にいる者たちに提言するものの、3人の子供
を抱えた朝子(水戸光子)は子供と一緒に自害することはできないと主張する。子供のために
最後まで生き抜く努力をすると誓い合って、女7人と子供7人の苦難の道程が始まるのです。

作品的には出演者の1番目に出ているのが水戸光子ですから、主演は彼女で間違いない。
4番目に若尾文子の名があり、その名の横に(ニュースター)の文字が添えられています。こ
の作品が彼女のデビュー作とのことですが、急病の久我美子の代役で出演した作品。祖母
(浦辺粂子)を伴った孫娘・節子の役ですが、少女っぽさを押し殺した役柄になっています。

脱出を図る一行は、山犬の群れに襲われる危機や食糧の枯渇に遭い、命を落とす者が次々
と出てきます。それでも温情のある中国人駅長や、貨物列車を運転する徴用日本人の八田
(菅原謙二)の決死的な行動によって、日本人の集結する新京へ到達するところで幕となる。

“記念すべき”若尾文子のスクリーンデビュー作というには、これまた暗く地味な物語です。代
役としての出演ですから、やむを得ない面もあるかと思います。ただ、まだ十代の駆け出しの
女優だから完全な“端役”かと思っていると、そうでもない。一行が危機に陥った時には、われ
先に登場し、表情アップのカットも多いです。そして、終盤になぜか独りで湖で水浴シーン!
少女を押し殺してきた彼女が“女性らしさ”を発揮したシーンですが、目が釘付けでした。



にほんブログ村