名古屋駅西のシネマスコーレで開催中の若尾文子映画祭・青春”も、その上映期間は半ば
を過ぎました。上映開始前に購入した5枚綴りの前売り券も使い切ってしまったので、これか
らは会員の当日料金で見ることになります。とはいえ、この特集の会員料金は1,000円です。

若尾作品6本目の鑑賞映画は、増村保造監督の1959年の現代劇『最高殊勲夫人』。源氏鶏
太の小説を白坂依志夫が脚本化している点では、増村監督と若尾文子のコンビ作の第1弾
『青空娘』(1957年)と同じです。東京・丸の内を舞台にした昭和30年代のオフィス・ドラマ(?)
は、当時の世相や風俗も映し出し、興味深いです。シネマスコーレ(会員当日1,000円)。

若尾文子映画祭 

最高殊勲夫人 
『最高殊勲夫人』(1959年、監督/増村保造、脚本/白坂依志夫、原作/源氏鶏太、撮影/村井博、美術/下河原友雄、音楽/塚原哲夫)

東京の丸の内にオフィスを構える三原商事の現在の社長、三原一郎(船越英二)は営業部
長時代に秘書の野々宮桃子(丹阿弥谷津子)と社内恋愛で結婚している。そして映画の冒
頭はカクテル・パーティ形式の結婚披露宴。新郎は一郎の弟・二郎(北原義郎)で、新婦は
桃子の妹・梨子(近藤美恵子)である。三原商事の営業部長と秘書の恋愛結婚が二度繰り
返され、三原家の兄弟と野々宮家の姉妹が結ばれる結婚も繰り返されることになる。

そこで登場するコンビ、三原家の三男・三郎(川口浩)と野々宮家の三女・杏子(若尾文子)。
社長夫人になった桃子はこの二人もできれば夫婦にしたいと、いろいろ画策しはじめます。
その思わくを察知して、他の商事会社に勤務する三郎と、短大を卒業したばかりの杏子は、
絶対に結婚をしない“協定”を結びます。三郎には勤めている会社の社長令嬢という恋人が
いますが、杏子には恋人がいないため三原商事の社長秘書になり、恋人探しをすることに。

会社に出勤しはじめるや、美貌の杏子に独身男性が色めき立ち、彼らとの結婚を目論んで
いた女性社員は面白くない。そんな恋のさや当てや杏子へのブーイングなど、社内にひと騒
動が起きる中、三郎の恋人の兄・武久(柳沢真一)も杏子に惚れてしまう。武久は定年を迎え
た杏子の父親(宮口精二)の就職先まで探し出してきて、彼女の気を惹こうとするのだ。

最高殊勲夫人 
 
この他に笑いを誘うエピソードとして、社長・一郎の恐妻家ぶりと浮気未遂(?)があります。
そういった会社と身内の問題を気安く相談し合うようになった三郎と杏子は、やがてお互い
のことを好きだと気づくわけです。そしてエンディングは再びパーティ形式の結婚披露宴と
なり、記念写真を撮る二人が変顔でストップモーション。その画像で映画は終わります。

嫌みでいうわけではありませんが、本当に伸びやかで屈託のない二人です。作品的には社
長夫婦のドタバタが目立ちますが、結婚をしない“協定”を結びながら、最後はあっさり結婚し
てしまう二人。“マッチポンプ”のようなその振る舞いは、映画だからこそ許されることでしょう。
ロカビリー喫茶(?)の騒音の中、大声で愛を告白し合う二人に微笑ましいものを感じます。

丸の内のオフィスビル、のどかな屋上の昼休憩。退社前にはデートの約束のOLたちがトイレ
の化粧台に群がり、ビルの地下の飲食店には行きつけのトンカツ屋や喫茶店が賑わってい
る。当時の日本の先端のオフィス街で、OLたちが目指すのは将来有望な男性社員を射止め
て“寿”退社をすること。昭和30年代早々の日本には、まだ経済成長の波は来ていないです。

増村保造監督の作品としてはコミカルな味わいを織り交ぜた、ハイテンポでモダンな都会劇
です。個人的には二人のコンビ作では『清作の妻』(1965年)や『華岡青洲の妻』(1967年)の
ようなモノクロで“女の情念”を描いた作品が好きですが、それとは異質な軽いタッチの現代
劇もいいですね。増村監督はその作品世界の“振幅”を楽しめる映画監督といえます。


最高殊勲夫人 これがラストのストップモーション!
 

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