働く女性たち…「セリ畑の女 平時子」千年の池 駆け込み寺居酒屋ポン吉 42話
江戸時代の絵地図を見るとJR西大路駅辺りは「西七条村」とあった。そしてこの西七条村の特産品は「セリ」でこのせりは水田で育てられていた。私の子供のころはこのセリ畑が無数にあり、その畑の中の小魚などを獲って遊んでいた。その小魚はセリ畑でしか育たないという国の天然記念物でもあったが、そのセリ畑も最後の一つとなった。
私はJR西大路駅近くにあるセリ畑農家は他にも野菜を栽培しているので九条ネギやブロッコリーを居酒屋の食材としてよく買いに行っていた。いつもは70歳前後の男性が農作業をしていたが、この日は若い女性が腰までのゴム長クツを履いて水田で作業をしていた。この畑では野菜はすべて100円単位で代金は缶の中に入れるシステムになっていた。
ところがいつもの野菜が台の上にないのでその女性に声をかけた、その女性は25歳前後の色白の美人だった。日差しが強いのか顔の化粧もかなり濃くて音吉の好きなタイプだった。女性は水田の中から、
「すいません、この畑の私のおじいさんが脳梗塞で倒れて入院中なんです…」
「それはそれは、あの~お孫さんですか?」
「はい、それで私がこの畑をしているですが、何かほしいものがあったらいってください」
「それではあっちの畑のブロッコリーを3個ほど…」
それを聞いたこの孫娘は畑からでようとするが足が土から抜けずに四苦八苦していたが、その瞬間に頭と顔を水田の中に突っ込んでいた。音吉はそれを助けようとして水田に入ったが二人とも倒れて濡れネズミになっていた。音吉がその孫娘に家はどこかと聞くが、家はここから遠い男山八幡だという。そこで音吉が孫娘が乗って来た軽トラを運転して音吉のマンションで風呂に入れていた。
そして店のママに電話して大至急女性用の下着一式と服を持ってきてほしいと頼んでいた。このセリ畑というのは綺麗な水で音吉は風呂には入らず着替えをしてママとその孫娘を部屋に残して店の開店の準備をしていた。やがてママが出勤してきた。ママの幸子は、
「あの人、25歳で「平時子」さんていうらしいの?」
「平時子ってあの平家でなくては人でないといった平清盛の正妻であの辺りにあった平清盛の八条御殿に住んでいたと歴史にはなっているが…」
「そう、その平家の末裔で平家が源氏に負けた後、御殿は源氏につぶされて庭園の池の水はセリ畑に利用されたといっていたわ」
「そうか~それであのセリ畑が平家最後の遺跡として今も平家の末裔が守っているのか」
その夜、音吉が店を閉めて我が家に帰るとそのマンションの部屋の前には白い着物を着た若い女性が立っていた。音吉が顔を見ると今日の昼間のあの時子さんだった。時子さんは、
「今日はどうもありがとうございました。お礼に安芸の宮島の酒蔵が作った「千年の池」という銘酒をお持ちしました」
「いや~それはそれは、寒いですからまずは中に」
こうして音吉と時子はその日本酒で乾杯をしていた。時子は昼間よりもさらに透き通るような綺麗な肌でその着ている着物も平安時代調でマンションの部屋というのを忘れるほど雅な気分になっていた。やがて二人は愛し合うが、それは今まで音吉が体験したことがないほどの快感の波の連読に音吉は思わず声をあげていた。やがて朝になったが、その時子は帰ったのか姿はなかった。
その日の夕方に音吉は幸子と一緒にあのセリ畑にいった。そこには時子さんが乗ってきて音吉が運転した軽トラがあった。しかし、時子さんの姿はなくいつもの農家の老人が畑仕事をしていた。音吉は農家の老人に、
「あの~もう退院されたのですか?」
「あん?何をいっているの?わしはまだ一度も入院などはしたことがない」
「へえ~?おじさんは平さんですネ」
「いえいえ、わしはこの唐橋の井上といいますが…」
「お孫さんの時子さんは?」
「そんなものはいない」
音吉は狐か狸に騙されたのかと思いながら、近くの平清盛ゆかりの「若一神社」に行った。その宮司にその昔にここで住んでいた平清盛の正妻の時子さんの絵なんかの史料があるかと聞くと、宮司はここにはないが、京都国立博物館にはある。その国立博物館が発行している本にその時子さんの絵の写真があるからと見せてもらった。
その絵には「平清盛の正妻、時子」と書いてある。その絵を見ると十二単姿の時子がこちらを笑顔でみている。その時子さんと目があった瞬間にその時子さんは音吉にクインクをした。そして音吉の頭の中で時子さんが、
「夕べはありがとうございました。また、時々遊びにいってもいいですか?」
「それはいいが…時子さんは幽霊ですか?」
「あら、音吉さん、幽霊はお嫌い?」
もちろん横にいる幸子にはこの会話は聞こえない、しかし、音吉の顔がゆるゆるにゆるんでいるので何かを察したのか、
「音吉どん、こんな神社は大嫌い!早よ~帰りましょう」
と、時子に挑戦するように幸子は音吉の手をしっかり握っていた。
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