ハート働く女性たち…「老人女装の玉ちゃん」…駆け込み寺「洋風居酒屋 ポン吉」21話

JR西大路駅近くにある「洋風居酒屋 ポン吉」の常連客は最寄りの駅から近い会社の社員は少なくこの地域の商売人や定年退職した中高齢者が多い。この店のマスターの音吉も68歳でそんな地域密着型の居酒屋をしたいと6年前からこの居酒屋を始めていた。もちろん当初はホステスさんなんかを雇う気はさらさらなく音吉が一人で料理と接待をしていた。

ところが今ではこの店のことを「キャバクラ ポン吉」と呼ばれるような色気のある店になっていた。そうなると音吉はもう店でする仕事はなくなり開店前にママの幸子から頼まれた料理の材料やトイレットペーパーを買いにいく程度で店が開店と同時に家に帰っていた。その開店前に常連の74歳の玉村芳樹という会社社長が店に入って来た。

この玉村は玉ちゃんと呼ばれていたが、その玉ちゃん、
「マスター、少し店の中で着替えをさしてほしいと」大きな紙袋を見せている。
店の開店は午後5時半からでまだ30分はあるからと気持ちよく応えていた。

その玉ちゃんはテーブル席に大きな手鏡を置いてなにやら化粧を始めた。玉ちゃんの顔は皺だらけでどんな欲目で見ても「お化け」にか見えない。それを察した玉ちゃんは、
「マ、マスター、今夜は女装の集まりがあって家で着替える時間がなかったので会社から直行してきたの…」
「へ~玉ちゃん、最近ここら辺りで噂になっているオカマちゃんは玉ちゃんだったの?」
「そうかも…でも、善良な市民を脅かすわけにはいかないから私はいつも移動はタクシーなの、そのタクシーを待つ間にパン喫茶のママに見つかって、そのママが客に広めたの…」

そうこうするうちに顔が完成したのか頭にウイッグを付けてこれまた豪華な真っ赤なドレスを着ていた。音吉は何を思ったのかスマホで玉ちゃんの顔や全身を撮っていたが、玉ちゃんはそれを拒否しなかった。そこで音吉は玉ちゃんに、
「あの~これを店の女の子や客に見せてもいいのか?それに店の掲示板にも載せていいの?」
「あらマスターも興味あるの?いいのよ、でも、この格好で店に来てもいい?マスター」
「いゃいゃ、それは個人の自由だからいつでも玉ちゃんを歓迎するよ!」
「それなら、女装の集会の帰りに仲間を誘ってきます。ホホホ」

この話は店の掲示板を通じて京都市内の常連客や近所のこれまた常連のOLたちで店は満員御礼の立飲み状態でこの玉ちゃんの出没を心待ちしていた。もちろん女装といっても綺麗処でないのは掲載された画像でわかるからその期待はなかった。店の前にタクシーが着くとそこから3人の女装が店に入って来たと同時に全員総立ちで拍手で迎えていた。それを受けるように3人の老年女装はドレスをひらひらさせながら踊るというパフォーマンスに酔いしれていた。それをまた客らはスマホのカメラでパチパチ撮っていたからこの玉ちゃんらの3人は一夜にしてこの西大路駅界隈の有名人になっていた。

その玉ちゃんはあくる日には普通の姿で現れた。そのカウンターにたまたま同席していた駅前の上場企業でもあるランジェリーメーカー「フラワー」の女子社員がいた。その娘は28歳の詩織で会社では女性下着のデザイナーをしているという。その詩織が玉ちゃんに相談をしていた。
「あの~私も昨日の玉ちゃんらの画像を掲示板で見せてもらいました」
「あらら、そら~お恥ずかしいのを見てもらってありがとう」
「その~実は私の父が私の下着を勝手に履いているらしいのです…なんていうのか…こんなことを他人に相談もできなくて…それで…」
「それで…変態の私に相談ですか?この女装の趣味といっても色々あってネ~私も最初は首下女装でブラとパンティーだけでした。それが妻や娘に見つかって家を追い出されて今は会社近くのマンションで一人暮らしをしています」

「そうでしたの~私も母もあの画像を見て笑ったけれども父を許せません」
「ですよね…私の妻も娘もそうでした。でもね~あの性癖というか趣味はなかなか治らない物です。それでも我慢して下着だけという男性のなんと多いことかと私も感心しています」
「そうなの~だからといって父と母の離婚も…」
「そう、こんなことぐらいで離婚してもお互い不幸になります。どうです一層の事、お父さんの女装を家族で楽しんだら?」
「えっ…そんなこと…」
「でも、さっきは私の女装を笑ったといっていたでしょう。一度、お父さんの女装で笑って見ては?」

詩織がそれなら近い日にフラワー社内販売というのがあってブラやパンティーが市価の10~30%程度で売られるが、その時に詩織がデザインしたブラとセクシーパンテイーを数枚買って父に身に付けてもらうという約束をしていた。そして数日後に詩織からメールがあって「洋風居酒屋 ポン吉」で会うことになった。詩織は、
「これ、私のデザインしたブラとショーツなんですけど玉ちゃんとマスターに3組ずつプレゼントします」
当然ながら玉ちゃんは喜んだが、音吉はそれを手に持ちながら顔を赤くしていた。詩織は、
「マスターそれを付けて見て…きっと世界が変わるから」といっている。

そこで玉ちゃんが、
「どうでしたお父さん?」
「そら~娘がデザインした物をプレゼントしたものだから喜んだわよ~」
「いゃ、そうではなくて、その~あの~」
「あぁ~母ね~そら~涙を流して笑いころげていたのよ~父がポーズをとって母がスマホでパチパチ写真を…」
「ほう、それはよかった」
「それに母と私でお父さんの顔を化粧したのよ!ほら、これ」

そこにはこれもお世辞でも綺麗な顔とはいえない詩織のパパがVサインをしていた。そのパパがこの店にも来たいといっているのですが…
「マスター、玉ちゃんも私の父を仲間に入れてくれますか?」
それには玉ちゃんは大歓迎としていたが、音吉は、
「いゃいゃ、その私はその気はないし…仲間と呼んでほしくはない」
「マスター、何をいっているのその私のパンツを一度履いてから判断して見たら?」
「………………」

その後、この西大路駅界隈では「洋風居酒屋 ポン吉」のことを「オカマBAR」とか「お化け屋敷」と揶揄されていたにも関わらず、この地域に勤める若いOLの大人気の店になっていた。
 

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