『養生訓』 中国の医学書にある薬量(巻七33) | 春月の『ちょこっと健康術』

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「中国の医書に、薬剤の分量が記されているものをみると、八解散(はちげさん)など、毎服二匁(もんめ)、水一盞(さん)、生姜(しょうきょう)三片、棗(なつめ)一枚を煎じて七分めにする。これを一昼夜に二~三服にして用いるとある。あるいは別の方法では、毎服三匁、水一盞半、生姜五片、棗一枚を一盞になるまで煎じて、滓(かす)を取り除くという。

 香蘇散(こうそさん)などは、一日に三服で、まれに滓を一服として煎じるというが、多くの場合は滓を取り去るという。

 人参養胃湯(にんじんよういとう)などは、毎服四匁、水一盞半、生姜七片、烏梅(うばい)一個を、七分めまで煎じて、滓を捨てる。

 参蘇飲(じんそいん)は、毎服四匁、水一盞、生姜七片、棗一箇を、六分めになるまで煎じる。

 霍香正気散(かつこうしょうきさん)や敗毒散(はいどくさん)は、毎服二匁、水一盞、生姜三片、棗一枚を、七分めに煎じる。悪寒が強いときは熱くして飲ませ、熱が高いときは温かいものを服用させるという。

 これらすべて、薬剤一服の分量は多く、水の用量は少ない。そうであれば、煎湯はかなり濃くなるはずだ。日本での煎じ方が小服であって水が多いことと比べ、大いに異なるところである。

 『局方』に「小児には半餞(せん)を用ゆも、児の大小をはかって加減す」と書かれている。また、小児の薬方は、毎服一匁、水八分を、煎じて六分めにする、といっているものもある。

 『医書大全』には、四君子湯(しくんしとう)の処方のあとに、「右きざむこと麻豆の大の如し。毎服一匁、水三盞、生姜五片、一盞に至るまで煎ずる」とある。これは、一服を十匁に合わせたものだ。水ははなはだ少ない。」


方剤を煎じる際の薬量と水の量を日中比較して、日本では煎じ薬が中国に比べると薄いとおっしゃっています。これについては、「薬の量」 にその理由を分析されていて、「日本人の薬量」 では「それにしても少なすぎるんじゃないの?」との批判もあり 、それでも「日本人に合った薬量を」 とまとめていらっしゃいます。


日本で使う薬の量については「補薬の分量」「利薬の分量」「小児の薬量」 に、作り方については「薬の煎じ方と飲み方」 にありました。ざっと比較してみると、


1服の薬量: 日本 1~2匁  中国 2~4匁

使う水の量: 日本 1.5~2盞  中国 1~1.5盞

仕上がりの量: 日本 1~1.5盞  中国 6~7分め


中国では、日本と比べて、薬量が倍、水の量が50~75%、仕上がりが半分くらいとなると、煎じる時間も長いでしょうし、薬の濃度はまったく違いますね。


『局方』とは『和剤局方証類』のことで、『医書大全』ともに「医学生の読むべき書」 にリストされていました。『局方』については「利薬の分量」 に、『医書大全』については「日本での医書の発刊」 に解説があります。


八解散(はちげさん)は、胃腸が弱く、下痢、嘔吐、発熱、食欲不振のいずれかを伴うカゼ症候群の薬。人参(にんじん)、蒼朮(そうじゅつ)または白朮(びゃくじゅつ)、茯苓(ぶくりょう、半夏(はんげ、陳皮(ちんぴ)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、生姜(しょうきょう)、かっ香(かっこう)、厚朴(こうぼく)が入っています。


香蘇散(こうそさん)は、「漢方のかぜ薬は葛根湯だけ?」 でご紹介していますが、胃腸が弱く神経質で気分がすぐれない人のカゼの初期症状に使われる方剤。これに入っているのは、香附子(こうぶし)、蘇葉(そよう)、陳皮(ちんぴ)、甘草、生姜です。


人参養胃湯(にんじんよういとう)は、おそらく人参養栄湯のことかと思います。だとすれば、病後や体力の衰弱した人で、疲労倦怠感、精神不安、食欲不振、寝汗、貧血、手足の冷えなどに使われる方剤で、 人参、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、地黄(じおう)、蒼朮または白朮、茯苓、桂皮(けいひ)、黄耆(おうぎ)、陳皮、遠志(おんじ)、五味子(ごみし)、甘草が入っています。


参蘇飲(じんそいん)は、胃腸虚弱な人のカゼ薬で、入っているのは、蘇葉、枳実(きじつ)、桔梗(ききょう)、陳皮、葛根(かっこん)、前胡(ぜんこ)、半夏、茯苓、大棗、生姜、甘草、人参、乾姜、木香です。


霍香正気散(かつこうしょうきさん)は、暑さによる食欲不振、夏カゼ、下痢などに用いられ、白朮、半夏、茯苓、厚朴、陳皮、桔梗、白芷(びゃくし)、かっ香、大腹皮(だいふくひ)、大棗、生姜、甘草という処方です。


敗毒散(はいどくさん)は、荊防敗毒散として、急性化膿性皮膚疾患の初期に用いられています。荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)、羌活(きょうかつ)、独活(どっかつ)、柴胡(さいこ)、薄荷葉(はっかよう)、連翹(れんぎょう)、桔梗、枳殻(きこく)、川芎(せんきゅう)、前胡、金銀花(きんぎんか)、甘草、生姜という処方です。


四君子湯(しくんしとう)は、体力が低下してやせて顔色が悪く、食欲がなく疲れやすい場合の胃腸虚弱、慢性胃炎、胃のもたれ、嘔吐、下痢などに使われる補気剤の代表で、人参、蒼朮または白朮、茯苓、甘草、生姜、大棗が入っています。


『養生訓』の原文はこちらでどうぞ→学校法人中村学園 『貝原益軒:養生訓ディジタル版』


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