老人は、虚ろな目をしてベンチに座っていた。

小高い場所にある住宅街。

その片隅に、置き忘れられたような小さな公園がある。

そこが老人のお気に入りの場所なのか、毎日、ほぼ日中をその公園のベンチで過ごしていた。

 雨の日も、傘をさして、ベンチに座っている。

 人通りもなく、訪れる人も滅多にいない公園なので、老人の姿が目立つことはなかった。

 公園には街灯がないので、陽が落ちれば暗くなる。

 その頃になって、老人はようやく腰を上げる。

 毎日、なにを想っているのだろうか。

 この公園に、なにか思い入れがあるのだろうか。

 虚ろな目が、時折ふっと和むことがある。

 もしかしたら、子供達が小さかった頃、よくここで一緒に遊んだのかもしれない。

 あるいは、妻とこのベンチに腰かけて語らっていたのかも。

 ある日、比が暮れても、老人はベンチから立ち上がることはなかった。

 老人はベンチに座ったままで、安らかな眠りについていた。

 老人の顔は、幸せそうに笑っていた。

 きっと、最後に、とびきりの想い出が蘇ったのだろう。

 

 

 

 

 

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