NOTE/大野輝之&レイコ・ハベ・エバンス著「都市開発を考える」・・・(4)
領家工場街~榎木橋(埼玉県川口市にて本ブログ管理者2009.12.4撮影)
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★オフィス立地が規制されると、都市は衰退するか?<下掲書pp..151-155>
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インナーシティ地域の住民の主要な雇用の場は
オフィスではなく、工場であり、
この地域の失業の増大はオフィスの立地が抑制されたことによってではなく、
工場の減少によるもの…
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減少の産業別内訳をみると、
減っているのは製造業と建設業という第2次産業であり、
サービス業の雇用は増加している。
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英国(ロンドン)において、、、
ODP(オフィス開発許可制度による立地制限)が適用された
1965年8月から1976年3月までの期間で、
オフィス開発の申請総面積の7割に対しては開発許可がなされているし、
許可されたオフィス量は、ODP制度導入前の2倍以上に達している。。。
↓
賃料水準は需給バランスで決まるのだから、
かりにロンドンの衰退が生じるほどの企業流出が進むなら、
そもそも賃料の高騰が発生するはずがない。
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(実際には多くのディベロッパーが空室率の低下につながるODPを歓迎)
:
ロンドンシティに立地する外資系銀行の数を見ると、
1965年(103行)⇒1974年(244行)・・・倍以上に増加!
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ODPが実施されていた期間は、むしろ・・・
ロンドンにおける「国際金融センター」としての役割は、逆に強化された。。。
★書誌情報・・・
大野輝之、レイコ・ハベ・エバンス著「都市開発を考える-アメリカと日本」
(1992年、岩波書店/岩波新書・新赤版215)
:
林立する高層オフィスビル、遠くのマイホーム、破壊される景観・自然・・・。
日本の都市開発は、なぜ生活の質の向上に結びつかないのだろうか。
サンフランシスコなどアメリカ各地の具体例を通して、
徹底した市民参加の手法、
「成長管理」という新しい発想を紹介し、人間の暮らす場を目指した
都市づくりへの指針を明らかにする。。。。。(表紙カバーより引用)
建設投資の中心は住宅…(東京都日野市にて/本ブログ管理者2010年1月撮影)
★オフィス開発を規制した場合における都市経済への影響<pp..157-165>
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①直接的な影響
:
オフィス開発の減少分だけ建設投資が減り、
それが産業間の連関を通し、他の産業も含め都市総生産の減少を招く
:
②従業人口の増加抑制
:
都市経済の成長率を引き下げる
↓
しかしながら、、、
↓
【東京の場合】
↓
①についての検証
:
都内総生産を産業別に見ると、建設業の比重は7~8%に過ぎない
また、
都内で行われる建設投資のなかで、オフィス建設が占める比重は
オフィス開発の1大ラッシュが起きた1980年代後半でも16~18%
(通常は1割前後に過ぎない)
↓
建設投資の中心は何といっても住宅である。
:
②についての検証
:
東京区部には1985年の時点ですでに668万人という膨大な従業人口が存在
↑
大阪(233万人)+名古屋(132万人)+横浜(115万人)+京都(78万人)+
神戸(66万人)+川崎(49万人)の、6大都市合計従業人口に匹敵!
↓
なので、
かりに従業人口の増加がストップし若干減少しても、
それによって東京経済が、即、衰退に繋がることは考え難い。
従業人口増加が抑制されても、生産性向上による成長は可能だから、
成長率は鈍化するとしても経済成長は可能・・・
↓
肝心なのは、
東京に暮らし働く人の生活の質であり、全国に占める東京のシェアの大小ではない
【サンフランシスコの場合】
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(サンフランシスコ市都市計画局が行った調査)
1985年から1990年の間に、
金融や通信分野では、バックオフィスが市外に転出したために、
数千人分の雇用が失われたが、
観光関連などの分野で新たに1万6000人の雇用が生み出されたので、
全体としては雇用は増加
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適切な開発の制御により
都市の魅力と
生活の質を高めていくことが
都市の長期的な発展を保障する。
■修景事業により資産価値(地価)を維持している三重県伊勢市宇治地区
★ヒューストンの「変心?」…【p.166】
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(かつて、ゾーニング=都市計画による建築用途指定が設定されていない都市…)
住民はもはや、市場の力が
通りの向こうの空き地をホテルや素晴らしい超高層ビルにしてくれるなどとは
信じていない。
(1991年1月、ヒューストン市議会が満場一致でゾーニング条例の制定を決定)
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他の都市と「生活の質の問題」で競合しなければならない…
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経済が好況にあろうと不況にあろうと、
都市開発を都市の質と、住民生活の向上に寄与するものにするためには、
適切な(都市=市街地発展の)制御が不可欠・・・
都市開発の制御を短期的な経済活性化政策に従属させ、
不況対策の名の下に野放図な開発を許してしまえば、
たとえ一時的には高い成長率が実現されたとしても、
都市景観や都市環境が破壊され、中長期的には都市経済の発展も阻害する。。。
★ボールダー(コロラド州デンバー近郊の小都市)・・・【p.168】
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「美しい街並み」によって、
コロラド州の他の都市が経済不況に苦しんでいるときに、
安定的な都市経済を維持するのに成功…
↓
開発制御により
都市の魅力と
生活の質を
高めることこそが
どのような場合においても
その都市の安定的な発展の道
開発業界も、
成長の制限が都市の魅力的な環境を保全することにより、
不動産の価値を高め経済力の高さを維持する、
という議論をある程度まで受け入れるようになってきているのだそうだ・・・・・
*
たとえば、京都・・・【p.171】
京都経済の活性化のためには、
高さ制限を取り払って土地の高度利用が必要だという意見がある。
しかし、
古都京都が高層ビルの乱立する都市になってしまったら、
誰がそこを訪ねようとするだろうか。
京都の景観は、京都の最大の財産である。
これを破壊するような都市づくりは、
たとえ短期的に高い都市成長をもたらしたとしても、
長期的な視点からは都市の衰退に道を開くものになるのではないか(筆者意見)
*本ブログ内関連記事
↓
■NOTE/大野輝之&レイコ・ハベ・エバンス著「都市開発を考える」・・・(1)
■NOTE/大野輝之&レイコ・ハベ・エバンス著「都市開発を考える」・・・(2)
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