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同居人の話と、そして目を疑うべき話(Re ver)        とリンクしております。



 椿のその『症状』がはっきり出たのは、浮遊大陸だった。
 フーナはともかく、『諷雫』からすれば故郷で慣れている上下への移動が激しい場所。
 一緒に探索に出ようと誘った時、おそらく『椿』には少しだけ自覚症状があった。けれど諷雫が心配すると思って、また何度も断ってる負い目で応じてくれた。
 そして、事件は起きてしまった。
 諷雫が歩いていた足場が崩れ、隔離された状況で凶暴化した龍族に襲われたのだ。
 マンルーンが即座に助けに来てくれたし、浮遊大陸ではよくある罠だったので即応した諷雫に大した怪我はなかった。
 が、椿は目の前で諷雫の姿が消えた瞬間にパニックに襲われてしまった。
 その時の緊急事態がなければ『症状』は表面化しなかったかもしれないが、もう後の祭りだ。
 以来、椿は諷雫と一緒に探索に出ることに異常なまでに怯えるようになり、元々緊急事態や情報に敏感な方だったが、それが更に加速してしまった。
 諷雫が探索に出る時には誰と行くか念入りに確認するようになり、椿と諷雫の二人だけでの探索は即座に却下。情報は速やかに収集、整理して諷雫に送るようになった。
 一緒に散歩をしたり、短い時間の探索で慣らしてはいるが、緊急事態や合流しての探索は完全にアウト。連れ立つ相手が明らかに実力不足の時はさりげなく増援を送るようにまでなってしまった。
《現状解除パスが発見できない状態で、アークス本部との通信も出来ません》
 ましてやこんな状況下、合流してなくともパニックになるのは当然だった。
《テレパイプが近くにあるなら、マスターは至急戻って》
 ――と、とにかく冷静に。大丈夫って伝えて落ち着いてもらわないと。
 もっと冷静なら、きっと諷雫も落ち着いて対応できただろう。
 しかし、慣れ始めてるとは言え、諷雫は精神の大半を『謳う』ことに持って行かれていた。
 結果、出てきたのは。
《それなら大丈夫です。通信が出来ないのは、承知の上でしたから》

 ――護る為に、私はここにいる。

 安心させる言葉ではなく、諷雫の覚悟だった。
「……ソラシズク殿」
「フーナさん、それ――どこが大丈夫か私にもわかりませんわ」
「……あ」
 諷雫を守りながら戦闘していた二人に指摘されて、気づいた時にはもう遅かった。
《何考えてるんですか!》
 諷雫の覚悟なんて、椿の不安にとっては起爆剤でしかなく。
《どうしてそんな状態なのに来るんですか!》
 聞く人によっては「死にに来た」とも取れる一言。
 誰よりも恐れる『彼』からすれば禁句に近い一言。
《誰と一緒に、誰と一緒ならこんな状況で大丈夫なんて言えるんですか!?》
 違う、伝えたかったのは大丈夫ということで、ちゃんと対策も考えていて。
 伝えたいのに、聴くことに意識が向いて口が動かない。紡ぐべき言葉がどんどん椿の声で絡まっていく。
[!? ご主人様、テクニックの効果が低下してる!]
 完全なるパニック状態。それが諷雫にも伝染し始め、
《貴女が死んだら、僕はもう――!!》
 心の悲鳴が諷雫の『謳う』心も乱し始めて。

 ドガン!

 突然諷雫の目の前に、画面が展開。
 黒髪の青年が、思い切り吹き飛ぶ映像が飛び込んできた。
「椿くーん!?」
 謳うのをやめなかったのが奇跡。
 そう思うほどの衝撃が、諷雫を襲った。
「……間に合った、か?」
「なんて綺麗な一撃」
 周りのダーカーの掃討が終わっていた二人も画面をのぞき込む。壁に
叩きつけられた椿を更にガクガクと揺らすのは、恐らく映像を諷雫に送っているだろうマグ。
『諷雫ちゃーん』
 ビクリ、思い切り動揺してしまう。
 怒りや焦りや呆れを一切含まない、完全なる平常の声。それは誰にも共感していない、温度がないということで、諷雫はこの声で突然話しかけられるのがとても苦手だ。 
『はい、まず深呼吸。ひっひっふー ――あ、これ通じないか。とりあえず今のノーカン、詩に集中。雅弥君が思いっきり不機嫌だよ』
『サポパいじめるな、ミーちゃんがお歌もっと聴きたいって』
『は、はい』
 驚異的な集中力の感覚を『分かってる』とはいえ、普通の法撃と違って想いを込めなければ諷雫の詩は意味を為さない。
 フォトン達への語りかけを再開し、目の前の光景を見守る。
 やがて『椿』の顔が、まっすぐこちらに向けられた。
《椿君大丈夫ですか!?》
 加減はしてると分かっているが、思わずその言葉が出た。
 普段は滅多に見れない赤い目が、その感情を如実に知らせてくれる。
《戦況を、本部側に伝えて下さい》
 ――恐くて怖くて、不安で辛くて。
 それは、今この場にいる多くの人達が抱えてるもの。
 共感していなかったのは、諷雫も同じだった。
 安心させることより、覚悟を見せてしまった。それは彼らの気持ちを置き去りに、諷雫だけがどんどん前へ進んでしまうということ。
 詩が、少しだけ変わった。

 ――あなたが悲しいのが、私も悲しい。
 ――あなたが恐れる未来が、私も恐ろしい。

 怯える人達を勇気づけるものから、怯えに同調するものへ。
《……もう、知らせてあります》
《なら、せめて詩を止めて下さい。それは余りに目立ちすぎます》
 ――どうしてそんなに危険に身を晒すの。
 真っ向から向けられる視線と感情。それを受け止めて、
《嫌です》
 それでも諷雫は『謳った』。

 ――怖がらないで、必ずあなたを護るから。
 ――怯える心に、光の雨を届けるから。
 
《椿君、私、護りたくてここに来たんです》


 貴方と同じように。そう伝えたくて。

 ――護る為に、私はここにいる。

 どうか届いて欲しい。今この市街地にいる全ての人に。戦うアークスに、逃げる人々に。
 死んでも護りたいという人もいるかもしれない。
 ――死んで欲しくないから謳う自分がここにいる。
 死んで欲しくないと願うから、死ぬつもりは毛頭ない。
 果たして、その想いが届いたのか。
《……すみません、取り乱しました》
 椿は、そう言ってくれた。
《マーガレットから、武器解除のパスは受け取りました。現在地の情報をそちらへ送ります》
《ありがとうございます。――椿君達はそのまま、その周辺で他の人と協力しながら一般人の避難を。転送装置の起動方法は分かりますよね?》
《手動なら問題なく。後は空雅さん達経由で連絡します。連絡事項はすみませんがマンルーンさんへお願いします》
 それは、彼の不安が完全にはなくなっていないということ。
 諷雫がここにいるという意識を、可能な限り減らしたいということ。
 伝えておきたいことも、言いたいことも沢山ある。
 ユキナミのこと、自分の想い。
 でも、それは彼にとって負担でしかない。
《……どうか、お気をつけて》
《椿君達も》
 ――貴方達を信じています。
 歴史改変前も生き残った彼らを信じて、無事を祈って。
「――私は、もっと見晴らしの良い場所に移動します」
「なら私はあちらのダーカーの群の狩りに参加しますわ。――トラさんは奥様達の避難?」
「うむ、それが終わったらソラシズク殿と合流したい」
「お願いします」
 まだまだ状況は切迫中。不確定事項は勿論、ちょっとしたミスで簡単に崩れるギリギリの戦況。
《すごいなこの音、さっきは全然だったのに今ははっきり聞こえる感じだ》
《フォトンも、馴染みやすくなったような?》
《よく分かりませんが、支援はありがたいですね!》
 でもきっと変えられる、皆がいれば変えられる。
 己が思い描く未来を掴む為、諷雫は駆け出した。
《来るなら来いやダーカー共、アークスの底力見せてやる!!》


 ダーカー達は、上位の存在に命じられるままに『そこ』へ辿り着いた。
 殺して壊して汚して。
 狂わせて苦しめて。
 衝動、欲求、本能の赴くままに。
 たった一人を奈落に落とす為に、セカイを奈落に変える為に。
 その筈だったのだろう群に、少女は弓を射った。
 シュッ――ドン!!
「ラピピ!」
「ピィ!!」
 少女に応え、一羽の鳥がダーカーの群に飛び込む。その翼から見え隠れするのは、美しい装飾の成された双機銃。
 狙って下さいと言わんばかりの大盤振る舞いで、しかし一切の反撃を許さず銃を乱射するラピピに気を取られるダーカーの頭を、リリィの矢は容赦なく潰す。
「あー、もー、ユッキーどこなのさ」
 敵が為さんとしていた惨状を反転した結果で叩き出し、けれど勝利の
余韻に浸ることなく少女は呟いた。
 ダーカー因子によって暗くなった空の下、破壊された街の片隅。
 だというのに、少女は普段通りだった。


 ぱーぱ、と言い掛けて転送された娘に、彼は微笑んだ。
 大挙してくる人、人、人。しかし沈黙する転送装置。
 このままでは避難地域であるここに人が溢れ、ダーカー達の攻撃がここへ集中してしまう。
 そう判断した彼は即座に自身の端末を転送装置の制御盤に繋げ、手動で起動させていた。普通の起動より時間はかかったが、通信障害の影響はあくまで音声通信だけらしく転送装置は正常に機能することが確認できた。
「女性子どもから優先で、急いで!」
 近くにいる女性や子どもをどんどん乗せ、その際に娘を抱き抱えた妻も他人のフリをして誘導に入れて、一番最初の転送に。
 ――というかそれが目的なわけだし。
 生憎彼は偽善で後方支援なんて出来るタイプではない。休日偶然家族と買い物に来てみたらダーカー襲撃が発生したのだ、当然家族をまず逃がす。
 ――ま、責任も取るけど。
 転送機能を試す際に使ったメモ書きのおかげで、一通り必要な情報の入った端末や武器が本部側から送られてきた。
 女子どもを優先と言ったわけだし、休日でも後方支援員――アークス職員な訳だし。
 彼は命掛けでこの転送装置をアークスと共に守るつもりだった。
《よー、面白いとこにいるなァ》
 そんな通信を聞くまでは。
 解除パスが書かれた電子メモを近くのアークスに寄越しつつ、彼は市街地中央を仰ぐ。
 黒い嵐の中を縦横無尽に走る、青い刃の光。フィクションですら想像できないだろう光景を作り出しているのが誰かなんて、疑う余地もなく。
「やー、野生児。相変わらず暴れまくりだね」
《お陰様でなぁ。で、なんで未だに一般人避難が出来てないんだ後方支援》
「へ」
 腐れ縁のアークスからの言葉に、彼は瞠目する。
「いや、手動でどんどん転送装置起動してるんじゃ」
《残念だがお前のが最初みたいだぞ、他のとこは一般人が避難してくるばっかりで減ってない》
「はぁ!?」
 言われ、転送装置を使って周囲の起動状況を調べればその通りで。
「何でさ、これって研修生所か候補生で習う初歩の操作じゃん!」
《んなもん覚えとくのは後方支援へ転身した奴だけだわボケェ! 今すぐ走って起動してこい、どうせカミさん達は避難させた後だろうが!!》


【EMERGENCY CALL!ーQUICKー】


「ちょ、マジか」
 オラクルにおけるエリート達の体たらくに頭を抱えながらも、しかし実際彼が来るまでこの周囲で戦っていたアークス達は起動していなかったのだからこの野生児の言うことが正しいのだろう。
「そこのアークスのおにーさん、悪いけど後は任せた」
「え、は、あんたは!?」
 転送装置付近に隠されてる、緊急事態用のフォトンコートのされたバイクを引っ張り出す。戦闘に耐えられないが後方支援員の移動には十分だ。
「俺はどんどん他の場所の起動させてくるから、じゃ」
 まるで妻の好きなドラマ仕立て、将来娘に聞かせたら大興奮間違いなしな展開。
《――後方支援だ、D6で転送装置手動で起動完了! このままCにある転送装置立ち上げてくから支援よろしく!》
 ――次の転送装置の所で乗り換えれるから全速出せば被弾は防げる、よな?
 腕章をつけて、彼は避難してくる人々の間を縫うようにバイクを駆った。



 戦況は、脚本家の意図から離れ始める。
 寸断された通信網は、回復せずとも補われ。
 戦う為の力は、スムーズに発揮され始め。
 ダーカー達は、各所にいる実力者達が制して。  
 ならば――脚本家は更に物語に干渉する。
 本来の脚本――歴史では存在しなかった手を使って。



 市街地の中央で、雑魚の群れの中にいたヴァントは今までとは桁外れの殺気に反射的に身を捻っていた。
 斬!
 青い光から飛び出してきた硬い鱗の一撃がダーカー達を吹き飛ばし、ヴァントの外套の裾を切り裂く。
「……ほぉ」
 ――これは予想外だな。
 馬鹿でかい甲羅の主が黒い炎を吐きながら、ヴァントを睥睨する。
 ゼッシュレイダ。今この市街地で暴れている蟲、鳥ダーカーに対して、目の前のこれは水棲ダーカー ――完全に別体系のダーカーのはずだ。
 加えて、本来ダーカーは出現する際は赤黒い光と共に現れる。
 今の『青い光』は、間違いなくアークスの転送を利用したものだ。
《ヴァントさん大丈夫ですか!?》
『おー、のろまじゃない亀ー!』
『青鬼寄越せ、それ寄越せ!』
 野次に応えることなく、ヴァントは剣を構え直す。
 先程までのような大盤振る舞いはこの大亀には悪手、愚鈍とはほど遠いスピードを持っている、闘争を【巨躯】の眷属にふさわしいこいつは剣を大きく振りかぶってる間に攻撃圏内へと進入してくる。
 ――援護がいれば話は別だが。
 例えば、今もどこかで謳っているらしい諷雫――ただしそうなればようやく市街地に広がった支援が途切れる。全区域の転送装置起動が完了していない状況で諷雫による支援が途切れた場合、戦況が元の歴史の状態に巻き戻りかねない。
 応援を呼ぶ――サポートパートナー達は本命に向かわせてしまったし、
そもそもヴァントの周りにはダーカーが多すぎる。法撃や銃を使う者ならダーカーの壁を縫って援護してくれるが、下手に遠目から大亀を刺激して移動されたらそれこそ大惨事だ。
 ――何匹かは屠られたとはいえ、未だ大型エネミーとの戦闘が各所で行われている。
 そこにこいつが加われば、折角持ち直した戦況が一気に崩れる。
 そこまで考えた末に、ヴァントは雑魚に背中を向ける覚悟でゼッシュレイダと対峙していた。
 けれど、その必要はなかった。
『――ベイゼ壊せた、亀に向かう!』
 それは本来存在しなかった、けれど上位存在によって干渉を許された特別な援軍。


 ダーカーの怒濤の中を、攻撃することなく、『攻撃されることなく』、駆け抜けるヒューマンがいた。
 いや、そもそも彼の認識の中にはヴァントの周りを蠢くダーカー達など『数匹しかいなかった』。
 ヴァント達と異なる世界軸を持ちながら、ヴァント達の世界軸とも重なれる男。
 ――いた!
『ヒニンさん、お願いします!!』
 少女の声――言葉が『目に入る』。しかしそれに答える時間すら惜しみ、ヒニンは自分に背を向けた状態の大亀の足へ斬撃を叩き込んでいた。
 ヴァント達から見れば型にはまった完璧な一撃。ヒニン達からしたらミスる方がありえない一撃で、大亀が大きく揺らぐ。
『ゼッシュウ、ゼッシュウ、ゼッシュウ!』
 そんな言葉と共に『カメラ』に映ったのは、弟子である童女。視線を合わせることもなく、しかし教えた通りに短杖でやはり大亀の巨体を支える足を殴り始める。
 そして突然、パーティへの乱入者。誰かなど確認したくもない。その余裕もない。
「とっとと去ねやこっちは残り一分しかねーんだよぉ!!」
 隣に構わず叫び、ぐらぐら揺れる大亀を殴り続ければ。
『はーい、皆のアイドル、カナカナだよー!!』
 無視した。『隣に小突かれても』彼は無視して攻撃を続けた。


 突然ダーカーの壁を越えてきた男が大亀に剣を振るい、片足立ちになったそいつに、キャンプシップから直接ヴァントのいる場所に降り立った、くーちゃんが短杖を叩き込み。
 ――あ。
 そこからは、スローモーションにしか見えなかった。
 ヨロヨロと片足立ちをキープしていたゼッシュレイダが倒れ、頑強な甲羅が、逆にその動きを阻害し、
「ライライライ!! ゼッシュウ寄越せよぉぉぉ!」
 小さな雷を放ちつつ殴り続ける童女。
『とっとと去ねやこっちは残り一分しかねーんだよぉ!!』
 やけに頭に残る通信と共に男がオーバーエンドを――ヴァントのそれより遙かに小さいがその分正確無比に――核に叩き込み。
『うわーん、入り込めたけど一分とか間に合うかなっていうかヒニン君とっととパイプ頂戴ちょうだいよー!』
 よく分からない悲鳴。
 何が起きてるかヴァントにはよく分からない、分からなかったが、
「――任せた!」
 考えるより前に、再びウォークライを発動。標的を定めかねていたダーカー達が、強い光に引き寄せられるようにヴァントへと。
 同じようにヴァントを狙いたいだろうにワタワタ――もうそうとしか表現出来ない動きで手足をバタつかせる大亀、否、まな板の上の鯉。
 完全に二人だけで大亀を倒す勢いの援軍――或いは職人に告げて、ヴァントは再び雑魚の群に集中した。



「ごめん、マジごめん!!」
 ついさっきまでの余裕をかなぐり捨てて、少女は両手を合わせて頭を下げる。
 突然出現した壁のせいでユキナミとリユイが孤立してしまったとリリィから連絡を受け、椿達は急ぎ彼女と合流した。
[リリィが謝ることじゃないわ――ほら早く開けたげなさいよ!]
 急かされるまでもなくアクセスを開始した椿は、即座に違和感を覚えた。
「ダーカー侵食? 違う、それならこんなマトモな状態じゃない」
 余りにも正常過ぎる。アクセスはきちんと出来るし、ダーカー因子による書き換えの痕跡もない。
「え、でも、情報キーとか全然出てこないんだけど」
「ピピィ」
 ダーカーを隔離する為に作動することは多々あるが、そうした場合アークスが越えられるように情報キーが各ポイントに置かれてるはずだ。
 考えつつ更に深部へアクセス――後悔した。
「防壁の設定が、虚空機関によって勝手に変えられてます」
「え?」
 驚く二人、首を傾げる一羽に説明しつつも、アクセスの痕跡を消す。椿自身のログを覗かれたらどうしようもないがひとまず調べたということを追跡されないようにしておく。
「ダーカーがここを通ったら、最低三十分は開かない状態にされてるんです」
「はぁ?」
「すぐに開ける方法はないの?」
「ノーヒット。情報が全く出回っていない為不明です」
 常にアークスの、特にダーカー対応策については必ず最新情報を手に入れる椿すら知らない隔壁を使った新たな対策。
 むしろ、事故というべきだろう。
 ――実際は作意だとしても。
 ではその上で、どう出るか。調べた限り、きちんと手順を踏めば三十分で開く。ユキナミとリユイの負傷具合は分からないが、最悪連絡を執る手段はない訳ではないからひとまず近くで待機して貰うべきか。
 そんなことを考えていた時――隣から破裂音。
 ――!?
「マンルーン!?」
 驚く者達を余所に、マンルーンが大砲を隔壁に向けて二度、三度。
《緊急連絡です!》
 それを追いかけるような、突然回復した全体通信。
《G3エリアに、巨大なダーカー反応あり、三体も!》
「ちょ、それってユッキー達のいる方!」
「ぴぃ、ぴぴぃ!!」
「椿、どこなら壊せる!?」
 ――……しょうがないか。
 色々と気がかりも不安材料もあるが、何よりこんな情報が出回ってしまったら自分の主が放置するわけがない。
 幸いにも、策はある。
 少女達を置き去りに、回復した通信で報告。
《本部、G3・G4間防壁の『誤作動』を確認。キーコードが発生しない為、故障によるものと判断。緊急事態の為破壊許可を求めます》
 ある意味裏技、公認の設定変更でないから通る一手。
《状況を把握しました。敵対勢力と戦うアークス救助の障害と認定し、破壊を許可します》
「――手動により中央のロック部分が解除されても三十分後まで開きません。ロック解除直後にフォトンコートはなくなりますから、隔壁の中央に火力を叩き込んで下さい」
 椿だけでは火力的に絶対に出来ない、火力があってもアクセス行為に慣れていない者では無意味にしかならない真似。
 可能、不可能を問われるべき作戦、 
「おっけー任せろ!」
「ぴっ」
 けれどシンプルで分かりやすい方法に少女と鳥が笑い、
[ならとっとと操作しなさいよノロマ!]
「急いで、どんどん向こうでの戦闘が激しくなってる!!」
 マグと少女が勢いよく答える。
 ――ああもうこっちの気も知らないで。
 目の前の少女達も、市街地全体に響く歌声も。
 ――暗闇は夜になって、雨は光になって。
 ――夜空だから、星が煌めく。
 優しく労るような子守歌は、気づけばライトでポップなものに。
 レスタの雨、アークス達を包んでいた赤と青のリボンは解けてしまって。
 ――真っ暗な最低な日も、星が光ればあら不思議。
 ――昼間を越える大喧噪、夜更かしパーティ始まり始まり。
 カラフルな淡光が夜になった街で踊り始めていた。
 ――戦いなんてとっとと終わらせて、皆で笑って踊りましょ!
 社交会(パーティ)に遅れないで、或いは仲間達(パーティ)に遅れないで。ダンスも戦闘もノリが一番大事。
 ――さぁさぁ皆で踊りましょ!
 立ち止まってる暇なんて、与えてくれない。ついて行けないなんて聞いてもくれない。
 余りにも小気味良くて、椿は苦笑しか出来ない。
 しかも、もう乗らない訳にいかない。


【EMERGENCY CALL!ーDESTRUCTIONー】


 椿は再びアクセスを開始していた。


 

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