目を疑うべき話(Re ver)2

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同居人の話と、目にモノ見せてやるべき話       とリンクしております。


《起動テスト完了――転送可能です!》
 電光石火の勢いで機械と向き合っていた椿が周囲のアークスへ告げるのと、十字路の中心が光を放ち始めるのはほぼ同時だった。
 転送装置に出現した武器――普段なら配布しないかなり希少価値のあるもの――をアークス達がどんどん回収して、それで一般人も起動したと分かって浮き出し立ち、見守っていた時とは打って変わって騒がしくなる中を。
《次へ行きましょう》
[了解――ほら、マンルーン]
《え、ええ》 
 マーガレットに手を引かれて、マンルーンはそっと抜け出た。
『さっすがー、さっきまで泣いて駄々こねてたのに』
《喧しいです》
 通信先からの野次を一蹴しながらも、椿の手は止まらない。
 ダウンロードした行政側の情報、この市街地のマップと、諷雫達のフレンドであるヒューマン――飛任というヒトから飛んでくる情報、更に周囲通信からの情報をどんどん集めて一つにして、周囲通信で他のアークスに渡している。
《Eエリアの南側の転送装置はブリューリンガーダがいる為放棄、北側かG南側に設営されているアークスライブ会場へ避難誘導を!》
 更にその情報を元にアークス達に指示まで出していて、まるでアークスみたいだ。
 椿だけではない。遠い空、夕闇から宵闇に変わった空にあるのは――虹。
 中央の天すら裂くような青い光の大剣と――対を成す、天高くそびえる七色の光柱。
 自分の憧れである二人だ。あの二人以外、あんな光景は作り出せない。
 ダーカーを前にした時とは異なる高揚――或いは焦燥。
 振り返る。転送装置は起動したのに減らない人の群。
 周囲のダーカーは倒した。周りにはアークスが沢山いる。それでも後ろ髪を引かれたのは、怒号に混じって聞こえた泣き声。
 化け物なんていないのに、泣いている。それはきっと、周囲の混乱や大声に怯えた赤子か子どものもので。
「ね、ねぇ、私達も避難誘導をした方が良いんじゃないの?」
 通信をしていた椿に、思わず問いかけていた。椿が、通信先にいるだろう数人がマンルーンを注視している気がして、今の言い方はよくなかったと言ってから気づいた。
 混乱で却って怪我人が増えるのではないか、自分達も残って避難誘導をするのが正しいのではないか。そういう意味で言ったつもりだったけれど、椿達は既に色々しているのだから、やるなら自分だけ残ってやるべきだ。
『のー』
 けれど、そんな考えは今まで通信に参加していなかった幼い声によって却下された。
 まさに今、光の柱を打ち立て戦っている主の声。
『緊急時、平静でいられる人間はいない。またそうした人間を誘導する場合一定以上の地位や体格が必要――サポートパートナーよりアークスが適任』
 幼いのに、そこには芯があった。
 マンルーンは割れたガラスに映る自身を見る。顔立ちはきつく、一見すると長い手足だが、しかし大人の人間の中では子ども程の背丈しかない。――それを活かして、人混みをかき分け転送装置の前まで行ったのだけれど。
『周囲通信での呼びかけで転送装置付近の護衛をするアークスが増えている分、ノーマーク状態のエネミーが増えてきている。自由度の高いサポートパートナーが遊撃、並びに情報収集と伝達を行うのが望ましい』
 けれど、主の言葉はむしろ目の前のことばかり気にしているマンルーンの視野の狭さをこそ叱責している気がした。
《……了解です、マスター》
《マンルーンちゃん、落ち込まないで下さい。マンルーンちゃんの考えだって間違ってはいないんですからね》
 優しい声、本当に小さな声での個人間通信。椿を落ち着かせ、今も市街地の人々の為に謳っている諷雫が、マンルーンのことまで気遣ってくれている。
 ただ、
『大丈夫だよー、マンルーンちゃん。そう言ってるくーちゃんも保護されかけたから避難誘導諦めてバースト係始めたんだし』
《……え?》
 マンルーンを気遣ってくれたのだろう甲高い声に、思わず疑問を返してしまっていた。
『いやー、くーちゃんも避難誘導やってたの。でもね、他のアークスが子どもが真似してるんだと思ったんだろうね、慌てて抱っこしちゃって逃げ出した所でバースト、今も刀ブレイバーさんのおかげで何とかなってるけど下手したら床ペロ撤退してたんじゃ』
『黙れー!!』
 ケラケラと不快な、どう考えても笑えないことで笑う声に主の声が被さるのにつられるように、七色の塔の輝きが夜空を照らしていた。
『くーちゃんのPSEバースト、七度目のワンモア入りましたー!』
『――ちょ、クーガさんまだ続けますか――本日何度目であろうと無関係です、無罪を訴えます』
 他人事だから出来る歓声と、主の通信先からは男性の困惑の声とやはり迷いなき主の断言。
《今日はいつも以上に続けさせますね》
『目立ってるー?』
《……目論見通り、データとしてはあちらの方が目立つでしょうね》
『さっすがくーちゃん! 詩より目立って囮になる、フーちゃんの護衛としての全力サポート!』
 フォトンの奔流が起きれば、ダーカー達は誘蛾灯に引き寄せられるようにそこを中心に出現する。ダーカーの本能、フォトンのより多く集まる場所に動くことを利用した完璧な迎撃戦術。
 恐らく、主も青い大剣使いもそれを理解した上で東と北に分かれて戦っているのだ。
『っていうことを今くーちゃんはしてるんだけど』
 楽しげな声は、矛先をマンルーンへと向けた。
『ねぇマンルーンちゃん、くーちゃんの所行きたい?』
 未だ聞こえるブリューリンガーダよりずっと強烈にマンルーンを翻弄するその言葉。
 ――行きたいに決まってる。
 マンルーンの主はフォトンの親和性が高いし努力家だが、戦闘能力がずば抜けているわけではない。すごく強いアークスが援護してくれてると言われても、不安は尽きない。
『マップ全埋めしたぞー!!』
《ありがとうございます、ヒニンさんはそのまま南側の大型エネミーをお願いします》
 でも、それは隣で情報処理と戦闘支援を続ける椿だって一緒のはずだ。
 諷雫に口答えする椿を、マンルーンは初めて見た。それが彼女の身を案じてのことだというのも痛いくらいに感じ取れた。
 本当は、椿だって諷雫の傍に行きたいはずだ。でも、どうしてか分からないが、椿は出先で諷雫と一緒に行動すると酷いパニックに襲われてしまう。
 普段の惑星探索なら、椿を気遣いながら周囲も動ける。
 ――でも、こんな状況じゃ。
 戦況が落ち着き始めたとは言え、まだ通信障害は完全になくなってはいない。周囲だって余裕がない。
 椿は戦闘能力は低いが支援や情報収集、処理はマンルーンの知るサポートパートナーの中では随一なのだ。諷雫の近くに行くことでそのメリットが殺されてしまうのは現状危険すぎる。
 椿こそそれを一番分かってるのだろう、彼は今諷雫との通信を一切遮断して、決して一緒に行動することなく、この周辺の敵の掃討に意識を集中させている。
《マスターから支援要請があれば、すぐ向かいます》
 だから、そう答える。答えなければ、いけない。
「――万一あの人が戦えないなんて言い出したら、僕わざとパニックになってマスター共々離脱しますから」
 こっそりと、けれど独り言ではない声量で告げられたのは間違いなくマンルーンへ向けられた椿の本心だろう。でも、そんなのは万に一つ所か、億に一つもあり得ない。
『それはないね』
『ないな』
「マスターがそんなこと言うわけない」
 そう思ったのに他の人達より言うのが遅れてしまった。悔しい。
『悔しがってるー、かわいいー』
『あー、俺らの通信は本当は声じゃないから』
「……失礼しました」
 フォローしてるつもりだろう男性二人の声が、空しさを呼ぶ。
 けれど、落ち込むことは許されなかった。
 肌が粟立つ感覚と共に、視界に見えたのは赤黒い靄。
「椿、前方!」
 応答を聞くより先に駆ける。
 前方へタリスが投げられ、椿の支援法撃がその地点を中心に発動する。そこを走り抜けた瞬間軽くなった身体の勢いそのまま形を取り始めていたダーカーを吹き飛ばす。
 通信機から届いた言葉は、無視した。



 その様子を、遙か彼方から見ている者達。
【『マンルーンちゃん超凛々しい!』、と】
【喋ってて良いのか、『せんとうちゅう』なのに】
 画面向こうで必死に戦う小さなモノ達を見守る、青年の問いかけ。
【無言でグルグルクヨクヨしてる方がこういう時はよくないよー、話して、吐き出させて、集中してもらわないとねー】
 カチカチとキーボードに文章を打ち込み続ける、外見は少女の言葉。
【そうなのか】
【そうそう、じゃないとフーちゃんとクーちゃんの負担ばっかり増えるもの】
 青年の眉間に皺が寄る。
【……それは、困る。諷雫に死んで欲しくないし、クーアと雅弥にもあまり怪我をして欲しくない】
【だ、か、ら、僕が憎まれ役買って出てるわけだよ】
【やり口が煽りにしかなってねーんだよボケ】
【あはは。まぁ頑張って貰おうよ】
 すぐ隣で小さな機械を操作する別の青年が吐き捨てても、憎まれ役の笑みは崩れない。
【ヒトの為に生きる。それが彼らの存在理由、なんだからね!】
 悪意を以て紡がれた脚本など、悪意なき外道からすれば楽しい読み物に過ぎず。
【……このゲスが】
 脚本は破綻していく。観測されていなかった者達はその流れを加速させていた。



 マンルーン達は当然、そんな会話など知る由もなく。
《――バーストの終了を確認、東側の敵の量はどうですか?》
『A、B、Cであってる? そこなら最初より減ってる感じー、でっかいエネミーの反応は全部消えてる』
『AW、E1でベイゼ!』
 マンルーン、椿、マーガレットは顔を見合わせた。
『別パーティもいるから破壊は余裕。ただ参加したら時間的に俺は最後のEトラになりかねん』
《わかりました、ヒニンさんはそのままベイゼ破壊に。――E1でベイゼを確認、周囲のアークスは至急破壊に参加して下さい!》
『南のボスエネミーはどうすんの?』
 南、マンルーンはそちらを睨む。
 今回の緊急事態の被害を広げた原因、通信障害を与えている大型ダーカー。
《ブリューリンガーダも放置できませんが、優先度はベイゼが上です》
「なら南は私達で」
 そもそも南に一番近いのはマンルーン達だ。少しずつアークス職員の姿も見え始めている今、転送装置発動は彼らに任せて通信障害をどうにかすべきだろう。
「……ただ、他のアークスの大半はまだ避難側にかかりきりです。僕達だけでは」
「それなら、尚更ブリューリンガーダが暴れ出さないようにしないといけないでしょう?」
『っていうか、本当に皆お馬さん放置してんの? それなのに暴れないっておかしくない?』
 割って入るような指摘、けれどそれは的を得ていた。
《おかしいですよ。だから僕は手を出したくないです。通信障害も、ヒニンさん達と周囲通信で補えてますし》
『あれ、僕は? 僕かなり情報あげてるよねー?』
 或いは、マンルーンは思考する。
「通信障害を起こしてるから動けないんじゃないかしら」
『んん? だとしたら、通信障害とお馬さんとの戦闘、どっちが良い?』
 究極過ぎる二択。戦闘すれば通信障害がなくなるならその方が良いが、もしマンルーンの推測が間違っていて通信障害を起こしながら応戦されたら、その上で椿が戦闘に集中しなければいけなくなって周囲通信を行えなくなったら。
 西側の戦況が完全に変わってしまう。椿もそれが分かってるから、放置を決めたのだろう。
 どうするか、椿が一瞬だけ思案気に端末へ目を落とし。 
『ユッキー』
 その言葉は、小さくも明瞭だった。
《はい?》
『ユッキー、ピンチって聞いた』
 そんな主の言葉を裏付けるかのように。
《つばっきー!!》
《マンルーン、椿、緊急事態だ》
 


【あ、ヴァント君ったら浮気者ー、僕じゃなくてくーちゃんにラブコール送ってる】
【らぶこーる??】
『お前か、邪魔だ。クーガ、悪いがユキナミと連絡が取れるか試してくれ』
【ひっどーい、見た稜樹君? ああいうのを俺様系って言うんだよ】
【クー、どうだ?】
 問われたモノは、即座に依代を使って連絡を取り始めた。
『ユッキー、無事?』
 返答は、即座だった。
『くーちゃーんー!? くーちゃんいまどこ! っていうか、どうやって連絡してくれたの?』
【……明らかに焦ってるのが文字からも分かるね】
『まぁ落ち着けよユッキー』
 憎まれ役の言う通りだったので、モノは友人に落ち着くように促した。幸いパニックまでは至っていなかったようで、すぐに事情を聞くことが出来た。
 曰く、襲撃前から市街地にいた為武器制限を無理矢理解除したこと。
 曰く、仲間と避難していたのだが途中で隔壁が出現し、分断されてしまったこと。
 曰く、
『それで、壁空いてそうな所を探し回ろうと思ってたんだけど』
 その場にいたほぼ全員が即答した。
【ないね】
【ねーよ】
『待ってなさい』
【ダメ、なのか?】
【あっきらか死亡フラグじゃないそれ!】
【というか、こいつか、こいつなのか。――こいつが原因で歴史改変クエスト発生したんじゃないですかね】
【『フーちゃん、ヴァント君、明らかにヤバイのってユキナミ君だよね?』――大当たり!】
【市街地アドバンスは……やっぱ違うよな。ならマジで俺はもうそこ入れねーぞ。っていうかそれなら何でストレートにそいつの所行かねーんだ?】
【もーヒニン君ったら。行けない事情があるに決まってんでしょ。で、現状一番近いのは、と】
【……椿達が、一番近い】



 全員の話を聞き終えるより先に、椿の腕を掴んで走り出していた。
《はやく来てー!》
《悪いが頼む、リリィでは開けられん!!》
『急いで急いで!』
『ユッキーは隔壁近くで待機中、急ぎ救援へ向かうように』
《了解です!》
 蟲系は完全に放置、行く手を遮る鳥はマーガレットが殴って無理矢理通り抜ける。引きずられている状態に近い椿が置かれている機関銃をきっちり起動させ、追撃を遅らせる。
 真っ直ぐ、ただひたすらに走る。角を曲がり、そこに黄色い鳥と翡翠色の髪の少女を見つけた瞬間椿を思い切り突き飛ばし、マンルーンは振り返って両手剣を振り下ろしていた。
 グチャリ、まさに背中を狙おうとしていただろうプレディガーダの声なき断末魔が宙に溶ける。
「ピピッ!」
 愛らしい鳥の鳴き声、次いで銃声。本当に一瞬の間に距離を詰めていた
黄色い鳥がこちらへ大鎌を投げようとしていた鳥を仰け反らし、翼を撃ち抜いていた。その間に、マンルーンとマーガレットも他の蟲達を斬り、押しのけ、潰し、吹き飛ばす。
「ありがとう、ラピピ」
「ピィ♪」
 粗方を片づけ、黄色い鳥――ラピピへ礼を告げれば嬉しそうに敬礼をしてくれた。
 表向きはヴァントの『二人目』のサポートパートナーとなっているラピピは、実際は幸運を呼ぶ鳥ラッピーだ。何がどうしてか双機銃を操れるので、戦闘では支援攻撃をしてくれている。
 普段なら、更にもう一人も加勢してくれるのだが。
「ごめん、マジごめん!!」
 そのデューマン少女――サポートパートナーの中でも随一の攻撃力を誇る弓使いであるリリィは受け取った椿をとっとと隔壁前へ連れて行き、頭を下げ続けていた。
『青鬼の命令でユッキー達と合流、ここを通り抜ける際に隔壁が発生して
分断されたらしい。ユッキーは近くのコーナーで待機中』
「キーコードとか全然出てこないんだけどどうしたら良いの?」
 いつもならすぐ返ってくる答え。なのに、椿は黙々と操作を続けている。というよりも。
 ――なんだか、随分深い所までアクセスしてる?
 リリィの言ってるような情報鍵を入力する画面を見ることが多いが、椿は隔壁の設定まで入り込んでいるようだ。
 やがて、いつもより少しだけ時間をかけた椿が回答を出した。
「隔壁の設定が、虚空機関によって勝手に変えられてます」
「え?」
「ダーカーがここを通ったら、最低三十分は開かない状態にされてるんです」
「はぁ?」
「すぐに開ける方法はないの?」
 聞き終わるより先に。
 マンルーンの肌が粟立った。 
 この場にいる誰よりも早く、彼女が気づいた。
 無骨な壁の向こう、孤立した少年がいるだろう方向。
「ノーヒット。情報が全く出回っていない為不明です」
 隔壁に隔てられて微かにしか聞こえず、他の者は遠くにいるダーカーの囀りとしか思わなかっただろうそれ。
 けれど鋭い聴覚はその位置、そこにある気配をはっきりと感じ取っていた。この市街地を包む優しい旋律と明確に袂を分かつ、禍々しく、おぞましい気配を。
『ユッキーが交戦を開始!! 新種の大型エネミー!!』
 主による問答無用の肯定に、マンルーンは即座に大砲を構えて発射していた。
 隔壁の中央の輝き、繋ぎ目、周囲の驚きすら置き去りに思いつく限りの壊せそうな箇所を撃つが。
 ――ダメ、壊れない! 
《緊急連絡です! G3エリアに、巨大なダーカー反応あり、三体も!》
「ちょ、それってユッキー達のいる方!」
「ぴぃ、ぴぴぃ!!」
 今まで聞こえなかった、オペレーターの声。通信障害が解消されたのだ。
 けれど、壁向こうの戦いの気配は一方的な蹂躙に近い。そちらへ完全に意識を集中させているマンルーンには、破壊の音とその中を走る少年の足音まで聴き取れるまでになっていた。
「椿、どこなら壊せる!?」
 ――応援を待っていたら、間に合わない!
「設定によれば、手動により中央のロック部分が解除されて三十分後に開きます」
 一瞬の間があった。
「ですが、ロック解除直後にフォトン隔壁はなくなりますからその瞬間に火力をぶち込んで下さい」 
 逆を言えば、それさえ出来れば向こうへ行ける。
「おっけー任せろ!」
 とてもわかりやすい解決策に、リリィが弓を構えていた。
 軽いノリで、しかしとてつもない量のフォトンが矢の形に定まり、凝縮されていく。
「ぴっ」
 ラピピも元気よく答える。フォトン量は少なくとも、双機銃使いのラピピは放たれたフォトンをその場に留めて繋ぎ合わせることで威力を高めるスキル『鎖(チェイン)』が使える。一点集中破壊において、この上なく頼もしい存在だ。
「急いで、どんどん向こうでの戦闘が激しくなってる!!」
 マンルーンも武器を構え直す。
 苦笑する椿の操作で隔壁中央の光――結集していたフォトンが明滅を始める。その光が消える直前、予想外にもまず彼が銃剣を構えていた。
 一発。フォトンを問答無用で集める『印(ウィークバレット)』が貼られ、ラピピによる水色の『鎖』が重ねられた。
 小さな標的(ターゲット)、けれどマンルーンもリリィも、全ての砲弾と弓矢を違えることなくそこへ当て続けた。銃弾、光のテクニックがそれを追いかける。
 もはや打ち合わせなどなく、ひたすらにただ攻撃する。砂埃とフォトンの光が視界を塞いでも、網膜に焼き付けた位置に向かって、爆音と耳障りな破壊音すらも目標がそこにある証明と撃ち続けた。
 やがて。
 ヒュン。
 耳と肌を圧する程だった轟音が、そんな空を切る音に変わった。
 壁に貼り付けられていたはずの『印』と『鎖』が、溶けるように消えていた。
 それはつまり、
「空いたぁ!!」
 最初にリリィが弓を背に跳び上がった。壁中央に空いた穴に手を引っかけ、向こう側へ。
「ピィ!」 
 ラピピも跳び上がる。飛翔とは呼べなかったが、軽やかに穴を抜けた。
 マンルーンも武器を自在槍に持ち替えて跳んだ。長身の彼女は背を屈めないと通れない穴だったが、足をかけ、槍を壁に突き立てればどうにか潜れた。
 壁の向こう側へ。
 まず目に入ったのは、巨大なボールのようなダーカーが三体。そして、それらの視線の先で走る銀髪の少年。
《ユキナミさんを発見しました、援護を開始します!》
 穴から、更に前方へ。再び大砲を手に、マーガレットと目配せ。
 そうしたら何故か、通信先から大爆笑。
 自分は何かおかしなことをしたかと思ったら、諷雫の悲鳴。
《椿くーん!》
 無性に、嫌な予感がした。
 小柄なリリィが手を伸ばしてどうにか届く、長身のマンルーンもしっかりと足をかけねば通れなかった隔壁の穴。
 ――そして、サポートパートナーでありながら運動音痴の疑いがある、椿。
 振り返った、そこに椿の姿はなかった。
 ただ、ラピピが慌てた様子で穴の方へ跳び乗って、何かを掴もうとしていた。
『鳥に任せなさい』
《――っ、了解です! ラピピ、椿をお願い!》
 返事を待たず、マンルーンはマーガレットと共に駆け出した。



<3へ>



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このシリーズの始まりは一年を超えて前なのにどうしていつまでも書ききれなかったかの原因はこの話にあります。

「別時空、PSO2をゲームとして俯瞰している存在達」を思いっきり前面に出しているのが当時の自分の筆を躊躇わせたのです。

「いや、プレイ小説(当時はプレイ日記)だから、しかも設定的にこれはこうしないとアカンのですよ」

と言い聞かせても、他人を納得させられるだけの文章にならなかったのです。

転機は当然、EP4です。

「公式がそんなことやるならこっちは書き始めた当時からその設定で行ってるんだやってやる!!」

と一念発起、同居人の助けも借りながら、同居人を駆り立てながら書きました。



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