目を疑うべき話(Re ver)3

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同居人の話と、目にモノ見せてやるべき話       とリンクしております。



「これでよし、と」
 未だ謳い続ける諷雫の横で、作業を終えたサラの一言と同時に。
 朧気な光が色を帯び、形を成し。
 そこに、アークス『フーナ』が先程までの諷雫の姿そのままで立っていた。
「これで、表向きは貴女はここで謳い続けてると誤魔化すことが出来るわ」
「ありがとうございます、サラちゃん、シャオさん」
【ただし、僕達が出来るのはここまでだ。サラはこの投影が攻撃されて消えないようにここに留まらないといけないし、僕は君の移動記録を消す作業しか出来ない】
 それだけでも破格だ。これから諷雫がやろうとしていることを考えれば、《アークス》に気づかれない方が良いに決まっている。
 歴史的矛盾というものではなく、単純に気づかれて妨害されるか、正史通りの結末になってしまう可能性がある。
 ――『自爆が出来るの』。
 この時間軸へ飛ぶ直前に聞いた情報、それが何をきっかけにするかはまだ確定していない。
 けれど、諷雫やヴァントが動いたと敵に知られたら絶対にまずいということだけは分かっている。
「ここからは走って向かいます!」
「……それは無茶でしょ」
「心配無用だ、わしがその目標地点とやらまでソラシズク殿をお連れしよう!」
「ろっこー目指して!!」
「どこよそれ!?」
 詳しい説明は何もしていないのに、この建物で合流してからただひたすら様子を見守っていたトラヴェルガーとくーちゃんが胸を張る。
 諷雫は一瞬だけ怯えながらも、『フーナ』の意識に後押しされてトラヴェルガーの首に腕を伸ばす。
「可能な限りGエリアが見える高い建物へお願いします」
「了解した」



 強かに打ち付けた額の痛みに構わず、椿はリユイの容態を確認する。
 フォトン隔壁に囲われたコンテナの上に横たえられたリユイの顔色は思ったより悪くない。
 ただ、そっと握った手首。細さも問題かもしれないが、それ以上にフォトンの巡り方が明らかに安定していない。恐らく襲撃直後、制限解除前に無理矢理テクニックを行使してしまったのだ。
 少し離れた場所からの激戦の気配にどうすべきか思案する。リユイをこの場に残すのも何かあった時を考えると危険だが、かといって意識を失った原因を考えると無理矢理起こすべきではない。
『応答せよ、繰り返す、応答せよ』
《……何ですか?》
『椿君、ヴァント君が通信飛ばしてるみたいだよ』
《え》

『そこにいる子達皆に通信飛ばしてるのに、全然応答がないって言ってんの。フーちゃんもそうみたい』

 ――!
 童女達の言葉に、一時的とは言え回復していた全体通信が壁を越えてからまた聴こえなくなっていたことに今更気づいた。
 過ぎった可能性、端末に登録していた特殊な機能をオンにすれば、五月蝿いくらいの警告音。画面に浮かぶ発信源は、とてつもなく近い。
 リユイが横たわっているコンテナの隣のコンテナ。蓋を開ければ、思ったより物資は少なく、真っ黒い機械が見えた。
 それは、宇宙船団オラクルにおいて重要かつ特殊区画で使用されている通信遮断機器だった。
 ――おかしいと思ってたんだ!
 ブリューリンガーダが原因と暫定的に判断していた。でも実際にはそうじゃないと気づいていた。
 ダーカーによる汚染が通信にまで及ぶ程なのに、一般人が自力で動き回れるなんておかしいと。
 表に出せない、《アークス》に巣くい続けている噂。襲撃された市街地の一角で突然通信が出来なくなる。運良く逃げた者の端末は故障と判断され、その区域で消息が消えた人々は死亡と判断される。だが、多くの古参のアークスや一介の職員達はきっと疑問を持っている。
 ――本当に故障なのか。その人達は本当に、襲撃で死んだのか。
 通信障害の原因は不明のまま、その後消息が分からないから死亡。定期的に起きるというのに《アークス》原因を追求することもなく。
 むしろ、そうなると嫌でもある機関の噂と結びつく。研究室――虚空機関では人体実験が行われている。
 あくまで噂話。その真実を追いかけようとする者の多くは惑星探索中に不慮の事故で永遠に口を噤むことになる。
 ――例えば、その惑星における重要な連絡告知が、何故かその人にだけ回ってきていないような。
 烈火に触れたような痛みに、椿は通信障害の原因である装置をひっつかんで地面に叩きつけていた。
 たったそれだけ。それだけで複雑な構造をしている分耐久性に欠けるそれは、簡単に壊れた。
《繰り返す、G3に出現している大型エネミーは鳥系ダーカーの新種であり――》
 たったそれだけで壊れるような物の為に、誰も彼もが振り回されていたのだ。
 ――表向きの原因であるブリューリンガーダが倒れていなかったら、市街地全体にある同じ物が機能し続けていたんだ。
《空雅さん、座標を送りましたからキャンプシップへのテレパイプが使えるか試してもらえますか?》
 知りたくて仕方なかった噂の真相への感傷など価値はない。隣で盛大な音がしたにも関わらず目を覚まさないリユイを避難させられるならすべきだ。
『さっきは出来なかった。でも人生はチャレンジの連続』
 お互い人ではないのに何を言ってるのだろうか。
 通信と同時に、リユイを包む形で出現したのはキャンプシップへと通じる簡易転送装置。椿は即座に転送を開始した。
 ――これで最悪の場合の脱出路の確保は出来た。
 隔壁の外へ通じるテレパイプへ飛び込み、戦況を確認する。
 新種――アポス・ドリオスという名前しか分からない新種の数は三体。ユキナミとマンルーン、リリィが迎撃しているが、見ている限り翻弄されているという言葉が正しい。ラピピがどうにか援護しようとしているが、他のダーカーを蹴散らすのに手一杯。
 脱出路はあるが、脱出手段としては弱い。現状を維持しながら援軍を待つのが正解か。
 そう思うが、同時に主の姿を思い出して苦いモノを覚える。
 ブリューリンガーダが倒れても機能していたということは、ここは何が何でも孤立させたかった場所ということ。この場で何が起きても、《アークス》が突然この場にいる者を死亡扱いしても、ここを放棄してアークスへ引き上げるように命令したっておかしくない。
 加えて敵は新種だ。どんな隠し玉を持っているか分かったものではない。そんなものと主を戦わせるなど、椿には耐えられない。
 例えば蟻地獄と評されるグワナーダ。地面に潜ったり大鋏のような顎を持つ本体より、四本の鋭敏な触手を叩く方がダウンさせやすいという解析結果が出るまで《アークス》は奴との交戦を避けるように通達し、戦闘した者の多くは対処法が分からず胴体を寸断された。
 例えば地下坑道にいるビッグヴァーダー。コアが内部にあると思った多くのアークスが内部へ進入しようとし、電流で焼死したというのは有名すぎる話だ。その癖露出している兵器やコアを破壊することで撃破可能だというのだから救われない。
《念の為確認しますが、そちらにあの新種の情報はありますか。アポス・ドリオスという名前以外で》
 軽快に返ってくる筈の返答が、なかった。
『流れぶった切ってごめんよ椿君、ただ確認させて』
 むしろこの戦況を好転させてくれるぶった切りなら大歓迎だ。
『良い情報と悪い情報、どっちが欲しい?』
《両方ください》
『自爆出来るらしいよ、そいつら』
 ビュンビュン、カッ。
 風切り音と雷鳴の狭間を縫う、声。リリィの罵声やユキナミの悲鳴が、やけに遠いものに思えてしまった。
『特定の人物かある程度人数集まったら自爆するらしいよ。で、良い情報が』
 また途切れる。そもそも今の情報を相殺出来る良い情報があるようにはとても思えなかった。
 それが、土台からの間違いだった。
『ごめん順番間違えた。今援軍がそっちに向かってるんだって』
 どうして忘れていたのか。通信先にいるのは人の不幸を食い物にする悪魔だということを。
『先に自爆言ったら援軍は悪い情報の上乗せになって良い情報と悪い情報の両方にならなかったねいやー失敗失敗』
 最初から、どっちにしろ最後には最悪となる情報だったということだ。もう怒る気にもならない。
 そんなことより何よりも。
 宙を踊る三体。火を降らせたり、氷刃を展開したり、電光石火の速度で移動したりしている奴らが自爆したら、その規模はどの程度だ。
《椿、聞こえるか?》
 最悪の結果を簡単に演算してしまえる中で、今最も連絡が欲しかった人物からの通信が届いた。
 このシップにおける実力者、途方もないフォトンを内包し、それを剣に乗せ、人外の強さを発揮する男。突撃隊長であり現場指揮官でもあり、あらゆる可能性を生み出し壊し尽くしてしまえる放浪者。
『取り敢えずフーちゃんは爆発しない範囲まで近づくつもりらしくて、くーちゃんは援軍が遅れるようにバースト祭り。ヴァント君は――どうするつもりなんだろう?』
《大凡の状況は把握している。が、正直俺も諷雫も空雅もそこまで一気にたどり着く手段がない》
 そんなヴァントが何を言いたいかなど、考えるまでもなく。
《責任は俺が取る。現状をどうにか出来る方法を考えろ》
 それは余りにも無茶な注文で。
 けれどそれに応えなければ、主を危険に晒す。いや、それだけじゃない。主をどうにか離脱させられたとしても、椿が持つ戦力的協力者達が死ぬことになる。
 疼く片目を押さえて、情報を洗い出す。《アークス》が連絡ミスをしてしまっても問題ないレベルで情報を収集している椿の中で、既に取るべき一手は決まっていた。
《了解しました――本部へ。兵器支援を申請》
 ひっ、と女性の悲鳴が聞こえたが、椿は無視した。
 必要なのは、黒幕であろう人物の想定にない絡め手。対策済みであろう個々人の能力ではなく、もっと強烈な、《アークス》によるダーカー対策の中で、新しすぎて想定に入れられていないもの。
《リリーパ第三採掘基地に配備予定の、新大型兵器の転送を要請します》
《え、それって――》
《まさか、A.I.S!? でも、あれは広い場所じゃないと》
 ――そんなものは情報開示時点で確認済みなんですよ。
《既に住民避難が済んでいる、かつ大きな道路のある市街地なら可能です》
《で、でもでも、エネルギーは》
《計算ではフォトンキャノン数十発分で足ります》
 採掘場で数十分で取れる程度のエネルギー、対ダーカーの為の配備を前提としている市街地なら十分供給可能なはずだ。
《ですが、フォトンキャノンはゲル・ブルグに使うもので》
 ――ああ、まどろっこしい。
 時間のない中で、可能不可能ではなく許可を得るのに手間取るなど椿にとっては無駄でしかない。
 即座に勝負に出た。
《――ならばクエストの破棄を!》
 クエスト破棄。それは敵前からの、完全なる逃亡宣言。
《現れるかもしれないダーカー兵器の為に今必要な支援が出来ない、その程度の危機ならこちらは身の安全を優先します!》
 多くの者はペナルティや周りからの評価が落ちることを恐れ、また全てを放棄して逃げるという罪悪感に耐えられずギリギリまで選ばない手。しかし、逆に認められればその後どうなっても責任を負わされることはない。
《『それが通信班の総意なら』、生存すべきアークスとサポートパートナーを連れて避難します! ――勿論マスターもヴァントさんもですよ!!》
 実際にはそんなこと他の面々は認めないだろうし、敵も見逃してくれない。本当に逃亡が認められればきっと即座に自爆だろう。
 ――けれどそうした事情を知らない人間にしてみれば、椿の言うとおりになれば戦線は間違いなく崩壊である。
 もうやだあの子、もうあの子の支援申請受けるのいやぁ、なんて泣き声は勿論無視する。
《……四機、それが限界だ》
 かくて、オペレーターの司令塔であるヒルダの許可を得た。
《分かってると思うが、その場に転送させることは出来んぞ》
《勿論です。転送位置とルート設定はそちらにお任せします。搭乗員については追って連絡します》
 椿は即座にヴァントへと連絡し、戦場へと戻った。



 まただ。
 ――ッチ!
 マンルーンは狙っていた標的ではなく、潜り込んできた一匹に大剣を振り下ろした。生半可な一撃に、敵は動じることもない。
 アポス・ドリオスという名前の敵は、とにかく大きい。絵本で見た『気球』というものに似た形、つまり球体だ。
 攻撃自体は大きなしっぽか巨体に似合わない六つの小さな手から繰り出されるので動きに注意していれば避けることは難しくないが、攻撃を当てるのがとにかく難しい。
 何より、三体いる。しかも、同じ種の筈なのにパターンがかなり違う。
 リリィの相手をしているアポス・ドリオス、『雷』はとにかく動きが速い。遠距離を得意とするリリィとの相性が最悪すぎる。マーガレットが援護しているが、動きすぎる的に戸惑っているのが分かる。
 対してマンルーンが相手をしているのは『炎』。火をまき散らしたりするが、『雷』と違ってこの場にいる者全員を標的にしている。そして、ユキナミが追いかけている『氷』も全員を標的にし、また『炎』とペアを組む形で入れ替わり立ち替わり攻撃してくる。
 マンルーンとユキナミ、相性は悪くない。さっきから相手に入れ替わられる度に、ユキナミがその相手に攻撃してくれている。なのに、その合図に気付けないから、きっちりと入れ替わった相手に攻撃することができなくて、フリーにされてしまう。
 時々リリィの方からこちらに飛んでくる『雷』も、きっとリリィが対応を任せてくれてると思うのだけれど、ちゃんと受け止めきれなくて、またリリィの方に逃げられてしまう。
 自分の弱さが恨めしい。
 がむしゃらとしか言えない攻撃、そんなもので怯んでくれるような敵ではない。防戦とすら言えない状況だった。
《間もなく支援が到着します、それまで持ちこたえてください!》
 先程まで聞こえなかった通信官の言葉に、奥歯を噛みしめる。持ちこたえろ、ということは到底倒せないと思われてるということだ。
 けれど、そんな感情はすぐに消えた。
 ――?
 フォトンが、『近い』。
《ぴ、PSEバースト!? 嘘、そんな場所で!?》
 すぐ近くで生まれた奔流が、夜を明るく染める。
『大剣!』
 その中心にいる筈なのに、その声は普段通りだった。
《は、はい!》
 普段通り、急いで大剣に持ち替え斬り込む。
 主が大剣を望む時は、トドメか接近した敵を追いやりたい時。この場合は間違いなく後者――ダメージを考えず、とにかく衝撃を与えて敵を怯ませた。
『弓! 腕!』
 返答すら惜しんで、弓に持ち替える。バックステップで無理矢理距離を取り、射った。一点集中、陣を生み出そうとしていた巨体に似合わぬ小さな指を撃ち抜く。
『よし』

『そのまま、戦え』

 当たり前の一言に、射抜かれた。
 敵のペースから抜け出すことばかり考えていたマンルーンの狂いきったペースが、正された瞬間だった。
 それを後押しするように、周囲のフォトンが明確な色を持ち始めた。
 ――これは!
 すぐに分かった。
 そうとも、いつだってマンルーンが本気を出せるのは、彼女達のおかげだ。
 通信の音量を、完全にオフにした。
 そうすれば、微かでもここまで届く旋律があった。
 暗い夜を明るくしてくれる、どんな強敵が相手でも負ける気がしなくなる旋律に、ひたすらに耳を傾ける。
 今この市街地のフォトンを魅了し、旋律にどんどん参加させている歌。
 その音の流れに、双小剣を手に、乗った。
 奔流からこぼれ落ちたフォトンを拾い、舞う。音楽に参加し始めたマンルーンに、フォトン達もどんどん応え出す。
 マンルーンは弱い。
 だが、そんな彼女を支えてくれる二人の期待が、想いが、彼女の底力を引き出してくれる。
 ――絶対に負けるものか!
「ァアアアアっ!!」
 体内にあるフォトン全てを乗せる勢いで、剣を振るった。
 


 フォトンの奔流の中心で、童女は隔壁を見ていた。
 周囲からの悲鳴は全て聞き流し、集まるダーカーに手傷を負わせつつ、倒さないギリギリのラインで戦いながら。
 先行させたくーちゃんのマグ越しに見たあちらの『戦況』は、芳しくない。しかも、認めたくはないが、困ったことにくーちゃんや諷雫が行ってどうにかなるものではない。いないよりマシだが、決定打には届かない。
 ジリジリ削るしかない。だから連携とか考えずにとにかく倒すことだけ考えろとサポートパートナーには助言しておいた。
 が、問題はもう一つ。
「ねぇ、みーちゃん」
 返答はない。けれどそんなのはいつものことだ。くーちゃんの司令塔は、声なんてほとんど発してくれない。
 だからくーちゃんが察して聞かないといけないのだ。
「ゆっきー……敵の見分けついてない?」
 残念なことに、肯定されてしまった。
 正直困った。くーちゃんのサポートパートナーは気づいているし、同じ鳥類だからか双機銃を使うラッピーも気づいているのに、主戦力である弓使いサポートもユキナミも分かってないらしい。
 どんな作戦を行うにしろ各個体を把握するのは大事だ。それが出来ていないと翻弄されてしまう。
「お腹のマーク、違うのにどうしてわからないの?」
 戦闘中にそんなの見てられるか、と言われること請け合いな一言と共に、短杖を振り下ろした。
《あーもー、悪い、俺大型の方行く!》
《パーティ分断します、フォースは残して行くんで》
 その間に、どんどんアークス達が爆心地に向かっていく。これはよくない。晩ご飯を待ってもらってるのに自爆されてクエスト失敗なんて、くーちゃんにとってはとてつもない屈辱だ。
 そんな想いが届いたのか、あちらの戦況が変化した。
「ぽいんと、ぽいんと、ぽいんと」
 狙うべき、要点の、場所。
 くーちゃんの言った数だけ貼られたウィークバレット、しかも各個体ごとに場所が違う。あれならどれだけ入れ替わり立ち替わりされようとも見分けられないということはないだろう。
 その勢いを加速させるように、強烈な法撃。炎嵐が炙るように踊った。
 いける、とくーちゃんすらも思った。
 ――カチリ。
 なのに、みーちゃんはその考えを肯定してくれなかった。
 完成してはいけない歯車が、壊された歯車達の最後にして最大の二つが、はまってしまったような感覚がした。



 その嫌な感覚は、マンルーンは当然椿もマーガレットすらも即座に知覚していた。
 椿は一カ所に集まり踊り出すアポス・ドリオスーーではなく、そいつらが生み出しただろう金と黒で装飾された円柱のコアに向けて『印』を付け、マンルーンとラピピが即座に一つ目を破壊。
 あと五つ。その時にはリリィが渾身の連撃で三つを破壊、単独で走っていたユキナミも二つ目を破壊。
 あと一つ、けれど椿からもマンルーンからも嫌な予感が消えない。目に見える柱は後一つだけなのに。
 ――目に見える……!?
 誰よりも先に理解したのは、椿だった。頭上、アポス・ドリオス達が踊る場所から七つの場所へ伸びる力の導線。一つは今、壊されようとしている柱へ。
 では、残り六つは。
《なんだこの塔!?》
《分からんがとにかく壊せ!》
《ウィーク頂戴! イルバタ重ねて!!》
 周囲通信――『隔壁の向こうにいる』アークス達の声が答えだった。脳内の警鐘が激しくなる。
 マンルーンが大砲でアポス・ドリオス達を攻撃ーー全く手応えがない。椿は咄嗟に全員の位置を確認――隔壁の穴もキャンプシップへのテレパイプも、遠すぎる。
 他のアークスが柱を破壊してくれることを祈るなんて、二人には到底出来ない。
 ――死ねない。
 柱を壊せなかったらどうなるかなんて、全く分からないのに。何故か、そう思っていた。
《ヤバイ、なんか起きるよ!!》
《離れて、爆発する!!》
 踊っていたアポス・ドリオスの手が、地面に叩きつけられた。
 地面を割るような、赤い光が走り。
 一番最初にそれが破裂する場所には、『彼女』が。
 キャンプシップに移送され、意識が戻ってすぐここへ戻ってきてくれた『彼女』が。
 そして、『彼女』の元へ誰よりも速く駆ける『彼』の姿が。
 赤い光と青い光の中で、はっきりと見えた。



 ――『素晴らしい』。
 嘲笑混じりのそんな声が、聞こえた気がした。
 知り合いのアークス達の手を借りて、フォトンを必死に吸い込み、揺らしながら。
 周囲の支援をしながらも、ひたすらに『ここ』へ、『この瞬間』を目指して。
 本来なら、決して越えられなかった『時間の壁』を越えて。
 呆気なく壊されたセカイを、呆気なく壊されるセカイを変えたくて。
 なのに。
 ――間に、合わなかったの?
 ビルの上、赤い光に隔壁を越えて突進した三機のロボットが呑まれるのがはっきりと見えた。
 激しい爆発は周囲へ甚大な被害を及ぼし、遠くにいる諷雫にも破壊の風が感じられた。
 それなのに。
《ごめん――》
 ――!?
 ノイズまみれになった通信機は、その微かな声を確かに拾った。
 諷雫は高い建物の屋上から、痛々しい爆発地点を見る。
 ロボットが光と共に回収され、機体に乗っていた三人らしき人物の気配がはっきりと感じ取れた。
 アポス・ドリオスなるダーカーと戦っていた者達も、ロボットを壁に無事だったことが通信機が拾う音声で分かった。
 なのに――。
《ユッキー!? ねぇ、ユッキーは!?》
《ピッ、ピピィ!?》
 一番助けなければいけなかった少年だけが。
《……反応、ありません》
《リユイ、待って、リユイ!》 
 呼びかけに答えない少女の叫びに、呼応するように。
 諷雫は少年――ユキナミの名を絶叫していた。





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目を疑うべき話(Re ver)・完
読了ありがとうございます。

――え、完結ですよ。はい。(Re ver)

キーワードである三つ、ヘッドフォン、アクター、そして街(崩壊)。それぞれを通信機、配役、生きる場とするこの物語の結末は変わりません。

何故なら、これは既に存在した脚本(出来事)をなぞっただけの物語だから。

脚本は差し替えられても、脚本家の意図する終わりを変えることは不可能なのです。


では、この話が紡ぎ直された結末の先はどうなるのか。

それは、別の物語次第でしょう。



Image:自然の敵P、じんさんの「ヘッドフォンアクター」。


<三つの視点を全て御覧になった方へ>

三つの視点は全て矛盾のない、間違いなく起こったことです。 

ある話では希望を、ある話では可能性を、ある話では繰り返される話を書きました。

「あっちだとこんな終わり方じゃなかった」「ここ説明してなかった」というのは各話の「テーマ」が異なる、ぶっちゃけた言い方をすれば「作者達の都合」というやつです。

もっと言えば「同じ出来事すら視点、情報が変われば全く違う見え方になる」というのを自分がとことんまで拘った結果というやつです。


自分達で作った無理難題を、自分達の首が絞まる思いで打開する話を書きました。

というか、六話分かつリンクしてる客人の話との調整に只管時間を割いていた気がします。

「なんでこんなことになってるんだよぉぉぉ!!(矛盾への絶叫)」

「待とう、設定メモ見返してみよう(矛盾に対して困惑)」

「そっちの方がカッコイイじゃないか採用!(矛盾による錯乱)」
必殺ブチ切れ、奥義ド忘れ、秘技ロジックエラー、そんな日々でした(・w・`)

執筆速度はそこそこありましたが、今回は完全にこちらが遅かったです。

(しかも別ジャンルにハマって読みふけるという浮気行為に走ったのは自分です)


ここからどんな結末が生まれるかは、エピローグとなるお話をお待ちください。自分は「目を開けて見るべき話(Re ver)」というタイトルで執筆予定です。




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