目を疑うべき話(        )、目を開けて見るべき話( 前編   後編  )を経て。

オリジナル歴史改変クエストの開始となります。

同居人の話と、そして目を疑うべき話(Re ver)        とリンクしております。



 記憶に残ることもないだろう当たり障りない――しかし計り知れない被害を受けることになる―― 日の、夕暮れ時。
 諷雫の部屋からベランダを、その向こうに広がる夕暮れを睨むマーガレットの姿があった。
 まるでそこに敵が居るように、或いは世界そのものを憎むように。
 偽物の空は、彼女の気持ちを置き去りに赤へと染まっている。
[ごしゅじさまぁ、もう食べれないよー]
 そんな彼女の元へ届く声と、ベットから顔を出す幼いモノ。その子は周囲を見回し、マーガレットに気づくと安心したように小さなベットから抜け出した。
[おはよー、マーガレット]
[もう夜になるわよ、おはよう]
 お昼寝から目を覚ました幼子は、まず軽食を取る。小さな身体は大量の食事を必要とするのだが、一回に食べれる量は他のモノに比べて少ない。
[むぐぐ、マーガレット?]
[なに?]
 むむ、と幼子は食事を終えてマーガレットの様子を伺う。
[怒ってる?]
[夕日、嫌いなのよ] 
[え、どうして?]
 躊躇いすら覚えず、幼子は首を傾げる。マーガレットは顔を逸らした。
[とにかく、嫌いなの。あんただって、遊べなくなっていやでしょ?]
 詮索はされたくなくて、質問で返す。用意されたお菓子を眺めていた幼子はコテンと身体を傾げた。
[んー、僕は好きぃ]
 予想外の返答、けれど後に続いた言葉にマーガレットは目を見開いた。
[だって、ちゃんと一日が終わって、明日が来るってことでしょ?]
 それは、幸福を信じられるからこその答えだった。
 夜が来れば眠るだけ、安全で穏やかに夜は過ぎる。明日は必ず訪れて、そして間違いなく良い日になると幼子は確証なく信じているのだ。
[それに夜になれば、ご主人様やマンルーンやマーガレットや椿と沢山お話できるもん]
[ばかね]
 それでも。
[でも、そうね。そう思えば夕日って悪くないのかもね]
 どうやら大人なはずのマーガレットも、まだ夢を信じたいらしい。
 珍しいマーガレットの微笑に幼子、『マグマグ』がちょっと誇らしげに笑い――

「うざい」

 突然の飛来物に見舞われた。
[ぷぎゃあああああ!?]
[マグマグー!?]
 先輩マグのヴァンマグに激突され、幼いマグであるマグマグはあっさりと吹き飛ばされ地に沈む。
 アークスの傍らにあり、『共有』という形で力を貸す機械生命体、マグ同士の熱烈な衝突を作り出した青年に諷雫が叫んだ。
「ヴァントさん!? いきなりどうしたんですか!?」
「いや、なんとなく空気が気に入らなかった」
「理不尽です!」
 自分が所有するマグの気持ちならまだなんとなくわかるが、余所のマグの会話なんてわかるわけはない。しかしヴァントは何かを察して、思わず自分のマグを投げていたらしい。
「それより、早く行くぞ」
「あ、はい。マグマグちゃん、マーガレットちゃんも行きますよ!」
[ふぁい?]
[どうしたの?]
 
「緊急クエストです」

 市街地襲撃まで、後十分。



目にモノ見せてやるべき話



 ヴァントと連れ立って、適当な惑星の自由探索を受注し、キャンプシップを手配する。
 そのまま襲撃発生までキャンプシップで待機して準備を整え、市街地はストリートエリアに向かうという算段だ。
 普段の諷雫ならありえない連れに驚く受付嬢に「他のヒトは現地で合流するんです」と告げてキャンプシップへ。
 通信機『外』からの通信が飛んできたのは、まさにキャンプシップに乗り込んだ瞬間だった。
『何してる?』
『おい、まさか予告緊急クエスト行くつもりじゃないだろうな』
 託宣よりも確かな声が、諷雫の中に残っていた不安を散らすようだった。
 特殊回線、オラクルですら認識できない繋がりから届いた声。
 向こうとこちらは、繋がっている。それはとても小さな繋がりだけれど、確かに影響し合っている。
 隣では、大胆不敵な笑みを浮かべたヴァント。
 きっと、事態をある程度把握しているのは彼とシャオとシオン、そして諷雫と黒幕だけ。
 余りに少ない手数、それでも繋がったチャンス。
『くーちゃん、ヒニンさん、力を貸して下さい』
 逃す手は、あり得ない。
『緊急クエスト、起きるんですよね?』
 正確には、絶対に起きる。
 今ここにいる諷雫は、本来『二日後』に存在する諷雫である。
 空想図が描き出した過去と現在ー過去から見た未来ーを繋ぐ点、歴史的ターニングポイントへと時間遡航した諷雫なのだ。
 ここに、未来と可能性を識る諷雫が来て、意識的に歴史改変を行うことで、未来が変わる。
『……歴史改変クエストかよ。分かった、なら俺は別パーティで動くから』
『お願いします、緊急が出たら情報共有申請を出しますので』
『それは俺の方にないが、フレンドならいけるやつか?』
『はい』
 通信が一端止まり、くーちゃんがパーティに参加してきた。ヴァントは呆れてるが、この後の展開を考えれば渡りに船だ。
 やがて、キャンプシップに激震――最大音量の警告。
《緊急警報発令!!》
「――さぁ、始めようか」
 腐った演出を壊す、歴史改変開始の合図。
 手慣れた様子でクエストを変更、青髪の鬼神はそのままワープ先へ飛び出していった。最初の通信を飛ばし、祈りと共に諷雫も飛び出した。
 瞬間、熱気とダーカー因子を伴った風が吹き荒れ、諷雫の三つ編みにした髪を激しく揺らす。
 警報からたった数分、けれど既に市街地にはダーカー達が溢れていた。
(私は詩になる、破邪の風を呼ぶ)
 思わず法撃を放ちそうになる、けれどまだダメだ。チェックしていたアークス公式の店へと駆け込む。
 各所の転送装置が起動せず、ダーカーが右往左往している為に逃げられない者が店の奥に固まっていた。
 けれどそれに構わず諷雫は店の奥、在庫置き場であろう場所を押し開け、アークスマークの目当ての品を発見した。予定時刻だったからだろう、既に台車の上に乗せられている。
「おい、あんた――」
「アークスの諷雫です。緊急事態なので、こちらを使わせて貰いますね!」
 言うや否や諷雫は台車を引っ張って走り出した。
 いくつもの青い輝きが市街地に煌めく、緊急警報を受けたアークス達が市街地に降り立ち始めたのだ。
 けれど、
《武器の解除パスは――うわっ》
 通信に意識を向ければ虫系ダーカーが、距離が開いている相手には有翼系ダーカーが邪魔をする。
 つい先刻は一般人に徒に襲いかかっていたというのに。
 明確に、事態をかき回そうという意志が見え隠れしている。
 たった二人を孤立させる為だけに。
 諷雫は市街地の奥を見つめる。ユキナミがいるだろう場所へと。


【EMERGENCY CALL!ーATTACKー】


 脳裏に響く命令、そして胸に過ぎる想い。
 ――大切な物を失った時、あなたはどうしますか?
 思えば、今まで自分は一体何を守れただろう。
 思い出すのは小さな少女、空想のお友達。彼女は十年前のあの日いなくなってしまった。
 思い出すのはアークスの活動エリアに度々足を運んでくれた女性。彼女も市街地の襲撃で消息を絶ってしまった。
 そして――つい最近。
『……心配は無用ですよ』
 自信がなさそうで、消極的で、だけど親近感を覚えた。持て余す力と周囲との軋轢という諷雫にとってもフーナにとっても共通することを、彼も抱えていたから。
 そんな彼が大切な存在を失い変わってしまって、どうにか力になりたくて。それなのに。
『誰よりも強くなって彼女の死に報いる』
 ――彼女はそんなことを望んではいない!
 そのたった一言が、叫べなかった。踏み込むことを、また躊躇してしまった。
 空想の少女が消えてしまう時も怖くて碌に動けず。女性がいなくなったことにすぐに気づけなくて。
 そんな自分が、嫌で悔しくて。
 でも、もう迷わない。
 十字路、どこを見てもダーカーが見える位置へたどり着いた瞬間、台車の中身を思いっきりひっくり返した。
 ――失った時を考えるくらいなら、失わないように強くなります。
 まっすぐな目を思い出す。鋭いアイスグリーンの目のサポートパートナーの真っすぐさ。
 その姿が、『フーナ』の後悔と迷い、『諷雫』の卑屈さと躊躇いを打ち砕いてくれた。
 自分はアークスだ。守れなくて、戦えなくて何がアークスか。
 自分は謳える。詩は常ならざる力を持つ、想いを形にする奇跡の御技、使わなければ意味がない。
 過去に来る前、襲撃の後のサポートパートナー達の様子を思い出す。
 傷ついた青年は、無関心を装ってたが傷ついていた。まっすぐな少女は、平静を装っていたけれど辛くないわけがない。
 何より、失った少女の涙。
 全てを拒むように眠った少女。愛おしさを守る為に忘れないことを選び、忘れられないから哀しくて声を枯らして泣き続ける少女。
 ――そんな未来は、イヤだ。
 タイムパラドックスなんて恐れない、過去を変えるなんてズルいと言われたって構わない。
 ――失うばかりの未来なんて、もう嫌だ!
 想いのままに、諷雫は通信機に手を当てた。
 つながった回線を察知し、無数のダーカー達がやってくる。
 それでも迷わず、諷雫は叫んだ。
《解除パスはスクリーンに出てる数字です!!》
 それは、事態を把握できるのに伝える術のなかったオペレーター達の悪足掻き。――市街地の通信への、無差別レベルでのアクセスによる情報配布。
 そしてスクリーンには、諷雫の報告により本来より三十分近く早く青い画面に数字を並べた――解除パス。
 諷雫には、並べられた数字以外のメッセージが確かに見えた。


【EMERGENCY CALL!ーRESQUEー】


 少女を生かす為に彼が死んだのも正義なら。
 彼を生かす為により多くを助けることだって正義だ。


 想いのまま、炎撫(サ・フォイエ)が諷雫の周囲に転がっていたピンクの玉へ点火。
 瞬間、夕闇が迫る市街地に花火が無数に打ち上がった。
 急なライブの為花火を準備しきれず、代わりにと使用されたのは毒素を抜かれた砲閃花――夜になれば発火で花火を出す惑星ウォパルに群生する植物。
 そして、その花火の残滓は店の中にいる一般人に触れることはなく、アークスにも襲いかかることなく、ダーカー達にだけ降り注ぐ。
 誰も知る由のなかった未来への、狼煙が上がった。
 頭上へ打ち上がったホウセンカを確認し、諷雫は謳い始めた。
 音を、波を、揺らぎをフォトンを介してセカイに広め、セカイに語りかける。
 ――私は詩になる。そして暗い空を照らす光の雨を呼ぶ。
《何だ? フォトンがいつもと違う》
《光りながら、音を発してるわ》
 ――テクニック『デバンド』、『レスタ』を同時展開し、一つに紡ぎ直し、実行します。
《誰の影響だ? デバンドとレスタが聴く端からかかってるんだが》
 発声ではなくフォトンで紡がれる旋律は、諷雫が本気でフォトンを行使する際に生み出されるものだ。
 アークスになる条件はフォトンを知覚すること。『フーナ』の場合、視覚や触覚よりも聴覚でフォトンを認識する。
 音、波、揺らぎ。それらは光より遅く、弱い。けれど、『重ねる』ことで時間はかかっても広い範囲へ、続けることで威力を上げていける。
 本来は存在しないテクニックの行使の仕方、途方もない集中力とイメージ、フォトンを要求される行為。けれど、『諷雫』にとっては慣れたこと。
 ――わたしはあなた、あなたはわたし。
 そんな『諷雫』にとって当たり前の行為を、このセカイの『フーナ』の肉体で行い、
 ――エネミーデータではなくアークスと一般人についての位置情報を優先的に視覚化、テクニックの効果範囲に設定します。
 同時に『諷雫』の詩の範囲を『フーナ』が格段に広げられていく。
[ヒニンさん、マーガレット、くーちゃんからの周辺情報を受信、受信、受信ー! ご主人様の効果範囲拡大、拡大中ー!!]
 彼方からも花火が打ち上がり始める。他のアークス達も各ショップに配布されたホウセンカを利用し始めたのだ。
 爆発音と歌声、本来のこの時間に存在しなかったもので、破壊音と悲鳴に満ちるはずだったセカイに音を溢れさせる。
 そして凝縮された蒼光が市街地の中心で乱舞を始め、別の方向でもフォトンが赤黒い光を塗りつぶすように輝き始める。
 けれど、ダーカー達の勢いがなくなる訳ではない。
[! ご主人様!]
 マグマグからの警告、聞き終えるより先に長杖を振るう。
 ――外した!
 杖の範囲から避けた浮蜘蛛が、ジジジと不快な音を発する。普段なら即座に法撃で倒せるが――謳いながら、別の法撃は使えない。
 先輩達に『殴りフォース』としての心構えや訓練はつけてもらったが、やはり実践は中々厳しそうだ。
 詩をキャンセルか攻撃系に変えればすぐ倒せる。ただし、そうなれば当然効果も全て消え、範囲もまた最初からになってしまう。
「絶対に、詩だけは止めませんから!」
 たった一匹の雑魚相手に、それは許されない。
「流石ですわ」
 涼しげな声が、駆け足の音と共に諷雫の決意を賞賛し。
 地鳴らしを起こすような重い音と共に、諷雫の眼前にフォトンで形成された拳が浮蜘蛛に振り下ろされていた。
 諷雫に意識を集中していたダーカーは為す術もなく削られ抉られ塵へ還る。
「ソラシズク殿、無事か!?」
「トラヴェルガーさん!」
 詩を止めることなく、野太い声に振り返る。足音とは別方向からブースト音と共にこちらへ来るのは黄色のボディに黒のライン、胸には雄々しい獣を模したブレストライオンが輝く男性キャスト。
「ああ、出遅れましたわ」
 再び聞こえた女性の声、そして独特の機械音と共に地面に浮かび上がった青いサークルが――先程まで浮蜘蛛がいた箇所から移動し、別の群へ。
 今度は青い光そのものが敵へと降り注いだ。
「ふぅ」
 一瞬の内に群を消滅させた女性キャストは喜ぶことなく、片膝立ちの状態から立ち上がって、諷雫に微笑んだ。
「ナイスファイトですわ、フーナさん」
 胸元が大胆に開かれた漆黒のドレスを身に纏い、恥ずべきものなど何もないという体で歩くその姿の方が諷雫にはずっと格好良く見えた。
「陽動しつつの牽制、並びに周囲への情報送信。夫がいなければ惚れてしまう程カッコいいですわ」
「おお、お主か――」
「夫でもない殿方が軽々しく私の名前を呼ばないで下さい」
「う、うむすまぬ」
「お二人ともありがとうございます」
 礼を言いながらも、諷雫は周囲に気を配る。拳を構え直したトラヴェルガーは満足そうに肯いた。
「本当に成長したな。ジャンの指導の成果か」
 言い終わるより先に、大きな拳が近寄っていた蟷螂ダーカーを吹き飛ばし、
「アークスとして当然ですわ。何でもかんでも年寄りどもの成果にされてはたまりません」
 一般人の避難路に向かっていた小蜘蛛ダーカー達の行く手を遮るように銃弾を撃ちまくる。
 周囲のアークス達も、憂いがなくなったことで次々と戦いの手を強めていく。
 いや、憂いの全てがなくなった訳ではない。未だ本部側との通信網は回復せず、そこかしこから被害報告や救援要請、大型ダーカーの出現が報告されている。全体通信の範囲も狭くはないとは言え、市街地全てに届くモノではないから被害の全容もつかめない。
 だが、
《死にたい奴から前に出ろ!!》
 それを覆す程の鬼神の声と共に、ダーカー達の多くが青い大剣使いの放つフォトンに意識を逸らされ、
『サケサケサケ!』
 鬼神の指示で別地点に降り立っていた童女の声と共に、フォトン達が活発化が加速し、
《後方支援だ、D6で転送装置手動で起動完了! このままCにある転送装置立ち上げてくから支援よろしく!》
《了解!》
「流れが変わったな」
「まるでミュージカルのようですね。――フーナさんのウタが流れ出したから、余計に」
 からかうその人に、諷雫は謳いながら苦笑を返す。
 これならいける。本来の歴史を覆し、アークス達が最大限の力を発揮し、被害が最小限に収まり―― 一人の少年の運命が変えられる。
 それを確信する諷雫は、完全に失念していたのだ。
《マスター!?》
《はーい、どうしました椿君!》
《マスター、今すぐ戻って下さい!!》
「……忘れてた!」
 自分のサポートパートナーが、自分がいると知ったらどうなってしまうかを。



<2へ>


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お待たせというのも憚れるので、全部纏めて一気に投稿しました。

同時間軸を三つの視点で描くという話、こちらは完全に「改変すべき正史」では起きなかったことが主眼に置かれています。

二話で収めたかったですが、残念ながら一万超えたので安全の為三話に分けておりますorz

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