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ただの乾燥肌体質?…尋常性魚鱗癬(じんじょうせい・ぎょりんせん)とは?


こんにちは。橋本です。


遺伝がかかわるもので、尋常性魚鱗癬(じんじょうせい・ぎょりんせん)という皮膚の病気があります。


この尋常性魚鱗癬という病気。世間に広く知れ渡っている病気ではありません。


なので、「生まれつきひどい乾燥肌体質で…」と困っている子どもの中には、じつはこの尋常性魚鱗癬かもしれないというケースがあるのです。


たとえば、足のすねの乾燥がひどく、肌が魚のうろこみたいになり、カチカチに薄くひび割れる、とか…。


そして、尋常性魚鱗癬は、アトピーともつながりの深い病気でもあります。


尋常性魚鱗癬とは


 


尋常性魚鱗癬は、最も多い魚鱗癬のタイプ


尋常性魚鱗癬は、魚鱗癬(ぎょりんせん)という病気の数あるタイプ(病型)のひとつです。


発症する人の割合は意外にも高く、200~250人に1人の割合だとみられています。


同じ「魚鱗癬」といっても、タイプによって見た目も大きく違い、軽症から重症まで様々。


症状のあらわれ方、特徴によって、いくつものタイプにわかれます。


尋常(じんじょう)とは、「通常の」という意味。


つまり、尋常性魚鱗癬は、数ある「魚鱗癬」のタイプの中でも、最もよくみられるタイプの魚鱗癬というわけなんですね。


さらに、尋常性魚鱗癬は、「最も軽症タイプの魚鱗癬」であることが特徴です。


インターネット上で公開されている写真の中には、ほかの重症タイプの魚鱗癬を「尋常性魚鱗癬」と混同して掲載しているものもあるので、注意が必要です。


なぜなら、魚鱗癬に関してほとんど予備知識のない状態で、そういった画像を目にすると、尋常性魚鱗癬という病気を誤解してしまうことにもなりかねないからなんですね。


 


「尋常性魚鱗癬」は、こんな感じの病気です


魚鱗癬でもっとも特徴的なのは、「肌の表面が硬く、うろこ状になる」という症状です。


もちろん、症状の強さは人それぞれなので、こういった症状が「うっすら」としか出ないケースもあります。


このように聞くと、「ああ、鮫肌のようなもんでしょ?」とイメージする人もいるかもしれませんが、魚鱗癬と鮫肌は、全くの別物。


魚鱗癬は、角質の増殖のスピードが早くなり、それにもかかわらず、角質が固着し、はがれるのが遅れる病気です。


症例写真:尋常性魚鱗癬
症例写真(6枚):尋常性魚鱗癬


では、尋常性魚鱗癬とは、実際にはどんな症状があらわれるのでしょうか?


尋常性魚鱗癬の特徴を手短にまとめると、全体像は次のような感じです。


 


特徴的な症状


・比較的、軽症のタイプの魚鱗癬


・全身的に、肌が極度に乾燥する


・ただの乾燥肌体質と思い込まれるケースもある


・肌の表面の角質がカチカチに硬くなる


・重症例では、角質が褐色調で浅黒くなり、白くひび割れる


鱗屑(りんせつ:硬く張りついた角質のはがれ)が出る


・肌が干からびた田んぼのような見た目になる


紅斑(こうはん:皮膚の炎症による赤み)は通常出ない


・表皮の顆粒層が通常より薄くなったり、消失していたりする


 


鱗屑の状態


・細かいものは、白い米ぬか状


・重症例では、荒く、褐色でうろこ状


 


症状の出やすい場所


・腕や足の皮膚が伸ばされやすい面


・特に足のすね部分に強い症状が出やすい


・背中などの体幹に出ることもある


・ひじ、ひざ内側などの皮膚が縮む場所はきれい


赤ちゃん:足のすね


 


パーマー・ハイパーリニアリティーという症状


・手のひらの手相線が深くなることが多い


・親指の付け根のふくらみ(母指球:ぼしきゅう)に出やすい


・母指球では、指の軸に対して、水平方向に手相線が強くなりやすい


症例写真:尋常性魚鱗癬にみられるパーマー・ハイパーリニアリティー
症例写真尋常性魚鱗癬にみられるパーマー・ハイパーリニアリティー


 


合併しやすい病気


・アトピー(成人まで持ち越しやすい)


・ぜんそく(2歳未満での発症例も多い)


 


発症時期


・生まれた直後には症状が出ない


・生後2か月ぐらいまでに症状が出始めることが多い


 


症状の変化


・気温や湿度の高い夏に軽くなり、冬に悪化しやすい


・冬は硬くなった肌の亀裂によって歩きにくくなることがある


・汗が出にくくなり、体温の調節がうまくいかないことがある


・10代を過ぎると、症状が軽くなることが多い


・成人になると自然軽快する場合もある


 


発症の頻度は?


・およそ200~250人に1人の割合


 


遺伝の形式


・常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたい・ゆうせい・いでん)


・正確には半優性遺伝


・ホモでフィラグリンが完全に欠如 ⇒ 比較的重症型


・ヘテロでフィラグリンが半分量になる ⇒ 比較的軽症型


・人種によって変異するフィラグリン遺伝子が違う


・日本人では、現時点で8つのフィラグリン遺伝子で変異が報告されている


 


確定診断


・遺伝子検索でチェック


・皮膚生検(ひふ・せいけん)で顆粒層を観察する


・特有の症状を多く満たしているか


 


治療方法


・遺伝子(体質)がかかわるため、根本治療はまだない


・保湿剤などで、症状をおさえるのが基本


・角化(かっか:表皮細胞の新陳代謝)の異常に対しての効果を見込み、活性型ビタミンD3軟膏(製品名:オキサロール軟膏、ボンアルファ軟膏など)を使うことがある


・魚鱗癬は皮膚のバリア機能が低下し、吸収が異常に良い場合があるので、外用薬を使う場合は、中毒や副作用に十分に注意する


・重症型魚鱗癬で使うエトレチナート(レチノイド)の内服(製品名:チガソン)は、通常使わない


・アトピーを合併している場合は、通常のアトピーの治療もおこなう


 


治療に使う保湿剤


保湿剤(角質軟化作用のあるもの)


・サリチル酸ワセリン


・尿素配合クリーム


保湿剤(肌の抱水力を高めるもの)


・ヒルドイドソフト軟膏


保湿剤(皮膚のバリア機能を補強するもの)


・セラミド含有クリームなど


 


尋常性魚鱗癬…これ以外にも魚鱗癬には様々なタイプがあり、内臓の病気など、ほかの病気が元で、魚鱗癬が出ることもあります。


そして、アトピーを合併する場合も、しない場合もあります。


そのため、尋常性魚鱗癬かどうかは、こうした尋常性魚鱗癬の特徴をおさえて、専門のお医者さんにきちんと診断してもらうことが必要です。


そして、「ただの乾燥肌体質」と「尋常性魚鱗癬」も、明確にわけていく必要があります。


とはいっても、尋常性魚鱗癬は、重症型の魚鱗癬ではないので、保湿剤のケアで効果が見込みやすいタイプの魚鱗癬ともいえます。


また、そうした保湿剤によるケアで、皮膚のバリア機能が低下しないようにキープしていくことが大事です。


なぜなら、それが魚鱗癬の症状がおさえられるだけでなく、アトピー、ぜんそくの合併という、いわゆるアレルギーマーチの進行を予防できるとも考えられるからです。


 


「原因不明の謎の病気」ではなくなった


尋常性魚鱗癬が、遺伝性の病気であることは、古くから知られていました。


遺伝によって、皮膚が不完全に形成されてしまうんだろうな、という感じでとらえられていたわけです。


インターネット上で公開されている遺伝性疾患のデータベース OMIM( オミム:Online Mendelian Inheritance in Man )では、OMIM#146700という番号が与えられています。


しかしながら、細かいメカニズムなど、「なぜこの病気がおこるのか」という原因は長い間不明とされてきました。


それが、2006年にイギリスで、尋常性魚鱗癬がフィラグリン遺伝子の変異(へんい:違い)が原因でおこることが突き止められたんですね 1)


フィラグリン遺伝子に変異があることで、角質水分保持に重要な働きをしているフィラグリンが減少。


そのために、皮膚がひどく乾燥し、角化(かっか:表皮細胞の新陳代謝)に異常がおこっていたのがわかったわけです。


原因不明の病気が、説明のつく、わかりやすい病気になった瞬間です。


 


アトピーは「アレルギーの病気」から「バリア機能の異常による病気」へ


尋常性魚鱗癬の原因がフィラグリン遺伝子の変異であることがわかったのは、大きな発見でした。


しかし、大きな発見は、それだけでは終わっていません。


さらにこの発見の意味が大きかったのは、


尋常性魚鱗癬の原因遺伝子フィラグリンの変異がアトピー患者の約30~50%に存在する


という報告があったこと。


日本人のアトピー患者でも、少なく見積もっても3割弱でフィラグリン遺伝子の変異があると予想されています。


参考記事:

「フィラグリン遺伝子変異」の発見で、アトピー治療はどう変わったか?


常識的な考え方では、「アトピーはアレルギーの病気」という考えが根強くありました。


もちろん、この考え方はある意味、間違っていません。


しかし、実際には最低でもアトピー患者の3割弱は、フィラグリン遺伝子の変異による皮膚のバリア異常が、病気のはじまりになっている可能性が出てきたのです。


皮膚のバリア異常により、外部からのアレルゲンに感作されやすい環境を作り、アトピーになるきっかけを作ってしまう。


さらには、それに引き続くぜんそくなど、アレルギーマーチにもつながっていくことも考えられるわけです。


そういう意味でも、尋常性魚鱗癬の症状は、しっかりと保湿剤でケアしていくことが大切。


場合によっては、尋常性魚鱗癬かどうかを診断してもらうことが必要かもしれません。


尋常性魚鱗癬の発症の頻度は、およそ200~250人に1人の割合というわりには、なかなか認知度の低い病気です。


しかし、尋常性魚鱗癬を「ただの乾燥肌体質」と軽く見るのは、健康を管理していく上では、「大きな見逃し」ともなりうるわけなんですね。


 


 


 


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参考文献:

1) Smith FJ, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, et al: Loss-of-function mutations in the gene encoding filaggrin cause ichthyosis vulgaris. Nat Genet 38: 337, 2006.