『~literacy Bar~』特選・2023年下半期ベスト5+5+3(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

当該年下半期の推し作品を列挙する拙ブログの年末恒例企画。

下半期は秋まで『これ!』といった推しが見当たらず、選出に些か難儀を強いられていたが、10月以降にボコボコと注目作品が頻出して例年並みの豊作に落ち着いた。内容的には飛び抜けた傑作・名作がない代わりに綺麗にまとまった良作・佳作が多い傾向。特に5位以下の候補が相当数にのぼったため、今回は次点が3つ5位~10位を一括りでカウントという異例の構成になった。

まずは次点の三作品から。

 

 

『隋 「流星王朝」の光芒』(書籍)……突厥にコンパスの針を置いた隋王朝興亡史。李世民が『国内』を統一する間、塞外民族の『抑え』を委ねられていた李建成の重要性が更に増した一冊。尤も、一番面白かったのは隋末に各地に割拠した奇人変人群雄伝。このネタを掘り下げてシングルカットして欲しい。中華史上最強のベジタリアン竇建徳が霞んで見える崔履行とかいう変態無能祈祷師好き。

 

 

『大奥』(TVドラマ)……下半期で最も楽しめたドラマではあったが、ストーリー面で食い足りないことも多く、原作を読んでみたら結構な割合で重要な要素が抜け落ちていたことが判った。改めて大河ドラマの枠で完全版をやれ。他は兎も角、安政の大獄で『ワイは蟄居など屁とも恥とも思わんけど、井伊直弼はあんな大粛清を続けて、果たして安全でいられるかな、フフフのフ』と嘯く廉恥心の欠片も持たないモンスター慶喜のシーンは入れて欲しかった。原作でもドラマでもこのうえなくイヤミなキャラクターになっているけど、慶喜のイジり方を心得ている描き方なので、ひょっとしたらよしながふみは慶喜が嫌いではないのではないかと思う。

 

 

『市民X 謎の天才「サトシ・ナカモト」』(ドキュメンタリー)……こちらは今年最も興味深かったドキュメンタリー。ビットコインの発明者にして正体不明のシステムエンジニア『サトシ・ナカモト』の正体と思惑に迫る佳作で、ドキュメンタリーというよりも正体探しのミステリーを見ているように楽しめたが、終盤の政治的メッセージで減点。折角、パネラーが『サトシに政治的主張は殆どない』と解説しているのに……。

 

次に5位~10位の発表。偶然ながら全てが2023年の秋アニメで、ついでに放送前は殆どノーマークの作品であった。『ウマ娘』『スパイファミリー』『オトナプリキュア』などの事前の期待値が高かった作品がイマイチなのとは対照的で実に興味深い。ちなみに各作品に明確な順位づけはなく、方向性や嗜好の違いこそあれ、ほぼ横並びと捉えて頂いて差し支えない。

 

 

まずは『オーバーテイク!』。寡黙で不器用な高校生F4レーサーと、或る事件を契機に人物写真が撮れなくなったバツイチおっさんカメラマンの交流を描いた作品。5作品の中で敢えて一番を挙げろと言われたらこれ。最初は面白いと思いつつも妙な違和感を覚えてイマイチ入り込めずにいたが、第9話で本作が劇場版クラスの題材を扱っていたことに気づいてから、円盤に焼いておけばよかったと後悔すること頻り。そら、こんなモンを週一のアニメと思って見ていたら、いい意味で作品へのピントが合わなくなるで。F4という私には馴染みのない題材を扱いながら、過度なウンチクや解説がなく、その回その回に合わせた主題をレースから拾ってくるドラマ重視のストーリー展開も好感度の要因。遠景でキャラクターの目が点になる以外は作画動画演出のレベルも高く、安定して見ていられる。唯一の欠点は『ゴッドファーザー~愛のテーマ~』のメロディーが判らなくなることくらいであろうか。判る奴だけ判れ。

 

次は『SHY』。内気で照れ屋でコミュ障な女の子が半人前ヒーローに変身するSFアクション……であるが、実質的には敵の設定やバトルシーンの演出も含めて大人向けプリキュアと評して問題ない、いい意味で。それこそ、本家の『オトナプリキュア』がストーリーのエグさは兎も角、アクション面の不満が残る内容だけに、こちらで不足分の要素を補充出来たのは望外の喜びであった。特に第10話はAパートのツィベタの過去のエグさの『タメ』と、BパートのツィベタVSシャイの氷と炎のバトルの『カタルシス』が近年のアクションアニメでも屈指の出来栄え。久しぶりに(それなりに)マトモな能登麻美子キャラを見られたのも◎。最近だとプロスペラの印象が強過ぎるんよ。

 

『薬屋のひとりごと』は架空の中華王朝の貴妃に仕えるやれやれ系毒物オタクつるぺた少女が、宮廷内外の事件を解決してゆくチャイニーズファンタジー。実は以前読んだコミカライズ版の内容が地味過ぎて、アニメ化の話を聞いても全くのノーマークであったが、世間的な前評判の高さを踏まえて、念のために録画予約を入れておいて大正解。勿論、コミカライズ版もアニメ版もやっていることは殆ど変わらないのだが、画と動きと声がついたことで華やかさが増し、グッと惹きつけられる作品になった。特に色彩。アニメで『色のよさ』に惹かれたのは久しぶり。ミステリーとファンタジーの違いこそあれ、主人公の女の子が宮廷内部の事件を解決する点では昨年の『後宮の烏』と大差ないが、アニメの魅力が圧倒的に上。逆にいうと『後宮の烏』も本作くらいのクオリティでやってくれていたら、もっと話題作になったのに……残念。あと、本作の壬氏のキモさは異常。私の中では竿のない速水真澄のイメージで定着している。

 

そして『地球外少年少女』。近未来の宇宙ステーションの事故に巻き込まれた少年少女が、大人からの救助が望めない状況下で繰り広げるSFジュブナイルサバイバル。主人公の少年が『人間は地球外に住むべき』とか『隕石が落ちて地球の人類は絶滅すればいい』とかギレンやシャアみたいなことを真顔で言い出すのが、ちょっとしたガンダムテイストを感じさせるが、ファーストガンダム自体が大人のいない極限状況での少年たちのサバイバルという『十五少年漂流記』をモチーフの一つとして採用していることを思うと、ある意味で日本SFアニメの先祖返り的作品と呼べる。先鋭化による閉塞感が拭えない日本のSFアニメ、暫くはノスタルジックな設定を見直すのも悪くはないのかも知れない。

 

最後は『経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話』。陰キャの男子高校生と色々な意味で経験豊富な同級生ギャルとの清く正しく初々しい交際を描いたラノベ原作アニメで、5作品の中ではスケール感に乏しいものの、設定とキャラデザが私の性癖にドストライク過ぎて、毎週ニヤニヤしながら見てしまった。白河さんのエチエチシーンを見るだけでも充分お釣りの来る作品であるが、最も性癖に響いたのはチェリーボーイの主人公が敢えて自分から手を出さずに、白河さんが本当にエッチをしたくなるまで我慢することで、ビチ系彼女が貞操観念や純愛の意味に気づく展開。夏祭りで齧りかけで舐めかけのリンゴ飴を見た白河さんが、自分が『初めて』ではないことを改めて思い知らされ、自らの過去に懊悩するシーンは本当に上手いと思った。こういうヒロインを『君は汚れてなんかいないよ』と優しく受け止める主人公とか、ワイ向けに作られたんじゃあないかと勘違いするレベルで好き。まぁ、現実の話ではなく、あくまでも創作方面に限定した話をすると、この嗜好&思考は極論すれば、

 

風俗でヤることヤったあとに『君はもっと自分を大切にしなくちゃダメだよ』と説教垂れるオヤジ

 

の裏返しとの自覚があるが、こーゆー方向性の物語がアニメ化されるレベルでニーズがあったことに奇妙な安心感を覚えたのも事実。ワイみたいな男は一人じゃなかったんやな。

 

 

それでは、ここからはベスト5のランキングに移りたい。

 

 

第5位『破壊王とアントニオ猪木 「相克」の真相』(書籍)

 

 

上井文彦「藤波さんの中で『解雇』と『退団』の区別がついてなかった」

 

もう少しこう何というか、手心というか……。

 

1999年1月4日の東京ドームで行われた橋本真也VS小川直也の暴走マッチに端を発する『橋本真也34歳 小川直也に負けたら即引退!SP』から、ZERO-ONEの旗揚げ、そして、団体の崩壊と破壊王の急逝の経緯を当時の当事者たちのインタビューで探るルポルタージュ。2019年の下半期ベストに挙げた『完全版 証言UWF 1984~1996』と並ぶプロレス界のインタビュー本の双璧と思われる。

ただ、面白さや内容の充実ぶりとは別次元の話として『UWF』に比べると些か陰惨なイメージが拭えない一冊でもあった。曲がりなりにもUWFは『歴史』であったのに対して、こちらは『事件』を扱う内容であり、その『事件』が最終的に橋本というトンパチレスラーの寿命を社会的にも物理的にも縮める結果になったと思えば、関係者の口が一様に重くなるのもやむを得ないのかも知れない。逆に当事者の多くが『自分は知らなかった。事件とは関係ない』と口を拭う中、ほぼ一人だけ『橋本を孤立させたのは団体や長州との間を取り持てなかった僕の責任』と認めた藤波辰爾の誠実さが光った。まぁ、そういう為人であるからこそ、上記の上井氏の言葉のように周囲にナメられ、マスコミやファンからコンニャクドラゴンと不名誉な仇名をつけられたのであろう。人間社会における誠実と有能の関連性を改めて考えさせられた。また、当人が『岐阜の破壊王』と称したように橋本真也はセルフイメージに織田信長を掲げていたが、本作から窺える『開けっ広げな人懐っこさ』と『一度不審を抱いた相手には決して心を許さない頑なさ』は寧ろ、幕末維新の英雄・西郷隆盛に近いのではないかと思った(体型的にも)

瑕瑾を挙げるとしたら、周辺の関係者の証言は質・量共に問題ないが、肝心の当事者のインタビューがなかったこと。橋本は故人、アントンも存命中は聖域扱いであったとはいえ、小川直也の話は聞いてこいよ。小川が真相を語るとはかぎらないとはいえ、それは他の関係者も同じである。発言の端々から何かを感じ取ることこそ、ルポルタージュの妙ではないかと思う。

 

 

 

 

 

第4位『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』(邦画)

 

 

麻実麗「阿久津は? 阿久津に何があった?」

 

そりゃあ、色々とね(意味深

 

シルクハットとステッキだけの登場というヘタな出演よりも印象に残った千葉解放戦線のリーダー。しかも、今回のキーアイテムが し ろ い こ な というのが激ヤバ過ぎて草も生えない。『新聞記者』とかいう聳え立つクソ映画さえなければ、2019年の日本アカデミー大賞の牙城を崩しかねなかった圧倒的埼玉クオリティ映画の続編ということで、事前の期待値と実際の出来栄えのズレを危惧していたが、上記の阿久津ネタを皮切りに充分なテンションで序盤からクライマックスまで駆け抜けた良作であった。前作が120点とすると今作は85点くらいか。45点ダウンは尋常の数値ではないが、これはシンプルに前作がバケモノ過ぎただけである。

今回も愛はあっても情け容赦のない地域イジリネタのエレクトリカルパレードで、被害者ビジネスが幅を利かせる昨今、本作の差別的表現で傷ついたと映画を訴える輩が出現しても俺は意外に思わん(誉め言葉)。前回のギャグは宮田のカウンターのようにスパッと鮮やかに切るタイプであったのに対して、今回は一歩のボディブローのようにやや強引にしつこく積み重ねる様式であったのは、大阪をメインに据えた副作用なのかも知れない。この辺、幾らイジッても笑いとして受け止めてくれる大阪の懐の大きさに甘え過ぎたきらいはあった。本作は自虐ネタで稼いでナンボの映画なのに、滋賀を主人公サイドに据えたことで、大阪や京都に対する他虐的なギャグになってしまったのは否めない。ここは滋賀解放戦線をもっと前面に出して、自虐ネタを推して欲しかった。

あとは当初の目的である白良浜海岸の砂が本当は何処から運ばれているか、このリアルのネタがスルーされたのが痛い。個人的にこれが一番の減点材料かな。まぁ、それらを差し引いても充分面白い続編ではあった。

 

 

 

 

 

第3位『すずめの戸締まり』(アニメ映画)

 

 

岩戸環「いってきます」

 

新海作品という超ド級メジャーアニメ、しかも、前作・前々作は結構手厳しい評価を下しただけに些か心苦しいものがあるが、前作・前々作で挙げた作品の欠点を見事に克服した内容で楽しませて貰った以上、主義や趣味に反してもキチンと評価するのが筋であろうと思い、この順位を用意させて頂いた。ぶっちゃけ面白かった。完敗です。ごめんなさい。ありがとうございました。ただ、昔からの新海推しの方からは私が改良されたと思った点こそが新海作品らしさであり、それゆえ、本作はあまり面白くなかったとの声を聴き、改めて作品の評価や好悪は人それぞれだなぁと思い知った次第。作品の詳細は以前の記事があるので、今回は割愛。

 

 

 

 

 

第2位『水曜どうでしょう~懐かしの西表島~』(バラエティ)

 

 

大泉(娘)「面白い番組だねぇ~。じゃあ、あれだ。パパはまた行って『君たちねぇ、どうして飛べないのに私を呼ぶの?』ってパパがボヤんだぁ」

 

前回のヨーロッパ完結編に続き、またしても番組の趣旨を完璧に理解している大泉の娘さん。流石は7歳にして父親の誘拐を容認した早熟児。次回の企画が何にせよ、その時も娘さんのリアクションを楽しみにしています。

さて、アフリカ、家、ヨーロッパ完結編と近年はイマイチな内容が続いていた(『家』はオチが最高であったけどね)『水どう』。軍団員の高齢化&メジャー化に加えて、TV局のコンプライアンスの強化に伴い、往年のように日本や世界を無理なスケジュールであちこちと飛び回りながら、後部座席にシートベルトもつけずに寝っ転がり、スタッフの家族に危害を加える発言も迂闊に言えなくなった現今、何をやるのが最も『どうでしょうらしい』のかと迷走と模索を続けていたが、今回は久々のヒット作であったろう。極端な話、水曜どうでしょうの本質とは旅でもサイコロでもカブでも釣りバカでも料理でも八十八か所巡りでもない。それらは全て『状況』に過ぎない。視聴者が求めているものとは、

 

理不尽な極限状態に追い込まれた大泉洋が絞り出す至高のボヤキ

 

であり、それは無茶なロケや無理な移動がなくてもやれることを証明したのが本作であった。ロケ先の西表島に向かう飛行機が台風の影響で2~3日飛ばないのが判っているにも拘わらず、毎朝5時半にホテルに集合して何かコメントを出さなければならないという、理不尽極まるシチュエーションから出てくる大泉、ミスター、魔神、嬉Cのコメントの面白いこと面白いこと。全6話中、沖縄に到着した第4話目まではぶっ通しで見ても全てがハイクオリティのボヤキやネタの連続。逆に西表島に到着して以降はロビンソン相手の素人イジリが鼻について不快感さえあった。あくまでも想定外の台風によって理不尽な極限状態に陥ったから今回の面白さが生まれた訳で、もしも、当初の予定通りのロケになっていたら、ここまでの作品にはならなかったかも知れない。バラエティってドラマよりも難しそうだね。

 

 

 

 

 

第1位『銀河英雄伝説 Die Neue These 策謀 第三章』(劇場アニメ)

 

 

ラインハルト「往こうかキルヒアイス、俺とお前の宇宙を手に入れるために」

 

下半期の作品ではブッチギリの安定感で第一位を獲得した『ノイエ銀英伝』。詳細は当時の記事を参照頂くとして、改めて思い返すと策謀編第三章の凄みはほぼ全てにおいて石黒版を凌駕していたことであろうか。勿論、石黒版あってこそのノイエ版というのは大前提であり、石黒版とノイエ版の間にアニメの技術が日進月歩していること、更に第2期の石黒版は海外グロスが多かった影響で主に作画動画がアレしていたことも差し引いて考えるべきとは思うが、それでもラグナロック発動からフェザーン占領に至る間を石黒版とノイエ版のどちらで見たいかと聞かれたら、今回は後者と答えるであろう。逆に言うと今までは石黒版を見たほうが無難ということでもあった訳で、つくづく石黒版の偉大さを痛感している。次回は私が創作の中で好きなバトルランキングで沢村VS間柴、ストライクイーグルVSヤシロハイネスと並ぶベスト3であるバーミリオン会戦が控えているので、このクオリティを維持して欲しい……けど、アムリッツァみたいに次シーズンに繰り越しとかにならないよね?

 

 

 

 

尚、恒例のラジー賞候補には『葬送のフリーレン』が予定されていたのはナイショ。いや、ホンマ、途中までは全く面白いと思えずに『敵だ!』『判らん!』『何がいいんだね!』と劇画の人気が全く理解出来ずにキレた手塚センセみたいな状態であったが、ふとネットで見かけた、

 

『フリーレンはお婆ちゃんと孫の漫遊記』

 

という解釈で殆ど全ての疑問や敵意が氷解した。そーか。そーゆーことか。言われてみりゃあ、フリーレンは観客が感情移入しやすいキャラクターではないし、明らかに経験値のバランスが悪いパーティーにも納得がいく。フェルンがあれこれフリーレンの世話を焼くのも百合展開ではなく、純然たる介護であり、ザインへの投げキッスもツルベタな外見では効果がなかったのではなく、自分の年齢を考えない婆さんの色仕掛けと思えば、ギャグとして更に深みが増す。その視点で見直すと結構面白い作品に思えてきた。本作の人気も『ラピュタ』や『ハガレン』や『幽遊白書』のように強いBBAが出る作品は支持率が高いという、日本の二次元作品の原則が反映されているからかも知れない。やはり、自分以外の作品解釈を読むのは大切やね。

 

 

さて、来年の候補作は……意外なことに現時点では『ない』。『光る君へ』も注目してはいるけど、候補作になるか否かは不確定要素が多過ぎるからなぁ。まぁ、それこそ今回紹介した下半期の5~10位のように全くノーマークの作品が出てくることもあるので、それを楽しみにしたい。