北西の祭典 (セルバンテス賞コレクション)/現代企画室
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今回は、スペインの由緒ある文学賞であるセルバンテス賞受賞者を初訳で紹介する「セルバンテス賞コレクション」の10冊目『北西の祭典』を紹介します。
作者は、スペインの女性小説家アナ・マリア・マテゥテ(1925-)です。彼女の小説の邦訳はおそらく初めてでしょう。私も本書で知りました。
本書の舞台はスペインのアルタミラ。時代ははっきりしませんが、フランコ独裁政権下(1939-1975)だと思われます。
「アルタミラには、点在する三つの村―高地アルタミラ、低地アルタミラ、中央アルタミラがあり、愛想のない眼差しを互いに交ぜ合わせている。大アルタミラと呼ばれることもある中央アルタミラには、村役場と教会の建物が並んでいた(p6)」そして、低地アルタミラは「他の村と比べてひときわみすぼらしい(P6)」。
そんな低地アルタミラを子供の時に抜け出したディエゴは、旅芸人となり、芸を仕込まれた数匹の犬と“だんまり”というあだ名の「愚かで哀れな相棒(P13)」と共に馬車で低地アルタミラを素通りしようとしていた。しかし、通り過ぎる途中に低地アルタミラの少年を引き殺してしまう。
ディエゴは自首するのですが、その際、低地アルタミラの地主ファン・メディナオに裁きの場での助力とやり直すための金銭的援助を頼みます。メディナオは、かつてディエゴを唯一の親友と思っていたことがあったのですが、ディエゴは、その友情を裏切ってメディナオのお金を盗み、一緒に出て行くはずだった低地アルタミラを一人で出て行ってしまった過去があった。
そんな恨みを飲み込んで助力を約束するメディナオ。彼はどのような人物なのか・・・
とまあ、そんな感じで後はメディナオの半生が描かれることになります。物語としては、暴力的ではないのですが、陰鬱とした雰囲気が濃厚です。
ちなみにタイトルの『北西の祭典』とは、低地アルタミラの北西にある墓地から取られていますね。つまり、『北西の祭典』とは、「死の祭典」なわけです。
重苦しいし、派手な事件なども起こらない地味な小説ですが、読者を引き込む力があります。200頁程度の薄い本ですので、興味がわいたら是非読んでみてください。
今まで読んだ『セルバンテス賞コレクション』
1.作家とその亡霊たち(ブログ記事なし)
2.嘘から出たまこと(ブログ記事なし)
3.メモリアス
4.価値ある痛み
5.屍集めのフンタ
6.仔羊の頭
7.愛のパレード
8.ロリータ・クラブでラヴソング
9.澄みわたる大地