ロリータ・クラブでラヴソング(現代企画室):ファン・マルセー | 夜の旅と朝の夢

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ロリータ・クラブでラヴソング (セルバンテス賞コレクション)/現代企画室

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今回紹介する本は、スペイン語圏で最高の文学賞と呼ばれるセルバンテス賞を受賞した作家の作品を集めた「セルバンテス賞コレクション」の8巻目『ロリータ・クラブでラヴソング』です。

スペイン語圏といえば、本国スペインの他に、ラテンアメリカの大部分が含まれます。「セルバンテス賞コレクション」は、そんなスペイン語圏の著名な作家の作品が全て初訳で楽しめるという豪華なシリーズなのですが、あまり売れていないようす。だって、発行部数は1200冊だもん。もっと注目されてもいいと思うんですけどね。

さて、作者のファン・マルセー(1933‐)は現代スペイン文学を代表する小説家だそうですが、本書が初の邦訳で僕も初めて名前を知りました。本書『ロリータ・クラブでラヴソング』は、本国では2005年に出版されたそうです。

タイトルに「ロリータ」なんて言葉が入ると、一部の人たちは目の色を変え、一部の人たちはナボコフの小説『ロリータ』を思い浮かべるかもしれません。が、これらとは全く関係のない話です。

本書の解説にも書いてありますが、ロリータとはもともとローラの愛称で、ローラ自体もドロレスのニックネーム。つまり、ロリータ・クラブとはドロレスが切り盛りしているクラブ(実際は、売春宿)のことです。

ところで、昔から謎なんですが、どうしてドロレスのニックネームがローラなんですかね? 誰か詳しい方教えてくださいませ。

閑話休題。本書の舞台は現代スペイン。主人公のラウル・フエンテスは麻薬部隊に所属する警察官ですが、ある事件を起こして謹慎処分になり、実家に戻ります。実家では、父とその再婚相手、そして知的障碍を持つ双子の弟バレンティンが暮らしています。

ラウルが帰郷したとき、弟のバレンティンは、ロリータ・クラブの娼婦の一人ミレーナを愛し、ロリータ・クラブに入り浸っている状態でした。ラウルはミレーナが弟をだましていると思い込み、弟とミレーナを引き離そうとして・・・。

弟のバレンティンは、善良でミレーナを心から愛しているのですが、実をいうと性的に不能です。つまり、ミレーナへの愛は完全にプラトニックなものです。一方ミレーナは、バレンティンを恋愛対象として見ているわけではないのですが、「全生涯の中で彼ほど優しくて、心の広い人には会ったことがない(P213)」と言わしめるほど純粋で無垢なバレンティンを心の支えとして辛い現実を生きています。

一方主人公のラウルは、悪い人間ではないのですが、変わり者で身勝手で暴力的なところがあります。ラウルがバレンティンとミレーナを引き離そうとする思いと行動は、常軌を逸しているほど強いもので、読んでいてちょっとイラつきます。ですが、半ば職を失い、ほとんど誰からも顧みられないラウルを支えているのは、バレンティンを守るという大義名分だけなのです。

それぞれに問題と孤独を抱えた彼らの行き着く先はどのようなものなのか、興味のある方は読んで確かめてください。

まあ、はっきり言って、読んでいて楽しい小説ではありません。暴力的で腹にズシリとくる重い小説です。ですが、というかそれ故に、時折描かれる、バレンティンのミレーナに対する無垢な愛のエピソードが光り輝いて見えます。胸が熱くなるシーンも沢山ありました。多くの方に読んもらいたいなぁと思います。

備忘録:今まで読んだ『セルバンテス賞コレクション』
1.作家とその亡霊たち(ブログ記事なし)
2.嘘から出たまこと(ブログ記事なし)
3.メモリアス
4.価値ある痛み
5.屍集めのフンタ
6.仔羊の頭
7.愛のパレード