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以前から紹介している現代企画室のセルバンテス賞コレクションの第7巻目。6巻目を紹介してから間が少し空いてしまいましたが、出版されたのは今年の4月です。ちなみに本書は1000部。
作者のピトル(1933-)はメキシコの小説家。本書解説によれば、本国では著名らしいのですが、邦訳は本書が初めて。私も名前すら知りませんでした。
メキシコは、スペインとの独立を獲得するための長い戦いの後、1821年に独立しますが、その後も混乱は続き、ようやく1867年に共和国として形が整います。その後、1910年、世界に先駆けて社会革命(メキシコ革命)が起こり、社会主義体制に代わりますが、1947年にはさらに一党独裁政治が始まり、それが2000年まで続きます。
本書が発表されたのは1984年、時代設定は1973年、一党独裁時代のときです。主人公は、イギリス帰りの歴史学者。メキシコの1914年にスポットを当てた本を執筆しますが、その時の資料の中に自分が幼いころ伯母と住んでいたミネルバ館で1942年に起こった殺人事件のことが記されていた。そして、事件のことを調べようと、伯母を含めた当時ミネルバ館に住んでいた人を中心に聞き込みを開始する。
帯に<疑似>推理小説と書かれているだけあって、殺人事件の真相を調べるという目的は遅々として進まず、ミネルバ館の住人による回想やら恨み節やら自慢やらが延々と続く。だが、面白い。
複雑に絡み合った人間関係を抱えたり、歴史や政治から抑圧から逃れられない人々による体裁を整えつつも、本音が垣間見える会話や独白からは、人が持つ普遍的な弱さや生きることの難しさが表出され、胸を打つ。しかもそれらが殺人事件の謎の絡みつつ提示され、読み手を飽きさせない。文学性とエンターテイメント性が合わさった傑作だと思います。
登場人物が多く、それらの関係も複雑で、さらには、普通の推理小説とは違ってそれをことさら分かりやすく説明しようとはしていません。このため、読むのにちょっと苦労するかもしれませんが、本書には登場人物表も付いていますし、読んでいると自然に分かるようになってくるので、我慢して読み進めると吉。お勧めです。