価値ある痛み(現代企画室):フアン・ヘルマン | 夜の旅と朝の夢

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価値ある痛み―フアン・ヘルマン詩集 /フアン ヘルマン

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セルバンテスコレクションの第4巻目。今回は詩集です。
作者については名前すら知りませんでした。本書解説などによると、作者ヘルマンは、1930年にウクライナ系ユダヤ移民の息子としてアルゼンチンで生まれの詩人、今も存命です。革命家チェ・ゲバラの日記にも名前が書かれていたり、若い頃からジャーナリズム活動や政治活動をしていたそうなので、アンガジェ(政治参加)する詩人であることが伺えます。

詩人に限らず、一般的にアンガジェする芸術家は、その作品と政治の係わり合いの観点から3種類に分かれると思います。つまり、
1.政治性がない、またはほとんどない作品を創作する人
2.特定の政治思想または団体を賛美または支援する作品を創作する人
3.政治を人間の取り巻く環境、特に人間を虐げる環境として描く作品を創作する人
の3つです。

1に属する人といえば、例えば、ピカソ。彼は死ぬまでフランス共産党員でしたが、彼の絵画や彫刻から共産主義を取り出すことはほぼ不可能でしょう。三島由紀夫とかもこのタイプかもしれません。

2に属する人たちとしては、プロレタリア作家とかでしょうか。プロレタリア作家といわれている人達も一枚岩ではないのですが、まあこのタイプでしょう。はっきり言って、このタイプの人の作品は右だろうが左だろうが嫌いですね。

そして、本書を読む限り、フアン・ヘルマンは3番に属する人です。タイトルからして、政治的&社会的な雰囲気が出ていまし、内容もそれを裏切るものではありません。詩を翻訳を通して理解することは困難なわけですが、力強い言葉で語られる誠実な詩、それが僕の印象です。

また、本書の冒頭には「詩人? 何故詩人か?」という講演用に書かれた文章が序文として掲載されています。そこには、「詩が何の役に立つのか?」という詩人または詩を読む人に発せられる心ない問いに対して、フアン・ヘルマンはこれまた誠実に語っています。僕はこの序文だけを読んだ段階で本書を買って良かったと思いました。

ちなみに本書の発行部数は僅か500部。やっぱり、詩集は売れないんでしょうね。