屍集めのフンタ(現代企画室):フアン・カルロス オネッティ | 夜の旅と朝の夢

夜の旅と朝の夢

~本を紹介するブログ~

屍集めのフンタ/フアン・カルロス オネッティ

¥2,940
Amazon.co.jp

セルバンテス賞コレクションの5冊目にして初の小説です。本コレクションの最新刊ですが、本書解説によると、本コレクションは9冊まで出版が決定しているそうです。ちなみに本書は1200部。

作者のオネッティ(1909-1994)は、ウルグアイの小説家。有名になったのは比較的遅いし、作品数も多くなく、翻訳があるのも数冊程度といった感じで、やや地味な印象を与えますが、ラテンアメリカ文学ブームの一翼を担った小説家の一人です。日本では、『はかない人生』が一番有名かもしません。個人的には、『はかない人生』に続き2冊目のオネッティになります。

本書は、南米の架空の町「サンタ・マリア」を舞台にした群像劇です。薬剤師兼政治家のバルテーは長年「サンタ・マリア」に売春宿を設置するために活動していますが、成果はあがらず。しかし、医者兼政治家のディアス・グレイにある法案に対して賛成に回れば売春宿の設置に対してOKを出すといわれ、彼はその法案に賛成を示します。そして、売春宿の経営者として白羽の矢が立ったのが“屍集めのフンタ”です。

このフンタの内縁の妻兼売春婦の“べっぴんのマリア”、売春宿の土地と建物を貸した家の息子の“僕”、その死んだ兄の嫁“フリータ”、フリータの兄の“マルコス”などなど、「サンタ・マリア」に集まる人々は、誰しも思うようにいかない人生に対して苦しみもがく。

しかし、その背後にある苦しみの原因は、結局自分自身のことしか考えられない彼ら自身の心の闇ではないだろうか。でも、救いはないが、かといって完全な絶望もなく、低い位置で流れ生きる彼らに共感する自分がいます。

まとまりには欠ける物語ではあると思いますが、そんなことを忘れさせる力のある佳作といえるのではないでしょうか。