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今回紹介する本はヴェルマ・ウォーリス(1960-)の小説『掟を破った鳥娘の話』です。
作者は、アラスカ・インディアンの血を引く女性作家。本書の他にも邦訳がありますが、読むのは初めてです。
アラスカ・インディアンという民族のことは本書を読むまで全く知らなかったのですが、エスキモーとは別のアラスカ先住民で、エスキモーとは長い間敵対関係にあったそうです。本書は、そんなアラスカ・インディアンの2つの伝説に基づいて書かれた物語になります。
最初に言ってしまえば、本書はかなり衝撃的でした。小説に新しい表現形式を持ち込んだとか、ストーリーやプロットが格別に優れているというわけではないのですが、個々のエピソードの生々しさがすごいんです。
僕は読む前に本書を軽く捉え過ぎていました。伝説に基づいて書かれていると聞いて思ったのは、神や人語を話す動物たちが登場するファンタジー寄りの世界観と、子供が読むことを想定して描かれた穏やかな記述でした。
けれど本書はそれとは全く違います。本書は、アラスカという過酷な自然環境で生き抜くための厳しい掟と、他の部族に対する恐怖や憎しみを根底とした、きわめて現実的な伝説に基づくものです。他の部族の奴隷とされた少女に対する虐待とかが、読んでいて目をそむけたくなるほどリアルに描かれていたりする。心構えができてなかったせいか、本当に読んでいて衝撃的でした。
本書の主人公は、グウィッチンという少年と、チークワイイ(別名:バードガール)という少女の二人。二人とも同じアラスカ・インディアンですが、別々の集団で暮らしています。
アラスカ・インディアンでは、男は狩りをして、日々の糧を得る一方で、女は家庭を守らなければなりません。しかし、グウィッチンもチークワイイも、そういった掟に違和感を覚えています。
グウィッチンは伝説の“太陽の国”を探すための旅に出たいと思い、チークワイイは結婚して家庭に入るのを嫌がり、男と同じように狩りをして自立していきたいと思う。
しかし掟は絶対であり、周りの人々は彼らが掟を破ることを許しません。掟は種族全体が生き抜くために作られたものであり、それを破ることは種族全体を危険にさらすことになるからです。
そんなある日、グウィッチンは父親たちを含む大人たちと狩りに出るのですが、そこで敵対部族であるエスキモーに出会い、自分以外はエスキモー達に殺されてしまいます。そのため、集団には、狩りをする大人たちがいなくってしまい、グウィッチンは最年長者の男性になってしまう。そんな彼には、種族を率いる義務が生じ、“太陽の国”を探すどころの話ではなくなってしまいます。
一方、チークワイイは親から強要された結婚を拒否して、集団から一人逃げ出します。しかし、エスキモー達に見つかり、そのままエスキモーの奴隷として働かされることになる。
その後、グウィッチンとチークワイイはどのような人生を歩むのか、そしてかれらの人生がどのように交り合うのか・・・
とまあ、そういった感じのストーリーですね。
上の書いたようにリアルな虐待の描写などがありますので軽く読める本ではないですが、一読の価値ある小説だと僕は思います。興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。