瀬尾まいこさんの『図書館の神様』の中で、登場人物が夏目漱石の『夢十夜』のことを話していて、その題名が心に残っていました。
『夢十夜』の第一夜には、病に伏せる美しい女の人が登場します。彼女は死に際に「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと会いに来ますから」と男に言い残し、亡くなります。
男はずっと待っている。唐紅(からくれない)の天道が、何度も登り、沈んでいくのを見ながら。
ある時、ふと男の足下から青い茎が伸び、真っ白い百合の花を咲かせます。それを見て、男は、初めて、もう百年たったことに気付くのでした。
『夢十夜』を読んで、もう一度、この本を読むきっかけをくれた『図書館の神様』を読み返しました。
『図書館の神様』には、この話について、高校生がおしゃべりしている場面があります。
「こんなに無防備に愛せるってすごいよね」
「でも、いくら好きでも百年なんて待たないって、普通。俺は二時間が限度だな」
「本当に好きだったら、何年だって待てるんだって」
「だけどさあ、百年待って、百合が咲くだけじゃ空しくない?」
本当にありそうな高校生の会話。深いことを話しているわけでもない。でも、私は、この会話が『夢十夜』の夜の深みに連れて行ってくれたようでした。百年の夜を貫くような愛の美しさと、一方で静かな文体であるが故に、凍えるような怖さも感じます。
「日が出るでしょう。それから日が沈むでしょう。それからまた出るでしょう、そうしてまた沈むでしょう。──赤い日が東から西へ、東から西へと落ちて行くうちに、──あなた、待っていられますか」
(夏目漱石、『夢十夜』より)
こんな情熱的な思いをぶつけてほしい。でも、自分の愛の深さを問われているようで、やっぱり怖い。
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