銀河漂流劇場ビリーとエド 第2話『超能力少女は静かに眠りたい』・① | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第2話 ②、 ③、 ④(終)

 

 いつかの未来、どこかの宇宙。この物語がフィクションなのは言うまでもない。

 前回、保険金殺人に巻き込まれ、危うく宇宙の藻屑にされかけた目つきの悪い男は、そこを
偶然通りかかった謎の2人(?)組に助けられ、そのまま彼らの仲間に加わった。
 男の名はビリー・クライテン。新しい住処は、宇宙船シルバーアロー号。前回で助けられた
直後に連れて来られた見知らぬ場所は、まさにその中心部である艦橋の中だったわけだ。

 天涯孤独な人生を卑劣な犯罪に利用し食い物にする暗黒郷(ディストピア)に愛想を尽かし、
誘われるがまま踏み出した、宇宙を彷徨う漂流生活…それがビリーの新たな日常となった。
 とはいえ漂流生活もまだまだ日が浅く、自分を助けてくれた2人(?)組の正体はもちろん、
自分が暮らす宇宙船についても分からないことだらけで、戸惑うことばかりだった。果たして
この漂流生活がいつまで続けられるのだろうかと、思案に暮れながら船内をぶらつくビリーの
目の前に、その2人(?)組の片方が現れた。

「おはようございます、ビリーさん」
 80年代よりももっと古い、2,30年代に全盛期を迎えたというパルプマガジンの表紙や、
白黒時代のSF映画にでも出てきそうなずんぐり体型のロボットは、クレーンゲームみたいな
両手をカチカチと打ち鳴らしながら、体を軽く上下に揺すった。あいさつのつもりのようだ。

「ああ、おはよう」
「どうですビリーさん。4日くらい経ちますけど、ここでの生活には慣れましたか?」
「まだまだ分からないことだらけだよ。お前らの正体も含めてな」
「最初に説明したじゃないですか。私は見ての通りのロボットで、船長は…」
「生命摂理を支配する不死身究極生物だろ?いきなりそんなこと言われて誰が信じるんだよ」
「そりゃあ、あんな可愛い男の子が来訪者柱の男を足して2をかけた正真正銘のバケモノだ、
なんて言われても簡単に受け入れられないのは分かりますがね。でも本当のことです」
「…俺の頭が追い付いてないってだけか?」
「そうですね。現状を受け入れるために必要な交流がお互い圧倒的に足りていません。それに
我々の方も、ここでの生活を主導出来るほど船の構造を把握しているわけではないんですよね」
「…どういうことだ?」
「それは道々話していきますよ。実はそのことでビリーさんを探していたんです」

 拾って直して使ってる、宇宙船シルバーアロー号。最大収容人数250人超の大型宇宙船に、
乗組員がたったの3人(?)だけでは当然、設備の大半を持て余す結果となり、しかも拾って
直して手に入れたために過去の記録が殆ど残っていないのはもちろん、現在のメンバーに船内
構造を完全に把握出来ている者がいるはずもなく、しかも船長の権限があってなお立ち入りを

拒む超厳重管理区域が、いくつか存在していた。
 そのうちの1つが、シルバーアロー号“ワープ”エンジンルーム…通称『開かずの間』だ。

「だからね、ビリーの歓迎会ついでに船の探検ツアーもやろうかって話になったんだ」
「…なるほどね。で、その『開かずの間』ってのがこの先にあるわけか、船長」
「エド、って呼んでいいよ。船長なんて形だけだし、その方が僕もしっくりくるから。ね?」
 宇宙船シルバーアロー号船長、エドワード・ランディーは、ビリーの顔を真っ直ぐに見上げ
ながら、思わず頬が緩んでしまう愛くるしい笑顔で、ビリーに握手を求めた。
 『銀河漂流劇場ビリーとエド』…ようやくタイトルの意味がつながって、作者的にはホッと
ひと安心、といったところである。

「わかった。よろしくな、エド。それであのロボットのことはなんて呼べばいいんだ?」
「私のことでしたらどうぞお好きなように。それでもあえて私の方から提案するのであれば、
ロボというのはどうでしょう?それが嫌でしたら例えば他にはロボとか、あるいはロボとか、
なんでしたらロボでも構いませんよ」
「…よろしくな、ロボ」
 エドワードはともかく、このロボットとの付き合いだけは何かと面倒なことになりそうだと、
ビリーはこの時点で直感した。
「これでひと通りの自己紹介は済んだわけだな、今さら俺の話なんか必要無いだろう?そこで
改めて聞きたいンだが、なんで俺はこんな重装備なんだ?」
 ロボに連れられエドワードと合流し、『開かずの間』へと向かう道すがらに手渡された服と
装備を身に着けてみれば、どこからどう見てもメガホン持った作業着の現場監督みたいな格好
だが、ガテン系の見た目に騙されてはいけない。

 作業着みたいな防護服は衝撃吸収に耐熱、防弾と、きわめて汎用性の高い防御性能を備え、
腰に吊るした電工ナイフは超振動によってありとあらゆる固体の切断を可能とし、ダメ押しの
メガホンは屋内戦闘での構造物へのダメージを最小限に抑える目的で開発された超音波破砕銃
ということで、そんじょそこらのホームセンターで売っているような代物ではないのだ。
「似合ってるよ、ビリー」
「そういう問題じゃないだろ。なんで探検ツアーにこんな重装備が必要なんだよ」
「だってこれからすごく危険な場所に行くわけだから、備えは必要かなって」
「そいつはいいことを聞いたな。じゃあなんでお前は丸腰なんだ?」
「大丈夫だよ、僕は不死身だから」
「ボクは不死身だから~、じゃないだろうが!武田鉄矢かお前は!そうやってトラックの前に
飛び出して死んだヤツとか実際にいるんだぞ」
「そりゃいるでしょうね、1人くらい」
 いつの時代もそうした輩は常に存在してきたわけだが、それがインターネットの出現により
可視化されやすくなってきたことは、果たして良い事なのか悪い事なのか…後世の歴史研究家
たちの間でも議論が分かれるところではあるが、もちろんそんなことはこの際何の関係も無く、
ただ単にネタが弱いからもう一発かましてみようと思い立った末の一文であり、それ以上でも
以下でもない。
「だから大丈夫だってば、ほら」
 エドワードは、ビリーの電工ナイフ風超振動ナイフをひったくると、頭の脳天から真っ二つ

にでもするみたいにして、自らの顔にナイフの刃をねじ込んだ。
「………………」
 ナイフの超振動で血飛沫が上がり、血糊と肉でニチャニチャと気持ち悪い音を立てながら、
顔の真ん中あたりまで到達したところで、エドワードはナイフを顔から引き抜いた。しかし、
脳天からほぼ真っ二つにされたはずの顔は、引き抜かれる直前には既に元通りになっていた。
「納得してくれた?僕は不死身なんだよ」
 果たしてこのスプラッターな手品はコードに引っ掛かることなく公開出来るだろうか?他は
何の関心も無いといった風な平然とした様子で、エドワードはビリーにナイフを手渡した。

〈続く〉

 

 

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