銀河漂流劇場ビリーとエド 第2話『超能力少女は静かに眠りたい』・④(終) | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

登場人物

 

第2話 ①、 ②、 ③、 

 

 宇宙船シルバーアロー号超厳重管理区域“ワープ”エンジンルームにて、ビリーたちが発見
したのは、人間の脳ミソだった。倫理的に問題アリアリありまくりの生体エンジンをこのまま
使い続ける動機も必然性も存在しなかった彼らは、脳ミソの肉体再生に着手した。
 このまま身元も何も分からないでは、ラチが明かないのだ。

絵と本編はまったく関係ありません(『ジョジョの奇妙な冒険』単行本53巻より)

 

 とはいえ、ほぼイチからの肉体再生は未来的SF世界のテクノロジーをもってしても困難を
極める、まさに神業なのだが、エドワード船長の不死身究極生物としての能力をもってすれば、
彼の言葉通り「DNAサンプルとって培養するだけ」の簡単なお仕事だったようで、医務室の
ベッドに見知らぬ少女が出現するまで1時間とかからなかった。
「……………」
「どうです?見事なもんでしょう」
「ゴールドエクスペリエンス~とかなんとか言ってフザケてた割にはちゃんと仕上がってるな。
あの能力で人間作ったことなんか無いだろうが」
「ベイビィフェイスの方がよかった?」
「リンプビズキットよりだいぶ近くなってきたな」
 ビリーは「しばらくご飯が食べられなくなるから」と忠告を受けたのもあって、医務室での
再生作業には参加せず、一足遅れで仕上がりを目にしたわけなのだが、ドア越しに待たされて
いる間中、スで始まってドで終わるしょーもないネタを、ずっと聞かされてきたのだ。

 超能力ということで、ビリーはしわくちゃの老人みたいな子供を勝手に想像していたのだが、
医務室のベッドでスゥスゥ寝息を立てる10歳くらいの女の子は血色も良く、なかなかの健康
優良超能力少女に仕上がっていた…患者着とのミスマッチな水兵帽と、体をあちこちネジった
微妙にキ妙なポージングで寝ていることを除けば、である。
 微妙にキ妙なポージングは寝相なのかもしれないが、水兵帽はどう考えてもエドワードたち

の仕業だった。再生作業の間中ずっと聞かされてきたネタといい、どうやらアキ〇ラではなく、
スで始まってドで終わるアレ使いでいくつもりのようだ。
「…願掛けのつもりか?それとも寝相アートでもインスタにアップするのか?」
「だって…ねぇ」
「はい。1982年の東京みたいに吹っ飛ばされたら困るじゃないですか、ビリー」
「さんを付けろよロボ助野郎。宇宙が一巡して無限に死に続ける方がマシだってか?…さっき
から誰が理解出来ンだよこのネタ」
「そんなコトいちいち気にしてたら続けられませんよ、こんなしょーもないバカ話。一週間も
更新サボったらあっという間にランキング圏外なんですよ。botも見てないんですから」
botも見てないバカ話

「そうだよ、そんなことよりそろそろ起こして話を聞かないと」
 エドワードが少女の眉間に軽く人差し指を押し当てると、間もなくして少女はまるで何かに
引っ張られるようにグンッ、と体を起こし、ビリー達の方に顔を向けてから目を開けるという、
通常とは完全に逆の手順で目を覚ましていった。

「…………?」
 目つきの悪い男にずんぐりむっくりな古臭いデザインのロボット、そして愛くるしい男の子
と、まるで何かの冗談どころか存在そのものが冗談みたいな連中では、第1話のビリーがそう
だったように、脳ミソ状態から肉体と意識を取り戻したばかりの少女を現実に引き戻すには、
いささか不十分だったようだ。その表情からは、明らかに混乱と戸惑いが見て取れた。
「…どうやら不思議な夢の中にでもいると思っているようですね」
「ここがルイス・キャロルのワンダーランドならお前はタマゴ親父ってとこだな、ロボ」
「せいぜい高い所には気を付けますよ。まぁヘタにパニック起こされるよりはいくらか意識が
ボヤけてくれた方が話が早くて助かります。…我々のことが分かりますか?」
 ロボが少女の顔を覗き込むように近付くと、少女は頭の水兵帽を投げつけて、明確な拒絶と
警戒の意思を示した。当然の反応である。

「寝ボケても反応は正常みたいだな」
「落ち着いて、べつに何もしないから大丈夫だよ。僕の言うこと分かる?」
 今度はエドワードが、ロボを押しのけながら少女の目の前に顔を出した。愛くるしい船長の
つぶらな瞳に見つめられるうち、いくらか警戒心が和らいだようだ。先程とは打って変わった
様子でしっかりと目を合わせながら、少女は首を縦に振った。これもまた当然の反応である。
「…あ……う…!」
「落ち着いて。ちゃんとしゃべれるようになってるから。まずは声だけ出してみて」
「……あ~…あ~……う~…う、う~ん」
「次は、ゆっくりしゃべってみて」
「……こ…こ…は…ど、こ…なの?」
「ここはね、宇宙船の中だよ」

 まだ上手くろれつが回っていなかったが、それでも全く聞き取れないというほどではなく、
心身共に生まれたて同然とは思えない回復の早さはもちろん、それを確信しているかのように
会話を引き出すエドワードにも、ビリーは改めて驚かされた。
 

 半分寝ボケたような頭を引きずりながらなんとか落ち着きを取り戻し、ビリーたちの存在を
受け入れ始めたところで、少女の意識は、ようやく現実へと戻ってきた。そして次から次へと
浴びせられる質問に対しビリーたち3人(?)は、自己紹介から始まる自分たちが知る限りの
全てのことを、包み隠さず正直に、1つ1つ丁寧に答えていった。
 この宇宙船のワープエンジンの動力源として利用されていたこと。
 脳ミソ状態であった自分を発見した彼らが、肉体を再生させたこと。
 自分が超能力者である可能性、そしてそれ以上のことは何ひとつ分からないということを。

「というわけでして、あなたがどこの誰なのか我々には分からないんです。元居た場所へ送り
返そうにも、このままではどうしようもありません。あなたは一体誰なんですか?」
「……あたしが?」
「はい。住所氏名年齢電話番号、その他諸々の個人情報が必要です。とりあえずお名前は?」
「名前……………名前…………………なまえ…………………?」
「…やっぱり思い出せないの?」
「……うん」
「やはり睨んだ通りでしたね」
「どういうことだ?まさか再生作業にミスがあったんじゃないだろうな」
「まさか。船長の仕事は完璧でした、疑う余地はありません。人間の記憶というのは外からの
刺激が無ければ覚え続けていられないんですよ。五感も意識も奪われた目玉と脳ミソの状態で、
何も無い部屋に放っておかれたんです。思い出すことも無ければ記憶が劣化するのは当然です。
本体からの通電で長く使えるファミコンのバックアップ電池と同じなんですよ」
「…お前は真面目な話をしてるんだよな」
「この上なく大真面目です」

「僕が調べたときにも何も出てこなかったから、まさかと思ったけど」
「それでも一応は、普段の生活に必要な体の動かし方とか、単純な道具の使い方なんかは深い
無意識の部分に刻まれているはずですから、割とすぐに復旧出来るでしょう。セーブデータが
消えてしまっても、プログラムが消えるわけではありませんからね。ファミコンと同じです」
 身近な話題に置き換えて、分かりやすく説明しようとしている…と言えば聞こえはいいが、
実際これでは端子の掃除だけで直りそうな気がしてくるから、むしろ逆効果だった。

「しかしこれじゃあ送り返すどころじゃないぞ。これからどうするんだ?このままじゃ俺らと
一緒に宇宙をさまようハメになるんじゃないのか?」
「里親さんが見つからなければそうなるでしょうね。もしかしたら何かの拍子に思い出せるか
分かりませんが、いずれにしてもまた脳ミソに戻ってもらうわけにもいかないでしょう」
「というわけなんだが、俺たちと一緒に行くか?」
「…どこへ?」
「風の向くまま気の向くまま、この広い宇宙をどこまでも、だな」
「………………」
 濃いめのまつ毛に黒目がちの“本体”みたいな瞳が、憂鬱に深く沈んでいた。薄く目を開き、
顔を伏せ、何やら考え込んでいるようにも見えたが、次第に大きくなる鼻息が、単なる居眠り
であることをイヤでも気付かせてくれる。
「まぁ何にしても、とりあえずは名前が必要ですかね。承太郎とかジョリーンとか」
「なんで女の子に承太郎とか名前付けようとしてんだよ」

 こうして、宇宙船シルバーアロー号の漂流生活に、超能力少女が新たに加わった。
 適当になんとなく、一生懸命に考えた名前は、アルル・ランバート。
 再び永い眠りについた少女が新たな能力と共に目覚めた時、シルバーアロー号の仲間たちは
微妙で奇妙な事件に巻き込まれることになるのだが、それはまた別の話。

〈第2話 終わり〉

 

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