筋道立てた斬新さ『カオスシード』
①、 ③、 ④、 了
遠い昔、洞天福(どうてんふく)と呼ばれる国に
「洞仙(どうせん)」と呼ばれる仙人たちがいました。
彼らは、風水術を使い「仙窟(せんくつ)」と呼ばれる洞窟を築きます。
そして、仙窟の力を使い大地の命の源「龍脈」を活性化させ、
大地に命を取り戻すことを使命としていました。
しかし、地上の人々にとって洞仙とは、妖怪を呼び出し地下で
怪しい作業をする、理解不可能な存在だったのです。
洞仙を追い出すために、人々は彼らに賞金をかけました。
噂は広まり、多くの腕自慢や冒険者、異国からの賞金稼ぎがこぞって、
洞仙を狙い仙窟に挑むようになりました。
そして、ひとりの新米洞仙が修行を終えようとしていました。
この物語は、その新米洞仙の冒険記です。
セガサターン『仙窟活龍大戦カオスシード』取説より
とりあえず『カオスシード』を端的にひと言で説明致しますと、
“中華風ファンタジーの世界でダンジョンを作るゲーム”です。
ちなみに『カオスシード』というのはゲーム内に登場するイベントアイテムの名前で、
肝心のゲーム内容をまったく反映していないのが
このゲームのとっつきにくさと分かりにくさに余計に拍車をかけてますが、
ダンジョンなんたらとかなんたらダンジョンとか真正直に名付けてみたところで、
実際遊んだから分かりますがこのゲームの本質を捉えているとも思えないので、
逆に分かりにくいからこそピッタリの名前だったのかもしれません。
洞仙…もといダンジョンのヌシが抱える厄介な背景事情や、中華風ファンタジーな世界観は、
一体全体どこからどうして湧き出て来たのかと思わず頭をひねってしまいそうになりますが、
他に類を見ない独特の世界設定も“理由”や“必然性”という観点で見直してみれば、
意外と筋道立てて考えられていることが分かるかと思います。
“今までに無い”ということはつまり、今までにあるもの“ではない”ということで、
まずはどんなゲームになるかを考えてみましょう。
最初のスーファミ版『カオスシード ~風水回廊記~』が発売されたのは1996年、
開発期間を最大3年で見積もると差し引き93年、ドラクエとFFの『5(共に1992年)』が
発売されてから、さほど時間は経っていません。
それにデベロッパー(開発会社)であるところのネバーランドカンパニー(今は倒産)自身が、
『エストポリス伝記』というRPGのシリーズを既に2本出していましたから、当時の状況的に
RPGを取っ掛かりに考えるのは、あながち的外れではないでしょう。
RPGといえば世界を救う勇者の冒険にダンジョンの攻略ということで、それの逆として、
“攻略される”側を主人公にしたゲーム、すなわち“ダンジョンのヌシをメインに据える”
というアイデアを導き出すのは、さほど難しくはないはずです。
中華風ファンタジーにしても、西洋風の世界観(x、y)が幅を利かせている中での
(-x、y)あるいは(x、-y)として、和風ファンタジーと一緒に考えつくのも容易です。
改めて『PLANETS』のインタビュー記事を見返してみると、当時のパブリッシャー(販売会社)で
あるところのタイトー(スクエニが後に吸収)が、悪党を主人公にすることに難色を示した、
というか「やめてくれ」と言われたそうで、世間から悪者扱いされる洞仙の設定はただ単純に、
“ダンジョンのヌシを悪者にしないためのこじつけ”だったわけです。
おそらくこのことが無ければ当初の予定通り、悪事を働く悪党を主人公に据えていたかも
分かりませんが、そうなったら確実に“人を選ぶ”程度の作品で終わっていました。
ダンジョンのヌシとして正義の勇者を倒すゲームなら、誰でもパッと思い付いて取っつきやすい
かもしれませんが、ゲームに限らず所詮“悪事を働く”のが目を引くのはほんの一瞬だけのことで、
そんなものは長続きなんかしません。
それに「悪者扱いされながらも使命と信念を貫く」方が物語的にもグッときますし、
そんな主人公の孤独に寄り添う唯一の理解者として、ヒロインの役割もハッキリしてきます。
といってもこのゲームの場合、主人公自身がダンジョンマスターとして侵入者の撃退生活を
楽しんでいるフシがありまして、サターン版では更にマイペースではた迷惑な描写も増え、
主人公と戦うことになるメインキャラ連中とは揃いも揃って分かり合えないというより
わからんちんばっかりで、しかも外で会っても全然気付かれません。
そんな(良い意味で)おマヌケ全開の描写に加え、誰彼構わず死ぬような世界でもないので、
境遇の割に主人公と物語にはそれほど悲壮感がありません。
人が死ぬようなシリアスな世界でキャラの頭が悪いのはムカつくだけですが、
むやみに死ななけりゃバカでも何の問題もありません。
とりあえず世界観と設定についてザッと解説してみましたが、
突飛な考えの下に作られてきたわけではないということを、理解して頂けましたでしょうか。
次回はさらに複雑で理解に困難を極めるシステムについて、気合いを入れて書いていく所存です。
ということで、また次回。
〈続く〉
↓製作者インタビューが載ってます