Aussie Physio (オーストラリアの理学療法) -4ページ目

Aussie Physio (オーストラリアの理学療法)

日本で理学療法士として働いた後

オーストラリアでPhysiotherapist (理学療法士)になるために渡豪

そんな日々の中での気づき

最近は大学院で痛みのマネジメントについて学んでいますが、本当に沢山考えさせられることがあって非常に勉強になっていると同時に、僕ら医療従事者が行っているマネジメントが(全てではないですが)何パーセントかの慢性的な継続する痛みを引き起こしている可能性があるのではないか、という風に感じています。もちろんそんなことなく、素晴しい治療・マネジメントを行っている医療従事者の方を沢山知っていますので皆がそうだというわけではありません。


では、どうしてそういう風に感じるのかというと例えば急性腰痛の場合、それが非特異性腰痛(Red flagsなどの所見が認められない)であれば、ガイドラインなどのエビデンスによると90パーセントの腰痛は6週間以内に治るとされています(Van Tulder et al 2006)。もちろん全ての患者さんがここに当てはまるわけではないですが、このエビデンスは適切なマネジメントを行うことによってほとんどの患者さんが慢性痛へ進行することを防ぐことができると捉えることもできると思います。


ですが、オーストラリアでも慢性痛の社会的負担は大きく、オーストラリア人の5人に1人が慢性痛を持っているというデータもあります。こちらの画像に載っているグラフは学校のレクチャーで使われたものですが、なにを示しているかというとイエローフラッグがいくつあるかによって、どれだけ痛みが継続する可能性があるかということを示しています。



イエローフラッグが5つもしくは6つある人は痛みが1年経っても回復せず、逆にイエローフラッグが少ない場合は痛みの回復が早い段階で認められていることがわかるかと思います。さらに興味深いところは、最初の6週間の時点では痛みの強度には、イエローフラッグが沢山ある群もない群もあまり差がないことが見て取れるかと思います。しかし、発症より3ヶ月経つころに徐々にその差が出てきています。


これは、慢性痛を有する患者さんは3ヶ月(おおよその急性から亜急性期が終了する時期)を過ぎた時点で急に慢性痛に移行するのではなく、急性期の時点でプライマリーケアの医療者(日本の場合ではDr.がほとんどになると思いますが、整骨院、整体院、鍼灸なども含めた個人経営のクリニックに勤める治療者も含めて)が慢性痛へ移行する可能性を早期発見し、それに伴った最善の対処を行う重要性があることを裏付ける証拠になっていると思います。


では、実際にどういった形で僕ら医療従事者が慢性痛を作り出している「可能性」があるのか(あえて可能性と言わせていただくのは、それが真実かどうかはわからないからです)。


今年出版された Implications of early and guideline adherent physical therapy for low back pain on utilization and costs (Childs et al 2015) という文献に、どれだけの理学療法士がガイドラインに沿った腰痛の治療を行っていたのかという情報が載っていますが、43.2%がガイドラインに沿った治療を行っていたのに対して、56.8%がそれとは異なった治療を行っていたと表記されています。患者が治療院を訪れた平均回数は、2年間のフォローアップでガイドライン群が6.2(SD7.6)回に対して非ガイドライン群は15(SD17.2)回となっています。また、ガイドライン群では非ガイドライン群と比べてMRIやCTスキャンの撮影、脊椎注射、腰椎の手術が優位に少なかったと出ています。


以下に腰痛や、急性期の筋骨格系疾患に対するガイドラインのリンクを貼っておきますが、これらのガイドラインでも急性腰痛においてレッドフラッグの可能性がない場合には、活動性を制限しすぎないこと(不要なベッド安静や日常生活活動の制限)、自発的なマネジメント(他動的なマッサージやマニュアルセラピーに頼りすぎるのではなく、自ら痛みの許容範囲でどんどん動いてもらう)、急性期(最初の4-6週まで)におけるマニュアルセラピーやNSAIDsの使用、Reassurance (主に痛みに対する恐怖心を減らすためにアドバイスや安心感を与えること)を行うことなどがエビデンスとして出ています。

http://www.nzgg.org.nz/guidelines/acutenslbp

http://www.backpaineurope.org/

http:UK!low!back!pain

http://www.acc.co.nz/PRD_EXT_CSMP/groups/external_communications/documents/guide/prd_ctrb112930.pdf

これらのことは、ダイレクトアクセスが行われている海外の理学療法教育では当然のように取り入れられていますが、それでも先ほどの文献のように半数以上のPTがガイドラインに沿ったマネジメントを行っていなかったという状況があります。この背景にはいくつか考えられますが、ビジネスや今だに根強く残っているバイオメディカルモデル(生物学的)だけの偏り、などの複雑な要因が関連しているのではと感じています。


僕がこちらで働きだして実際の現場を肌で感じて思っていることは、クリニックにもよりますが、やはり多くの医療従事者は慢性痛だけに限らず、急性期においてもバイオメディカルモデルのみに沿ったクリニカルリーズニングを行い、それによる治療に専念しているため先ほどのイエローフラッグなどの要因を見逃す、または気づいていてもそれを重要視せずに患者さんへの説明としてtissue dominant (組織の問題のみ)の臨床推論を進めるということが少なからずもあります。


また、ビジネスの要因としてはいかに患者さんをリピートさせるかにフォーカスが当たりすぎ、実際には非特異性腰痛でレッドフラッグもなく、早期に良くなる可能性があるにも関わらず、適切なマネジメント(Reassuranceや恐怖心を減らすアドバイスなど)を行う代わりに、レントゲンを撮りましょう、かなり退行性変化が認められますね、あまり動きすぎないようにして下さい、腰の筋肉が硬いのでもっと治療が必要です、などなどの誤ったアドバイスによってどんどんイエローフラッグの発達を助長している可能性があると感じています(もちろんそういったアドバイスが適切な場合もありますが)。


僕が実際に経験した例になりますが、昨日訪れた新患さん、40代の女性の方で3週間前ほどに荷物を持ち上げる際に腰をひねり、腰に激痛が走り数日間安静、仕事も休んで急性の刺すような痛みは最初の一週間でなんとかとれたが、ズキズキとした痛みがさらに2週間待ってもとれずカイロプラクティックを訪れたそうです。そこでの治療などに関しての詳細は割愛させて頂きますが、アドバイスとして言われたことが、普段行っているヨガや太極拳などのエクササイズをしばらくやめるように勧められたそうです。


その後、一週間で3回治療を受けるも痛みに変化がなく僕の働くクリニックを訪れたのですが、話を聞くところによると腰のストレッチをすると痛みが和らぐようでした。どうしてエクササイズをしないのか聞くと、カイロにしばらく普段のエクササイズを止めるように勧められたことが一番の原因で、いくら自分が痛みが和らぐと感じていても医療者に言われた言葉がかなりパワフルなメッセージとしてこの患者さんに捉えられていたみたいです。問診や身体的評価から、レッドフラッグもなく、非特異性腰痛であること、神経根症状なども認められないこと、ストレッチが本人の症状を和らげていることなどをしっかりと説明し、病態を理解して頂いた上で普段行っているエクササイズを再開するように伝えました。

今回の治療では、腰部筋群やfacet joint に多少の硬さはあったものの、マニュアルセラピーは全く行いませんでした。しかし、ご本人の満足度は実際のハンズオンの治療を受けた時よりも高いとのことでした。こういった症例を経験すると、もしこの患者さんの話から身体的所見のみの情報にとらわれてしまい、本人がエクササイズを止めた理由などにアプローチせず、単純に身体的評価から硬い筋や関節のみにアプローチしていたら、もしかしたらこの患者さんは慢性痛への道を歩んでいたかもしれません(まだ実際に経過を追っていないので果たしてこのアプローチが正しかったのかはわかりませんが)。

僕ら医療従事者の発言は、僕らが思っているよりもとてもパワフルで、いかに簡単に患者さんの思考を良い意味でも悪い意味でも変えてしまうことがあるということを感じています。もちろん慢性痛になる可能性がある原因はこれだけではありませんが、こういった側面も今後考えていかなければならない重要な一部であると思います。大変長くなりましたが、こういった情報がなんらかの形で一人でも多くの患者さんを救えたら幸いです。

今日も読んで頂きありがとうございました!!



Van Tulder M, Becker A, Bekkering T, Breen A, del Real MT,
Hutchinson A, et al. Chapter 3. European guidelines for the management of acute nonspecific low back pain in primary care. Eur Spine J 2006;15:S169-91
Acupuncture またはDry needlingはオーストラリア、ニュージーランドなどの理学療法士がある一定のコースを履修すれば患者さんの治療・マネジメントの一環として使用することができます。

2013年に出版されたAustralian Society of Acupuncture Physiotherapists(ASAP)のガイドラインによると、 Traditional Acupuncture、 Western Acupuncture、Dry Needlingに分けられており、それぞれ違ったリーズニングを基に鍼治療を行います。簡単な説明では以下のようになっています。


• Traditional Acupuncture:東洋医学に基づく経穴に鍼を使用する方法であり、診断、クリニカルリーズニングも東洋医学を基に行う方法。
• Western Acupuncture:経穴に対して鍼を使用するが、東洋医学の評価法は用いず、西洋医学のクリニカルリーズニングを神経生理学と解剖学を基に行う方法。
• Dry Needling:変化もしくは機能障害のある組織に対して機能の向上もしくは再獲得を目的に鍼治療を行う方法。これらは筋・筋膜性トリガーポイント、骨膜、軟部組織などを含む(これだけに限定されてはいない)に対する鍼治療である。

このように、オーストラリアの理学療法士が行っている鍼治療というのは治療者がどのようなリーズニングに基づいて行っているかにより治療法の呼ばれ方が変わってきます。僕がこちらで受けたコースでは、Dry Needlingの分類になるトリガーポイントを主に教わりましたので、Dry Needlingの治療を行っているということになります。しかし、実際に患者さんに説明している時には、Dry needlingと言うと理解してもらえないことも多く、Acupunctureが名前としては一般的に浸透しています。

Dry Needlingがどのような効果があるのかというところですが、筋骨格系の患者さんを診ている方ならトリガーポイントの治療を一度は経験されたことがあると思います。トリガーポイントはアクティブと潜在的なものに分類でき、アクティブな場合は自発的な痛みと関連痛を伴い、潜在的な場合には同様の痛みが筋硬結部位の圧迫により再現されるポイントとされています(Simons et al 1998)。また、トリガーポイントは他の正常な組織と比較して約5%酸素濃度が低く(Bruckle et al 1990)、pHの低下によるブラジキニン、CGRP、サブスタンスPなどの疼痛誘発物質の放出により痛みが生じるとされています(Shah et al 2003, Dommerholt 2004)。

実際にどうしてDry needlingをトリガーポイントに行うことによって痛みの改善が見られるのか、Dommerholt (2004)はアクティブトリガーポイントにおけるケミカル物質環境の改善、収縮筋のリリース、筋疼痛誘発物質の除去、末梢神経感作の正常化、損傷組織の自己治癒力促進、自発的筋活動の抑制などを挙げています。また、Local Twitch Response (局部筋収縮反応)が鍼治療を行っている祭に認められることがあるのですが、Hong(1994)によると疼痛を抑制する即時効果は、Local Twitch Response(局部筋収縮反応)が認められる場合と認められない場合では、認められた場合の方が有意に疼痛レベルが低下していたとしています。さらに、Vulfsons et al (2012)も局部筋収縮反応が起こることにより、先ほど述べたケミカル物質環境の改善などが起こるとしています。

このように、生理学的な背景に基づいて行われているDry Needlingですが、実際に使用している感想としては、マッサージ、徒手的なトリガーポイントリリースなどと比較して、患者さんが訴える痛みがより軽減することを経験します。Llamas-Ramos et al (2014)の研究においても、慢性的な頸部痛を有した患者らに対してDry Needlingと徒手的なトリガーポイントでは頸部可動域、VASなどに有意差は認めらなかったものの、Pressure Pain Threshold (PPT:圧痛閾値)にて有意差が認められたとしています。

鍼治療はこのように即時効果を出すことには有効ですが、もちろん機能回復を促していく上では何が根本にあってそのようなトリガーポイントが出現しているのか、姿勢の指導や運動パターンの修正などと組み合わせて行っていくことが望ましいと考えられます。





References

Australian Society of Acupuncture Physiotherapists., 2013. Guidelines for Safe Acupuncture and Dry Needling Practice.

Bru ̈ckle, W., Suckfu ̈ll, M., et al., 1990. Gewebe-pO2-Messung in der verspannten Ru ̈ckenmuskulatur (m. erector spinae). Z. Rheu- matol. 49 (4), 208e216.
Dommerholt, J., 2004. Dry needling in orthopedic physical therapy practice. Orthopaed. Pract. 16 (3), 15e20.

Llamas-Ramos R, Pecos-Martin D, Gallego-Izquierdo T, Llamas-Ramos I, Plaza-Manzano G, Ortega-Santiago R, et al. Comparison of the short-term outcomes between trigger point dry needling and trigger point manual therapy for the management of chronic mechanical neck pain: a randomized clinical trial. J Orthop Sports Phys Ther. 2014; 44(11):852-61. DOI:10.2519/jospt.2014.5229.

Shah, J.P., Phillips, T., et al., 2003. A novel microanalytical tech- nique for assaying soft tissue demonstrates significant quantitative biochemical differences in 3 clinically distinct groups: normal, latent, and active. 1 1Disclosure: none. Arch. Phys. Med. Rehabil. 84 (9), E4.

Simons DG, Travell JG, Simons LS. Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual Volume 1: Upper Half of Body. 2nd ed. Philadelphia, PA: Lippincott Williams & Wilkins; 1998. 


Vulfsons S, Rtmansky M, Kalichman L., 2012. Trigger point needling: techniques and outcome. Curr Pain Headache Rep. Oct;16 (5):407-412
今日は久しぶりにケーススタディのお話を。

20代後半の女性

Subjective
左肩の痛みにて来院。2013年に肩の急性な痛みと何かが切れる感覚ををネットボール(オーストラリアで盛んなバスケットボールに少し似たスポーツです)をプレイしている際に感じ、フィジオセラピー受診、保存療法(ステロイド注射と理学療法)を8ヶ月行うも症状の改善みられなく、スペシャリスト(整形外科医)受診、ローテータカフ(棘上筋)の手術とその後のリハにて再度ネットボールができるまで回復。

2015年1月(5~6ヶ月前)にネットボールをプレイしている際に、再度似たような痛みを左肩に感じその後徐々に痛みが悪化。特に激しい外傷ではなかったが痛みが引かず、一週間前に一般開業医(GP)受診、MRIにて再断裂はなしとのこと。Mild Bursitis (subacromial + subdeltoid滑液包炎) があるものの特にローテータカフに異常はなし。理学療法受診を勧められ本日来院。

職業:ショップ店員(服を畳むなどの反復的な動きが多く、1日の終わりには痛みが悪化)

疼痛
安静時:肩関節全体に重いジンジンするような痛み(6/10)
動作時:肩関節全ての運動方向にて鋭利な痛み(8-9/10)
しびれ:Ulnar nerve (尺骨神経)領域に継続的なしびれあり(5~6ヶ月前から)

関節可動域
AROM 肩関節 
屈曲 左 95° P1 R1 (PROM 120° P1 R1) 右 175° R1
外転 左 100° P1R1 (PROM 120° P1 R1) 右 175° R1
外旋 左 60° P1R1 (PROM 60° P1 R1) 右 80° R1

頸部 ー 頸部周囲筋群に硬さはあるも肩の痛みは再現されず

触診 : 若干の熱感が肩関節外側部にあり
筋硬結:棘下筋、小円筋、僧帽筋上部、菱形筋、肩甲挙筋にあり

その他の整形外科テストは irritability(どれだけ症状が悪化しやすいか)が高かったため行わず。

評価の判断

ここまでの評価では基本的に主観的評価、客観的評価について述べていますが、痛みの性質からするとIrritability が高いため多くの評価は行えず、慢性的なことを考えるとメカニカルだけの要因ではないのかなと感じました。

また、本人も動かしている際に ”痛くなりそう” というようなことを言っており、かなりの防御性の収縮が入っていました。痛みの治療に関して、本人の過去の痛みなどの経験からくる運動パターンの変化については近年の文献などでも注目されていますが、多くの患者さんは脊柱に関連する場合が多く、今回の患者さんのように四肢の痛みでもそういったCentral sensitisation やPeripherap sensitisation、また運動パターンの変化というのも起こりうると感じた今日でした。

ただ、これが果たして本当にそうなのか、これから介入を行って変化を見ていかないとわかりませんが、今日僕ができる範囲で行ったことは、まず病態の説明(なぜBursitis があったとしても、それだけがかならずしも痛みの原因とは言い切れないということ ー ちなみにこの患者さんも反対側の肩にBursitisがあるのに痛みがないと自分で訴えていました)、肩関節の機能解剖の簡単な説明、そして、動かしていくことの大切さなどを説明しました。

また、自動介助運動による肩関節の運動もプーリーにて行ってもらい、深呼吸と合わせながら行うことによって自分で120°まで屈曲することができることを確認してもらいました。これから徐々に痛みを確認しながら動きを増やしていってもらおうと思っているところです。なんせ Irritability が高いため多くのことができず、シンプルだけど目に見えて動かしていくことが実は危険なことじゃなく、正常な肩の生理機能を保つ上で重要だということを理解してもらうように努めました。

これからどうなるかわかりませんが、また報告させてもらえたらと思います。もし、こういった治療もいいんじゃないか等のご意見ありましたらよろしくお願いします!

それでは今日も読んでいただきありがとうございました。
ご無沙汰しております。

今日ようやく大学院の1学期目の期末試験が終わりました。パートタイムで勉強しているので試験は1教科だけでしたが、Anatomy and Pathology は理解しなければならない内容が多くて大変でした。蓋を開けてみるまで何があるかわからないですが、やれることはやったのであとは待つのみです。


そういうわけで、今日は大学院で学んだことについて少し触れてみたいと思います。

僕が通っているカーティン大学のMaster of Clinical Physiotherapy (Manipulative Major)、今学期の教科は3教科、Advanced Anatomy and Pathology, Advanced Evidence Based Physiotherapy, Physiotherapy Project Proposal の3つでした。

Advanced Anatomy and Pathology では、解剖学をよりMorphology(関節の形態の違いによりどういった動きやファンクションを伴うのか)の視点からと、様々な病態(変形性関節症、椎間板の退行性変化、腱障害、筋損傷などなど)を生理学的な視点から理解することを学びました。OAに関する今までと違った知見など、新しい発見も多々ありました。

Physiotherapy Project Proposal では、自分のテーマ、もしくは大学側があらかじめ用意しているトピックにそって研究をすすめていく科目で、研究自体初めてのことなので試行錯誤しながらすすめている状態です。これは2学期にもつながる科目なので、また報告させてもらいたいと思います。おおまかに話すと、筋骨格系の疾患(頚部痛、腰痛、肘、肩の痛み)が、オフィスワーカーの仕事などで座っている時間とどういった関連があるのか(長時間座っている人と座っている時間が短い人では、痛みの特性が変わってくるのか?)というようなことを目的としています。

Advanced Evidence Based Physiotherapy では、基礎的な研究などの専門用語、研究方、文献の批判的吟味の方法(以前のブログでPICOについて紹介してます ここから)などについて学びました。正直このPICOから導き出す文献の吟味は、今まで自分の持っていた苦手意識から考え方を変えさせてくれる大きなステップとなりました。

そういった内容ですが、マスターをやる価値があるのかどうか。。。高いお金を払ってまで学んだことが使えるのか。きっとそういう疑問はあると思います。

僕はオーストラリアで理学療法士として働かせてもらっているので、こちらの大学院で学ぶことはそのまま日々の臨床に活かせていると思います。けどそれが果たして日本でどれだけ使えるのか...?

僕ともう一人同じコースに通っている日本人の理学療法士がいます(彼と彼の知人が運営しているfacebook のページは こちらから )が、彼はフルタイムで勉強しているので、僕が来年習う予定の Advanced Musculoskeletal Science と Physiotherapy Clinicを今学期に習っているので内容を教えてもらいました。クリニックは実習なので実際に患者さんを治療していくようになりますが、Advanced Musculoskeletal Sicence Assessment に関しては僕が学士で勉強した内容と今の所大きな差はないみたいです。

ただ、2学期からはAdvanced Musculoskeletal Science Managementという、もっとマネジメントの分野に入っていくので、そこでの内容が学士とどこまで違ってくるのかが楽しみなところです。

回りくどくなってしまいましたが、何が言いたいのかというと日本の理学療法士さんで留学を考えている人の中には、こちらで働くために学部に通いたいと思っている人、もしくは筋骨格系などの専門分野で勉強したいのでマスター(大学院)に通いたいと思っている人に分かれると思います。

マスター(専門修士)に通うのであれば、卒業してもこちらの資格が取れないので、その学んだ知識を日本に帰って活かすというようになると思いますが、ただダイレクトアクセスが認められていない日本の現状でそれをどこまで活かしきれるのか。。。悔しいですがそれが今の現状なのかなと思います。ただ、職場によってもし問診や身体的評価などを医師の診断を元に行うのではなく、理学療法士が行う機会があるとすれば、マスターで習っていることは非常に有効になってくると思います。もちろん、そういった機会がなくても学んだ事は保存療法を中心としている患者さんを診る場合には大変有用になってくると思います。また、臨床だけでなく教育の分野に関わっている人(教員や講習会など)であれば、こちらで習った知識や技術は非常に重要な財源になるのではと感じています。

ただ、そういったことが難しい状況であれば、オーストラリアもしくはダイレクトアクセスが認められている他の国々で臨床経験を積むことが、こちらで学んだことを使っていく上では一番効率が良い方法ではないかと思います(こちらの資格を獲得する方法が三木貴弘さんの理学療法士協会コラムによって紹介されてます こちらから)。

ですので、留学を考えている方は自分が卒業してからどういった道に進みたいのか、何がしたいのかといった事を考えていくと、実際に自分がどういった道に進むべきなのか、少しずつ見えてくるのではないかと思います。

長くなりましたが、あくまでもこれは僕の意見ですのであまり気にせず自分が信じる道を進んでいただけたらなと思います。

いつの日か日本の理学療法士が世界の理学療法士と同様に、ダイレクトアクセスを元にしたマネジメントが可能になるように、そしてこういった大学院で学んだ内容が日本でも有効に活かせる環境になるように、課題は山積みですが自分ができることをひとつひとつクリアしていければなと思います。


それでは今日も読んでいただきありがとうございました。




今日は大学で学んだことについてまとめる意味を含めて少し紹介してみたいと思います。

理学療法士の方々や医療に携わる方々はおそらく聞いたことがあると思いますが、 Evidence Based Medicine/Evidence Based Physiotherapy/Evidence Based Practice (EBM/EBP) という言葉が僕らの業界では非常に重要とされています。

なにをもってEBPというのか、みなさん色々な意見があると思いますが、簡単に言うと最新の情報(研究)をもとに最も効果的な治療やマネジメントを行い患者さんの必要とするアウトカムを得ることが基本概念にあると思います。

これは自分の中で出来るだけ心がけようと思っていても、実際の日々の臨床を行っていく上で浮かび上がってくる疑問に対して、実際にどういう風にEBPを適応すればいいのか自分のなかで落とし込めてない部分がありました(というかまだ沢山ありますが・・・)。

また、自分の中で研究よりはやはり臨床が楽しいと言い聞かせている部分もありました。きっとそれは研究を実際に行ったことがなく、研究の本質を理解していないことからくる苦手意識の裏返しなのだと思います。今でも研究の本質を理解できているわけではないですが、それでも少しずつそういった苦手意識に向き合う必要があると肌で感じています。そういった意味でも大学院で研究についても学べることは本当にいい機会になると思います。


それはさておき、実際に自分が分からないこと(例えばこの患者さんどうしてよくならないのだろう?もっと効果的な治療はあるのかな?)といった疑問に対して、どういう風に今まで取り組んできたかというと、文献をただ漠然と検索して、なるべく新しいものを選んでそれに関連することを読み、自分の臨床との関連性を見つけ、そしてそれを実際に自分の臨床に自分なりに取り入れて行う、そういった過程を踏んでいました。

まずこの時点で、では実際にどういった文献を探せばいいのか、まずはそこから修正が必要だったことに気付きました。今まで自分が文献検索を行う場合、例えば頸部痛を有した患者さんに対する理学療法を調べたい場合、「頸部痛、理学療法、徒手療法(マニュアルセラピー)」などと大まかに検索キーワードを決めて検索していました。


ここで僕が本来行うべき行動としては、実際に検索キーワード決める段階として『より細かい質問を自分にする必要があった』ということです。この手助けとなるのがPopulation, Intervention, Comparison, Outcome(PICO:ピコ)を使った考え方です。

どういうことかというと、例えば頸部痛を有する患者さんであったとしても、まずPopulation(もしくはPatient)が ‘頸部痛を有する患者’だと範囲が広すぎます。自分が担当している患者さんが、 術後によるものなのか、関節リウマチ性の頚椎疾患か、交通事故・外傷後か、女性/男性か、子供・高齢者か、などなどの要因によって、調べている文献が大きく変わってきます。(実際の例としてここでは一応オフィスワークを主に行っている若年~中年女性としておきます)。

次にIntervention ですが、要は自分が最も興味のある、検討したい治療法/マネジメントが何かを考えます。例えば自分がもっと治療効果の検討を行いたいと思っていることが頸部深部筋(Deep Neck Flexors : DNF)のトレーニングだったとします(これはDNFのトレーニングだけに限らず、例えば姿勢のアドバイスを行う、エルゴのミックスのチェックを行うなどでも構いません。自分がどこの部分に興味があるかで変わってきます。)

そして次に考慮しなければいけないのがComparison (比較)のグループです。先ほど述べたDNFのトレーニングは行わず、一般的なマニュアルセラピー(頚椎モビライゼーション、頸部筋群マッサージ、ストレッチ指導)だけを行うとします。

(もし本当にDNFトレーニングの効果のみを検討したい場合、本来であればDNFトレーニング群と、何も治療を行わない群に分ける必要がありますが、ethics (倫理的)の問題で、一つの群が全く治療を受けないということは認められにくいと思います。なので、ここでは最初のグループはマニュアルセラピー+DNFトレーニングを行う群、二グループ目がマニュアルセラピーのみの群、に分けることでDNFトレーニングの治療効果を通常の治療に加えることの効果を検証することができるとします。)

そして最後がOutcome です。多くの場合、患者さんの主訴は痛みですからこれらのプログラムを行うことによって、例えば痛みがVASでどの程度改善されたのか、能力低下(例えば今まで30分デスクワークを行うと痛みが出ていたのに今では1時間以上継続して行える、などなど)が改善されたなどの項目を評価することができます。

大まかにPICOを説明するとこんな感じですが、ここで大事なのがこれらの要素から考えられる『質問』が何なのか?ということになります。先ほど述べたように、今まで自分の中で何かを調べたいと思っていた時、漠然と“頸部痛に対する理学療法”とだけ検索していたところから、『オフィスワークを行っている若年~中年女性の頸部痛に対する理学療法として、DNFトレーニングをマニュアルセラピーに組み合わせることは痛みを改善するのに効果的か?』というような具体的な質問が出てきます。

そして、こちらの質問よりもっと具体的な検索ワードとして“DNF トレーニング、頸部痛、若年~中年オフィスワーク女性、マニュアルセラピー”などが思い浮かんでくるかと思います。

これは本当にただの一例にしかすぎませんが、僕らが日々の臨床を行う上で本当に多くの質問・疑問に対面すると思います。そういった時これらのことを少し考慮していくと、今までよりももっと具体的な質問ができ、さらには具体的な答え(治療方法やその効果の検証)が見つかるようになるのではないかと思います。

どういう風に文献を読んでいくかなどについてはこれかまたさらに詳しく勉強していくので、またそれらについてもいつか皆さんとシェアできればなと思います。

長くなりましたが読んでいただきありがとうございました!!