鍼治療について | Aussie Physio (オーストラリアの理学療法)

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オーストラリアでPhysiotherapist (理学療法士)になるために渡豪

そんな日々の中での気づき

Acupuncture またはDry needlingはオーストラリア、ニュージーランドなどの理学療法士がある一定のコースを履修すれば患者さんの治療・マネジメントの一環として使用することができます。

2013年に出版されたAustralian Society of Acupuncture Physiotherapists(ASAP)のガイドラインによると、 Traditional Acupuncture、 Western Acupuncture、Dry Needlingに分けられており、それぞれ違ったリーズニングを基に鍼治療を行います。簡単な説明では以下のようになっています。


• Traditional Acupuncture:東洋医学に基づく経穴に鍼を使用する方法であり、診断、クリニカルリーズニングも東洋医学を基に行う方法。
• Western Acupuncture:経穴に対して鍼を使用するが、東洋医学の評価法は用いず、西洋医学のクリニカルリーズニングを神経生理学と解剖学を基に行う方法。
• Dry Needling:変化もしくは機能障害のある組織に対して機能の向上もしくは再獲得を目的に鍼治療を行う方法。これらは筋・筋膜性トリガーポイント、骨膜、軟部組織などを含む(これだけに限定されてはいない)に対する鍼治療である。

このように、オーストラリアの理学療法士が行っている鍼治療というのは治療者がどのようなリーズニングに基づいて行っているかにより治療法の呼ばれ方が変わってきます。僕がこちらで受けたコースでは、Dry Needlingの分類になるトリガーポイントを主に教わりましたので、Dry Needlingの治療を行っているということになります。しかし、実際に患者さんに説明している時には、Dry needlingと言うと理解してもらえないことも多く、Acupunctureが名前としては一般的に浸透しています。

Dry Needlingがどのような効果があるのかというところですが、筋骨格系の患者さんを診ている方ならトリガーポイントの治療を一度は経験されたことがあると思います。トリガーポイントはアクティブと潜在的なものに分類でき、アクティブな場合は自発的な痛みと関連痛を伴い、潜在的な場合には同様の痛みが筋硬結部位の圧迫により再現されるポイントとされています(Simons et al 1998)。また、トリガーポイントは他の正常な組織と比較して約5%酸素濃度が低く(Bruckle et al 1990)、pHの低下によるブラジキニン、CGRP、サブスタンスPなどの疼痛誘発物質の放出により痛みが生じるとされています(Shah et al 2003, Dommerholt 2004)。

実際にどうしてDry needlingをトリガーポイントに行うことによって痛みの改善が見られるのか、Dommerholt (2004)はアクティブトリガーポイントにおけるケミカル物質環境の改善、収縮筋のリリース、筋疼痛誘発物質の除去、末梢神経感作の正常化、損傷組織の自己治癒力促進、自発的筋活動の抑制などを挙げています。また、Local Twitch Response (局部筋収縮反応)が鍼治療を行っている祭に認められることがあるのですが、Hong(1994)によると疼痛を抑制する即時効果は、Local Twitch Response(局部筋収縮反応)が認められる場合と認められない場合では、認められた場合の方が有意に疼痛レベルが低下していたとしています。さらに、Vulfsons et al (2012)も局部筋収縮反応が起こることにより、先ほど述べたケミカル物質環境の改善などが起こるとしています。

このように、生理学的な背景に基づいて行われているDry Needlingですが、実際に使用している感想としては、マッサージ、徒手的なトリガーポイントリリースなどと比較して、患者さんが訴える痛みがより軽減することを経験します。Llamas-Ramos et al (2014)の研究においても、慢性的な頸部痛を有した患者らに対してDry Needlingと徒手的なトリガーポイントでは頸部可動域、VASなどに有意差は認めらなかったものの、Pressure Pain Threshold (PPT:圧痛閾値)にて有意差が認められたとしています。

鍼治療はこのように即時効果を出すことには有効ですが、もちろん機能回復を促していく上では何が根本にあってそのようなトリガーポイントが出現しているのか、姿勢の指導や運動パターンの修正などと組み合わせて行っていくことが望ましいと考えられます。





References

Australian Society of Acupuncture Physiotherapists., 2013. Guidelines for Safe Acupuncture and Dry Needling Practice.

Bru ̈ckle, W., Suckfu ̈ll, M., et al., 1990. Gewebe-pO2-Messung in der verspannten Ru ̈ckenmuskulatur (m. erector spinae). Z. Rheu- matol. 49 (4), 208e216.
Dommerholt, J., 2004. Dry needling in orthopedic physical therapy practice. Orthopaed. Pract. 16 (3), 15e20.

Llamas-Ramos R, Pecos-Martin D, Gallego-Izquierdo T, Llamas-Ramos I, Plaza-Manzano G, Ortega-Santiago R, et al. Comparison of the short-term outcomes between trigger point dry needling and trigger point manual therapy for the management of chronic mechanical neck pain: a randomized clinical trial. J Orthop Sports Phys Ther. 2014; 44(11):852-61. DOI:10.2519/jospt.2014.5229.

Shah, J.P., Phillips, T., et al., 2003. A novel microanalytical tech- nique for assaying soft tissue demonstrates significant quantitative biochemical differences in 3 clinically distinct groups: normal, latent, and active. 1 1Disclosure: none. Arch. Phys. Med. Rehabil. 84 (9), E4.

Simons DG, Travell JG, Simons LS. Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual Volume 1: Upper Half of Body. 2nd ed. Philadelphia, PA: Lippincott Williams & Wilkins; 1998. 


Vulfsons S, Rtmansky M, Kalichman L., 2012. Trigger point needling: techniques and outcome. Curr Pain Headache Rep. Oct;16 (5):407-412