私の実家はちょっと特殊な自営業をしている。

 

それだけでは収入的に食べていけないので、父は長年ダブルワークをし、私たち家族を養っていた。

私が進学のために実家を出てしばらくしてからは、自営業一本で暮らしている。

 

 

一人っ子の私にとって、この自営業の相続問題が悩みの種のひとつだ。

 

私が継ぐことはないのだが、廃業するにも後継者を探すにも家族の一存で決めることはできない事情があり、関係者との協議が必要となるからだ。

 

父が生きている間に何らかの取り決めがなされればいいが、何も進展がないまま私と、頼りにならない母だけが残されでもしたら…

 

私は事後処理に追われて長期に渡り自宅に帰れず、実家であれやこれやせねばならないのでは、と。

 

一人っ子であるからそれも覚悟はしているけれど、そういう色々を背負うのは、せめて息子が一人立ちしてからにしたく…少なくとも息子の受験と被りませんように…

などと、もはや神頼みである。

 

 

父にはこれまでに何度も「自営のことどうにかせぇ」と話しているが、オレはまだまだ現役やからと聞く耳を持たない。

 

現役のうちに、元気なうちにこそ色々と決めておかんと、と話すもまったく伝わらない。父がこんなに頑固だとは、この歳まで知らなかった。

 

もしくは父の、この職業への誇りみたいなものが、彼を頑なにさせているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

どうにもならず途方に暮れていた私であったが、今年に入ってから、相続の話が急に前へと進み始めた。

 

きっかけは4月にあった法改正。

相続登記義務化がスタートしたことだ。

 

不動産の所有者が亡くなった場合に、相続人が名義変更の手続きをしないと、10万円以内の過料が課せられることとなった。

「ご先祖様の名義のままの土地」があるとまずいのである。

 

定期的に非課税世帯となる現在の実家の経済状況で、10万円の過料はいたすぎる。

と、私は思ったが、おそらく父も同じことを思ったのだろう。

 

自営敷地内の現状の名義を確認し、相続の権利関係者に連絡を取り、最新の名義に整える、というこの作業をとうとう父が始めたのである。

 

 

始めたといってもまぁ、実務を執り行うのは司法書士さんで、父はお金を払うだけなのだが。

10万円の過科以上の額を払うことにもなりそうだが。

 

 

ついでにいうと、父は最初この件について、司法書司ではなく行政書士司務所へ相談に行っていた。

 

しかし相続の話は、最後の最後の手続きは司法書士じゃないとできない部分がある。

…ということを、相談に行った行政書士さんに教えてもらったのだ。

 

知らんかったわー!と言っていた父。

同じく知らんかったわー!な私。

びっくりするのが、こんな私も父も共に、法学部出身であるということだ。

父なんて、院まで出ているのだ。

 

大学で一体何を勉強した?

お互いにウソやろという感じだった。

 

 

 

 

 

 

とにかくこの一件でようやく「相続」というものに目が向いたらしい父は、 自営の廃業、または後継者探し等々の問題についても、「考える。」と、初めて前向きな発言をしたのである。

 

ただし結局、父の一存では何もできないのでまずは関係者と協議の場を持つところからで、その協議自体も行われる予定は今の所無いのだが………。

 

それでも父が前向き発言をしたというだけでそれはもう、この10年の間には一切見られなかった、特大の一歩であった。

 

 

 

同業者の中には、外部からの後継者をやっと見つけ、養子縁組したものの、生活(=自営業)に耐えられずに夜逃げした例もある。

 

そこで生まれ育った私にはこの環境が当たり前でも、外から入るとなるとそれなりに覚悟の要る世界なのだ。生まれ持った向き不向きもあるだろう。

 

だから、何かが決まったからすぐに万々歳というわけでもなく、決まってから後も状況が安定するにはある程度の時間が要る……

 

と私は思っているが、この自営が天職と思っている父にとっては「大丈夫大才夫、誰でもすぐ慣れる」仕事らしく、危機意識はゼロだ。

 

 

父が元気なうちにどこまで進むか。

まさか今回の特大の一歩が、最初で最後の一歩ではなかろうなと、70代の父のことを私はハラハラした気持ちで見守っている。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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