※トリップモノです。
そういう非現実的な話が苦手な方はこの先へ進まれないようお気をつけください。
読んでからの苦情はご遠慮願います。
続きものとなっております。こちら↓から先にお読みください。
1
・ 2
・ 3
・ 4
・ 5
・ 6
・ 7
・ 8
・ 9
・ 10
・ 11
・ 12
・ 13
・ 14
・ 15
・ 16
・ 17
恋愛ビギナー 返り咲き!?
「・・・・私達も逃げましょうか?」
そう告げた私に、驚きの表情を浮かべた彼女。
だけどそれ以上に、自分自身が驚いていた。
なぜそのような事を口にしたのか。
私自身わからない。
疲れた様子の花村さんを可哀相に思ったから?
だけどそれなら、なにも私まで一緒に逃げる必要なんてなかった。
彼女一人を帰してあげればよかっただけのこと。
なのに私は、彼女と共にゲームセンターから逃げ出した。
一応ジャッカル君に「花村さんの体調が悪そうなので駅まで送って来ます。その足で私も帰らせていただきます。」と伝言はしておいたから、『逃げる』という言葉は正確ではないかもそれないが、気持ち的にはまさに『逃亡者』の気分だった。
丸井君達のお気に入りである彼女を攫う逃亡者・・・・とでも言ったところか。
とはいえ、所詮中学生の私が彼女を連れて行ける場所などそう多くはないわけで。
それに彼女の体を考えるとあまり連れ回すのも躊躇われる。
とりあえずゲームセンターを出た私は、「少し静かな場所へいきませんか?」と提案してみた。
「その前に何か食べない?」
「お腹が空いているのですか?」
「お腹減ってるわけじゃないけど、甘い物が食べたいな・・・と思って。」
「あぁ。なるほど。」
「クレープが食べたいなぁ。」
「クレープ・・・・ですか?」
私も小腹は空いているが、正直クレープという気分ではない。
しかしクレープを食べたいと言う花村さんの顔は、ゲームセンターに居た時と打って変わって笑顔。
そんなに可愛らしい笑みを見せられると、連れて行ってあげたい気持ちになる。
しかし困った事に、クレープの店などどこにあるのかまったく知らない。
丸井君なら知っていそうではあるが、彼女を連れだした私が電話して聞くわけにもいかないだろう。
今どこにいる。あいつはどうしたと怒鳴られそうだ。
駅まで戻って駅員にでも聞けばわかるだろうか?
携帯で調べるという手もあるが・・・・。
どうしたものかと考えをめぐらしていると、花村さんは「じゃぁいこう!」と歩きだしてしまった。
「ちょっと行った所にクレープ屋があるんだ。」
「そうなのですか?」
「柳生君は甘いの好き?」
「ええ。どちらかと言えば洋菓子よりも和菓子の方が好きですが。」
「そうなの?紅茶とケーキとか似合いそうなのに。」
彼女の目に映る私はいったいどんな人物なのだろう?
紅茶とケーキが似合うというならそれほど悪印象ではないのだろうが・・・。
花村さんの言う通り、少し歩いたところにクレープ屋を見つけた。
店先に人の姿はなく、2人ゆっくりとメニューを見る。
種類の多さに驚く私に、ここはまだ少ない方だと彼女は笑った。
しばらく悩んだ後、彼女はフルーツが沢山入ったクレープを、私は抹茶と白玉が入ったクレープを頼んだ。
出来たてのクレープを手に、店の前にあるベンチに2人並んで座る。
クレープなど食べるのはどれくらいぶりか?
幼い頃に母と一緒に食べた記憶が頭を掠める。
隣で彼女が大きな口でクレープに噛り付いたのを見て、私も同じ様に一噛みした。
「久々に食べたけどやっぱココのクレープおいしい。」
「以前はよく食べに来られていたのですか?」
「うん。学生時代はよく・・・・・・」
「学生時代?」
「あっ、えっと・・・小学生時代?」
彼女は確か電車通学ではなかっただろうか?
小学生の頃にわざわざクレープを食べにこの駅まで来ていたというのだろうか?
不思議には思ったが、そういう事もあるだろうとそれ以上深く考えることはせず「そうでしたか。」と頷いた。
陽も沈みすっかり夜へと姿を変えた空には、キラキラと星が光っている。
多少の肌寒さはあるけれど、夜風に混じる匂いは春の香りがする。
最近は部活の休みもなく、のんびりとした時間を過ごす事がなかった様に思う。
そのせいか今この時がとても贅沢に思えた。
「なんだかすごく贅沢な時間を過ごしてるみたいだよね。」
「え?」
「ここ最近毎日が慌しかったせいかな?こんなにゆっくりしたの久しぶりかも。」
まるで私の気持ちを読んだかのようにな言葉に驚く。
花村さんを見れば、先ほど私がしていたように空を見上げていた。
その横顔があまりに大人びて見えてさらに驚く。
どのクレープを食べようかと悩んでいた姿は幼い少女のようだったのに、空を見上げる姿はまるで大人の女性の様。
何を思いながら空を見上げているのか、その横顔は少し寂しげに見えて、私はしばらく彼女から目が離せなかった。
その時強めの風が吹き抜けて、彼女の髪をなびかせた。
揺れた拍子に髪にクレープのクリームが付く。
私はほぼ無意識に、クリームの付いた髪に手を伸ばしていた。
指で髪を撫でるようにクリームを拭う。
私の突然の行動に、彼女は驚いたように目を見開いた。
「あ、すみません。髪にクリームが付いていたので・・・・。驚かせてしまいましたか?」
「そ、そうだったんだ・・・・。あ、ありがとう・・・・。」
私が触れていた髪をギュッと握り締めながら俯いた花村さんに、気を悪くさせてしまったかと不安になる。
女性の髪を勝手に触るなんて失礼だったかもしれない。
謝るべきかと口を開きかけたが、髪の間から覗いた耳が真っ赤に染まっているのに気づいた。
もしかして・・・・・怒っているわけではなくて、照れている?
初めて彼女に合った時の事を思い出す。
あの時も、倒れかけた彼女を支えた私に、こんな風に顔を赤く染めていた。
まさかこんなことで照れられるとは思っていなかったが、怒っているわけではないと知りホッとする。
同時に、初々しいその反応に私の男心がくすぐられた。
こんな反応をするから丸井君が勘違いしてしまうのだ。
勘違いをするまではいかなくても、ドキッとさせられるのは確かで、現に私の心臓はいつもよりも早い鼓動を刻んでいる。
困ったものですね・・・・。
私は苦笑をわずかに滲ませた後、眼鏡を押し上げながら彼女の名前を呼んだ。
「花村さん。」
「・・・・なに?」
「私が言うことでもないかもしれませんが、そういう態度は誤解を与えてしまいますよ?」
「誤解?」
「そんな顔でそんな態度をとられたら、自分に気があるのではないかと勘違いしてしまうという事です。」
彼女はきっと無意識の事で、そんなつもりは毛頭ないだろう。
だけど彼女がクラスの女子達から辛い仕打ちを受けている理由を考えれば、こういう態度は直した方がいいはずだ。
真っ直ぐに目を見つめてそう告げた私に、彼女はくしゃりと表情を崩した。
「そうだよね・・・・。過剰過ぎる反応されると『もしかして』って勘違いしちゃうよね。」
「自覚はあるのですか?」
「まぁ・・・・それなりに?あ、でも、言っておくけどわざとやってるわけじゃないよ?」
「それはわかっていますが・・・・。」
「私もどうにかしたいと思ってるんだけどね・・・・。」
溜息をつく彼女に、それほど悩んでいたのにわざわざお説教のような事をしてしまい申し訳なくなる。
なんとか私で力になれないだろうか・・・?
「その・・・・私でよければいつでも相談に乗りますから。あまり思い詰めないでくださいね。」
「あはは。ありがとう。お説教の後に慰められるとは思ってなかったよ。」
「いえ・・・。あなたの気持ちも知らずずいぶんと勝手な事を言ってしまってすみません。」
「ううん。ホントこの症状どうにかしなきゃとは思ってたから。」
私に気を使わせないとしているのか、明るい笑みを浮かべる花村さん。
そんな彼女がとてもいじらしく思えて、守ってあげたい気持ちになる。
丸井君達が花村さんに好意を持ったのも、彼女のあの極度な赤面症だけが原因ではないのかもしれない。
彼女自身の持つ優しさや可愛らしさに、惹きつけられるのかもしれない。
そんな事を考えていると、花村さんが突然何かを思いついたように手を叩いた。
「あ、そうだ!」
「どうかしたのですか?」
「相談に乗ってくれるって言ったよね?」
「ええ。私にできる事なら。」
「じゃぁさ、どれくらいで顔が赤くなるのかとか試したいんだけどいい?」
「試す?」
「どの程度で反応して、どの程度なら大丈夫なのか知りたいって思ってたんだ。」
「えっと・・・それを私で試すという事ですか?」
「うん。・・・・・ダメ?」
上目遣いで見上げる彼女はまるで小悪魔のようで、さっきまでの初々しさを感じる事はない。
これも計算ではなく、天然なのだろうか?
幼い少女のように見えたかと思えば、大人びた顔をし、純粋な乙女なのかと思えば、男心を翻弄するような表情を見せる。
彼女の本当の姿はどれなのだろう・・・・?
花村さんの事を、もっと知りたい―――――
自分の中に膨らんでいく思いを止められない私は、気が付けば「ええ。私でよければ協力させてください。」と彼女の提案を受け入れていた。
*****************************************
ぎゅっぎゅっぎゅさま♪←
またしばらく時間が空いてしまいました。
久々のトリップ連載です。
花粉で鼻がが痒い。
マスクがそろそろきれる。