トリップ逆ハー連載 11 | 肝っ玉かあちゃんのひとり言

肝っ玉かあちゃんのひとり言

妄想の世界に逝っちゃってるヤツの戯言

※トリップモノです。

そういう非現実的な話が苦手な方はこの先へ進まれないようお気をつけください。

読んでからの苦情はご遠慮願います。


続きものとなっております。こちらから先におお見ください。⇒ 12345678910




恋愛ビギナー 返り咲き!?





昼休み。

借りていた本を返却する為向かった図書室で、柳君の姿を見つけた。


柳君がここにいるのは珍しい事でもなく、彼の前に広げられた本の分厚さもいつもと変わらない。

しかし、本へと視線を落とす柳君の表情がいつもと違って見えた。


恐らくそんな表情の違いに気づけるのは、ごく僅かな人間しかいないだろう。


声をかけるべきかとしばらく悩んだ私は、ゆっくりと彼の傍へと歩み寄った。




「ずいぶんと難しい顔をしていますね。」

「柳生か。」




机を挟んで柳君の前へと座る。

ギシッと椅子の軋む音が静かな図書室に響いた。


窓の外からは柔らかい春の日差しが差し込んでいる。

きっと屋上では、仁王君が昼寝でもしている事だろう。




「今日も穏やかな天気ですね。」

「そうだな。」




「どうかしたのですか?」とはあえて問わなかった。

その代りに私は、彼が話しやすいようにと、手に持っていた本を広げた。


返却する為に持ってきた本だ。

飽きるほど読んでしまっている。


もう覚えてしまった冒頭の1行目に視線を滑らせた時、柳君が静かに私の名を呼んだ。




「明日の午前中。幸村の病院に行って来る。」

「真田君は一緒に行かれないのですか?」

「弦一郎には部活の指揮を任せている。午後からの練習までには戻るつもりだ。」




すぐに本題には入らず幸村君の話を出した事に、私は思わず微笑してしまった。


柳君が何に悩んでいるのかはある程度の予測はついていた。

朝から学校中が大変な騒ぎになっていたし、私の所にも事実確認をしに数名の女子が訪ねて来たからだ。


今までもこういう事は何度かあった。

そのたびに沈静化を努めてきたのは柳君だ。


しかし、ここまで深刻そうな柳君を見るのは初めてで、もしかすると彼自身もその事に戸惑っているのではないかと思えた。




「さきほど、切原君が柳君の教室を覗いていましたよ?」

「赤也が?」

「ええ。柳君なら図書室ではないかと言っておきましたが・・・・。」

「そうか・・・・。」




柳君はそう言ったきり、一瞬見開いた目と共に、口を閉ざしてしまった。


切原君は恐らく、柳君を探していたわけではないだろう。

彼女を・・・・今、渦中の中にいるあの彼女を探していたに違いない。



先日、目の前で倒れそうになったのを助けた女子生徒。

一見普通の女子に見えたのだが・・・・丸井君と切原君はずいぶんと気に入ってってしまったようだ。


そして・・・・・・柳君も・・・・。




「あいつらも・・・・・・」

「え?」

「花村に幸村の影を重ねているのだろうか・・・・?」




突然切り出された話に、一瞬の間ができる。

だけどすぐに頭は理解し、脳内に数人の顔を浮かべた。




「病を負っていた彼女に、幸村君を重ねてしまうのは仕方のない事でしょう。」




幸村君が倒れた時、私達テニス部員は全員その場にいた。


誰もがなにが起きたのかわからない状態で、倒れた幸村君の姿を見ても、

それはまるで違う世界の出来事のように思えて、真田君が幸村君の名を叫ぶまで、誰一人身動きできない状態だった。


救急車のサイレンの音。

赤く光るランプの灯り。

蒼白い幸村君の顔。


半年が過ぎた今でも、脳裏に焼きついて離れる事はない。



傍にいたのになぜ気づいてやれなかったのか。



皆がそう思ったに違いない。

その中でも、1番傍にいた真田君と、部員の健康管理と練習メニューを任されていた柳君は、他の部員よりも強く自分を責めた事だろう。


だけどいくら悔いたところで時が戻る事はない。

なにか力にと思っても、今、幸村君にしてやれる事など殆どない。


そんな時に、長期入院していた彼女が復学してきたとなれば、幸村君にしてやれない思いが彼女へと向いても仕方ない事のように思う。




「ですか、丸井君と切原君がそういう理由で彼女を気に掛けて入るとは思えませんがね。」

「フッ。確かにな。丸井の場合は激しい勘違い。赤也は興味本位といったところだろう。」




先日部室で、丸井君は「あいつ俺の事好きなんじゃね?」と言っていた。

100%彼の自惚れである事は確かだが、その自惚れが暴走してしまっているようだ。

自分に自信を持つ事は悪い事ではないが、あそこまで自意識過剰なのも考えものだ。


しかしそう勘違いしてしまうのも、わからないわけではなかった。


明るく笑ったかと思えば不安そうに顔を曇らせ、身体を支えてあげれば安心したように頬を緩め、

無垢な瞳でじっと私を見つめたかと思えば、視線が合うと顔を真っ赤に染めて俯いていしまう。


僅かな時間ではあったけれど、その間に見せた彼女のさまざまな表情。

丸井君も彼女のそんな表情を見てしまったのだとしたら、自分に気があるのだと勘違いしてしまうのもわかる。


私ですら、不覚にもドキリとしてしまったのだから・・・。




「柳生?どうかしたのか?」
「いえ。丸井君に注意したところで、彼が自粛するとは思えませんね。」

「そうだな。どうするべきか・・・・」




柳君はどうなのだろうか?

私よりも彼女の傍にいる機会の多い柳君は、どう思っているのだろうか?


幸村君の影を重ねて見てしまう彼女の事が気になってしまうのは仕方ないことだろう。

しかし・・・・・本当にそれだけの理由なのだろうか?


ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。







予鈴が鳴る前に私は一人図書室を出た。


柳君は少し寄りたい場所があると言っていた。

もしかすると彼女を探しに行くつもりなのかもしれない。



昼休みに図書室を利用する生徒は少なく、図書室へと続く廊下は静かだ。

ちょうど曲がり角にさしかかった時、その角からひょっこりと人影が現れた。




「仁王君?」

「なんじゃ?また図書室に行っとったんか?」

「ええ。仁王君はどちらに行かれていたのですか?」

「ちょっとな。」




てっきり屋上で昼寝をしていたのだと思ったのだが、どうやら予想が外れていたようだ。

仁王君が歩いてきた方向から屋上には上がれない。


この先にあるといえば理科室と美術室だが・・・そんな所に何か用事でもあったのだろうか?


そう思いながら廊下の先に向けていた視線を仁王君にやった時、仁王君には不似合いの包みを手に持っている事に気づいた。




「仁王君。それはお弁当箱ですか?ずいぶんと可愛らしい包みのようでうが・・・?」

「ん?それはナイショナリ。」




ハート柄のピンクの包みは、どう見ても仁王君のものではない。

包みの下がり具合からしてまだ中身が入っているようだ。



昼休みも終わりだというのに、食べず仕舞いのお弁当。

人気のない理科室か美術室に行っていたのはそういう理由からだったのかと納得する。




「はぁ・・・・。あまり女性を泣かさないように。」

「ご忠告痛み入るナリ。」

「茶化さないでください。私は真剣に言っているのですよ?」

「わかっとるよ。そんな怒りなさんな。」




本当に仁王君は。

彼のこういうところがなければとてもいい親友だと思えるのに・・・。



含みある笑みを浮かべながらお弁当の包みを抱える仁王君に、私は大きく溜息を吐き出した。



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推理小説が大好きなぎゅ様はなんでもかんでも推理しちゃうようです。ww



仁王は人気のない場所で、いったいなにをしてたんでしょうね・・・?(笑)