『スサノオと伝説の女神を巡る旅』。
『歴史の闇に葬り去られた女神 瀬織津姫』。
壮大な物語は続く。
そして僕らは、
小野神社に続いて、
東京は府中市にある、
瀬織津姫を祀る神社、
『人見稲荷神社』に来ていた。
鳥居を潜る前に、
スサノオさんが僕に言う。
あ「何でしょう？」
ス「お前の仕事は何や？」
あ「何ですか、急に？」
ス「ええから答えろ」
あ「作家です」
ス「作家の仕事とはなんや？」
あ「作家の仕事…。
良い本を書くことですか？」
ス「そうや。
良い本を書くとはどういうことや？」
あ「皆さんに喜んでもらえるもの、
楽しんでもらえるものを書くということ？」
ス「そう。
もう少し厳密に言うならば、
人の心に残る文章やメッセージを書くということ。
それがいつもみたいに楽しいものであれ、
笑えるものであれ、
感動するものであれ、
時に衝撃を覚えるようなものであれ、
人の心に影響を与えるものを書くということや」
あ「……。
何が言いたいのかよく分からないんですが…」
ス「このブログを続けていて、
一番嬉しいことは？」
あ「…なんですかね…。
やっぱり
『このブログに出会って、神さまを身近に感じられるようになりました』
とか、
『神さまのことを知って、神社に行くのが楽しくなりました』
っていう、
その人の心と現実の行動に、
影響を与えられた時ですかね」
ス「そう。
その気持ちをいつまでも忘れずに。
その上でお前に、
これからの旅を迎える上で、
改めてこの言葉を伝えておく」
あ「？」
ス「『神に答えはない』」
あ「…いつもスサノオさんが言うことではありますけど、
今更、なんでしょう？」
ス「俺たちが今まで伝えてきた神の知識は、
『古事記』を中心とした神の物語やったやろ。
これから迎える瀬織津姫の物語は、
それらの古事記を中心とした神の話とは、
一線を画した話やということを、
わかっておかなければならない。
その上で、
この物語を俺たちが伝えていく中で、
その情報をどう処理し、
それぞれの中での『神』というものが、
どういう答えに導かれるか。
それはこれを見てくれている、
皆さんによるという話」
あ「……。
それぐらい、
これから知る神の歴史は、
僕が今まで知ってきた話とは、
違うということなんですね…」
ス「そういうこと。
そしてそれがまた全部正しいとも限らないし、
俺たちがこれまで伝えてきたもの、
これから伝えるものも、
すべてが正しいとは限らない。
それもこれも含めて、
俺たちはただ見たもの、
知ったもの、
聞いたもの、
感じたものを、
ただ伝えて、
与えていくだけ。
その先の『答え』は、
これを見てくれている、
皆さん自身が、
それぞれで判断していけばいい」
あ「この旅が始まる前に言っていた…、
『皆さんの思考の礎のために、僕らの旅はある』、
…ということですね…」
ス「そういうことや」
…。
……。
………。
…………。
そんな冒頭からの長い話の中に、
『瀬織津姫』
という謎に包まれた神の、
途方もない物語の予感に心を震わせ、
鳥居を潜る。
凛とした空気が流れ、
その空気がひと際、
僕の心に緊張をもたらした。
瀬織津姫さんを祀る小さな社でも参拝。
ペコリ、ペコリ、パンパン、ペコリ。
（二礼二拍手一礼）
あ「……。
僕は…瀬織津姫さんには…会える日は来るんでしょうか…」
ス「どうやろうな。
こればっかりは縁やからな。
人と人も縁。
人と神も縁。
引き寄せ合わない限り、
混じりあうことはない。
ここに呼ばれている以上、
縁がないことはないと思うけど」
あ「…それはそうと、
一つ気になることが…」
ス「ん？」
あ「ここの人見稲荷神社のご祭神も…、
『天乃下春命（アメノシタハルノミコト）』さんなんですよね…。
前の小野神社の主祭神と同じで…。
瀬織津姫さんと、
何か繋がりがあるのかな？」
って言っても、
お前も知らんことには会いようもないしな…。
…でも、ん？
会えるかもせーへん」
あ「どうやって？」
ス「父親のオモイカネを呼ぶか。
あいつを通したらいけるかもせーへん」
…。
……。
………。
…………。
オモイカネ「祐二さん、スサノオさん、こんにちは」
すみません、お忙しいところ」
オモイカネ「いえいえ、
神に忙しいという概念はありませんから。
どうされました？」
ス「ちょっと今こいつとな、
瀬織津姫を巡る旅に出てる。
その手がかりが欲しいと思ってな」
オモイカネ「瀬織津姫…ですか…。
それはまた謎多き女神に…」
ス「まぁ今はそういう役目らしいわ。
それで神社をまわる中で、
お前の息子という神が、
２回も連続で同時に瀬織津姫に祀られてるのが分かってな。
何とか取り次いでほしい」
オモイカネ「『アメノシタハル』…ですね…。
中々気難しい子ですが…。
出来ないことはないので、
分かりました…」
…そうしてオモイカネさんが、
本殿に向かって、
何か呼び掛けるような言葉を発すると、
そこに…？
…。
……。
………。
…………。
※イメージイラスト by AYUMI
『アメノシタハルノミコト』が現れた。
シタハル「…………」
ス「なんや偉い物騒な姿やな（笑）
そんな睨みつけんでも、
怖いもんちゃうぞ」
シタハル「……何の用だ……？」
オモイカネ「シタハル！！
スサノオ様に対して、何て態度だ！！」
シタハル「…関係ない…。
我が主は他にいる…」
オモイカネ「…スサノオさん、すみません…。
失礼な息子で…」
ス「いやいや、ええこっちゃ、ええこっちゃ。
オモイカネ、少しこいつのことを俺たちに教えてくれや」
オモイカネ「…『アメノシタハルノミコト』…。
この辺りの地域の開拓の神とされていて、
『ある神』の護衛、
３２柱の内の１柱として、
天より降り下った…」
あ「その『ある神』って…？」
シタハル「…ニギハヤヒ様…」
あ「え…？」
瀬織津姫と並ぶ、
もう一柱の
歴史に葬られた、
伝説の神。
『ニギハヤヒ』。
運命の歯車は、
僕らに何を訴えかけようとしているのか、
思いもがけない伝説と伝説が、
ここで繋がろうとしていた。
あ「…で、でもなんで…、
ニギハヤヒさんの護衛の方が、
瀬織津姫さんのところに？」
シタハル「我は、
ニギハヤヒ様の愛した女神、
瀬織津姫様を護りしもの…。
それ以上でも、それ以下でもない…」
あ「………」
シタハル「神の歴史を何も知らぬ者が、
立ち寄ってよいことではない…。
立ち去るがよい」
…そう言い残すと、
アメノシタハルさんは姿を消してしまった。
謎がより大きな謎を呼ぶ中、
僕らの心の中に、
一つの線が浮かび上がって来た。
あ「『ニギハヤヒ』さんを知ること…。
それがきっと、
瀬織津姫さんに、
繋がっていくことになるんでしょうね…」
ス「『ニギハヤヒ』…か…。
益々、
知られざる神の歴史に足を踏み込むことになるな…」
スサノオさんのその言葉を最後に、
僕らの、
『封印されし伝説の女神 瀬織津姫』…、
そして、
天の血筋として、
ニニギノミコトと同じように、
最高神アマテラスより命を受け、
この国の王としての地位を築いていたが、
後にオオクニヌシと同じように、
その国を譲り、
そして、
その存在を封印された伝説の神。
『ニギハヤヒを巡る旅』が、
これからも続いていく。
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