『ファスト&スロー (上)』by ダニエル カーネマン
上巻の骨子は思いっ切り単純化すると「ヒューリスティックスとバイアス」の話だ。
つまり人が意思決定をしたり判断を下すときに、厳密な論理ではなく、直感で素早く解に到達する方法と
その方法に係る予測可能なバイアスを主題として扱っている。
物事を判断する時、我々は直観的な「速い思考(システム1)」と、より論理的な「遅い思考(システム2)」を
使い分けている。システム1が本書の主役であるが、システム2にしかできないタスクも存在する。
先ずはこの2つのシステムについて詳しく説明している。
システム1の特徴
・印象、感覚、傾向を形成する。システム2に承認されれば、これらは確信、態度、意志となる。
・自動的かつ高速に機能する。努力はほとんど伴わない。主体的にコントロールする感覚はない。
・特定のパターンが感知(探索)されたときに注意するよう、システム2によってプログラム可能である。
・適切な訓練を積めば、専門技能を磨き、それに基づく反応や直感を形成できる。
・連想記憶で活性化された観念の整合的なパターンを形成する。
・認知が容易なとき、真実だと錯覚し、心地よく感じ、警戒を解く(認知容易性)。
・驚きの感覚を抱くことで、通常と異常を識別する。
・因果関係や意志の存在を推定したり発明したりする。
・両義性を無視したり、疑いを排除したりする。
・信じたことを裏付けようとするバイアスがある(確証バイアス)。
・感情的な印象ですべてを評価しようとする(ハロー効果)。
・手元の情報だけを重視し、手元にないものを無視する(「自分の見たものがすべて」WYSIATI)。
・いくつかの項目について日常モニタリングを行う。
・セットとプロトタイプでカテゴリーを代表する。平均はできるが合計はできない。
・異なる単位のレベル合わせができる(たとえば、大きさを音量で表す)。
・意図する以上の情報処理を自動的に行う(メンタル・ショットガン)。
・難しい質問を簡単な質問に置き換えることがある(ヒューリスティック質問)。
・状態よりも変化に敏感である(プロスペクト理論)。*
・低い確率に過大な重みをつける。*
・感応度の逓減を示す(心理物理学)。*
・利得より損失に強く反応する(損失回避)。*
・関連する意思決定問題を狭くフレームし、個別に扱う。*
*印の特徴については下巻でくわしく扱う。
システム2の特徴
・働かせるのに努力を要する怠け者である。
・システム1が提案した考えや行動を監視&制御し、必要であれば修正を加える。
しかしシステム2が下した判断は実はシステム1の提案そのままだったという事が往々にして起きる。
・起動中は瞳孔が開き、脳の動きが活発化する。
・あるタスクに習熟するにつれ必要とするエネルギーは減っていく。最小努力の法則は認知にも当てはまる。
ある目標を達成するのに複数の方法が存在する場合、人間は最終的に最も少ない努力で済む方法を選ぶ。
努力はコストであり、スキルの習得もその利益とコストを天秤にかけて行う事になる。
次にヒューリスティクスに頻発する予測可能なバイアスについて説明している。
・少数の法則: 統計サンプルが小さくても信頼できるという誤解が生じやすい。
・ホットハンドの誤謬: ランダム性の中にパターンを無理に見つけ出している。
・アンカリング効果
・利用可能性ヒューリスティク: 「事例が頭に思い浮かぶ容易さ」で頻度を判定する。
・感情ヒューリスティック: 感情に従って意思決定を行なう
・利用可能性カスケード: テロ攻撃による死亡者数は他の死因よりも少ないが、より大きな恐怖を与えている。
・代表性ヒューリスティク: ステレオタイプ
・平均への回帰: 2種類の計測値の相関が完全でない場合には必ず平均回帰が起こる。
「失敗の本質:日本軍の組織論的研究」 by 戸部良一 他
10年前くらいに買って本棚に眠っていたが、色々思うところがあり読んでみた。
内容をサマると日本軍の問題点は次の通りになる。
(戦略上の失敗要因分析)
①あいまいな戦略目的
・例えばミッドウェー海戦では「ミッドウェー島の攻略」と「米艦隊の壊滅」の2つの目的が混在し、
上級司令部と現場の指揮官の意思統一が図られなかった。また陸軍、海軍の間でも作戦に対する
目的意識の統合を図ることが出来ず、作戦目的の不明瞭さが戦局で不利を招いた。
②短期決戦の戦略志向
・そもそも日本は開戦後の確固たる長期展望のないままに戦争に突入した。
この短期志向は補給・兵站の軽視にもつながった。この話は有名で堀栄三の「大本営参謀の情報戦記」に
詳しく書かれている。
③主観的で「帰納的な」戦略策定ー空気の支配ー
・何のことを言っているのか分かり辛いが、要は日本軍の戦略策定は一定の論理に基づくより、情緒や
空気が支配する傾向があったというもの。空気が支配する場所ではあらゆる議論は最後は空気によって
決定される。日本軍の最大の特徴(欠点)は「言葉を奪ったこと」である(p289)。
④狭くて進化のない戦略オプション
・海軍の艦隊至上主義の思想は実に日露戦争時に秋山真之が起草し、明治34年に制定された「海戦要務令」
を元にしていたらしい。それが昭和9年の改訂を最後に改められず日米開戦に至ったらしい。
そして航空機が主流になった時代の趨勢を見抜けず、大和や武蔵のような大艦を建造し、敗れた。
こうした硬直的な思想は現代の憲法死守にも見て取れるが。。。
⑤アンバランスな戦闘技術体系
・一点豪華主義の戦艦大和に対し、米国は長期的戦略に基づき、兵器の設計を大量生産を前提にした。
徹底して標準化が図られ量産が可能なように設計された兵器群はラーニングカーブにより建造機関の
短縮とコスト減に繋がっていった。
(組織上の失敗要因分析)
①人的ネットワーク重視の組織構造
・陸大出身者を中心とする超エリート集団は、参謀という職務を通じて指揮権に強力に介入し、
極めて強固な人的ネットワークを形成した。そのため組織におけるリーダーシップは往々にして
組織のトップからでなく幕僚によって下から発揮された。戦後でも大蔵省主計局に引き継がれた感がある。
②学習を軽視した組織
・日本軍内で自由闊達な議論が許容されることがなかったため、情報が個人や少数グループのみに
とどまり、組織全体で知識や経験が伝達され共有されることが少なかった。従って教条的な戦術しか
取り得なくなり同じことを繰り返して失敗したことが数多くあった。
③プロセスや動機を重視した評価
・個人責任は不明確さは評価をあいまいにし、評価の曖昧さは組織学習を阻害し、論理よりも
声の大きな者の突出を許した。
ざっと内容をサマッたが、最も慎重に考えるべき事はこうした欠点を持つ日本軍は「平時では有効に機能した」
という点だ。しかし有事、不確実性が高く流動的な状況、では組織的な欠陥が露出した。
これは平時の時はこうした欠陥が見え辛いという事を示唆していると思う。
僕もこの事を自らの身をもって体験した。平時は良く見えたものが、有事の際には全く機能しなくなる。
まあ、だからこそ先例を学ぶためにこうした失敗の事例をストックしておく必要があるんだろうが。
実際に本書はこう指摘している。
「日本軍の組織的特性は、その欠点を含めて、戦後の日本組織の中に概ね無批判に継承された。
その組織が平時的状況の下では有効かつ順調に機能しえたとしても、危機が生じたときには
大東亜戦争で日本軍が露呈した組織的欠陥を再び表明化させないという保証はどこにもない。
本書は、大東亜戦争における日本軍の失敗を現代の組織一般にとっても教訓として生かし、
戦史上の現代的・今日的意義を探ろうとする(p25)」
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失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
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大本営参謀の情報戦記―情報なき国家の悲劇 (文春文庫)
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「薬指の標本 by 小川洋子」
1年前くらいに「博士の愛した数式」を読んだときに透明感のある文体が好きになった小川洋子の本の2冊目。
小川洋子の物語は「無音」の世界だと感じる。音がない場面が多いわけではない。
ただ淡々と主人公と周りの関係の心理描写を綴っていくので、音が感じられないのだ。
それが小川洋子の透明感のある文体の秘密だと思う。
物語は薬指の一部をサイダー工場に働いていた時に失った主人公がある標本室で働き始める。
物語は主人公と標本室の主人である弟子丸氏の関係を中心にしている。
何故、人々は標本を作りに標本室を訪れるのか?
「封じ込めること、分離すること、完結させることがここの標本の目的であり、
繰り返し思い出し、懐かしむための品物を持ってくる人はいない」(p23と言っている)
もう1つ物語の中で重要なアイテムがある。靴だ。弟子丸が主人公に贈ったもので、
主人公を「どんどん侵食している」。弟子丸の主人公に対する支配が強まっていく事を
示唆して、物語でも標本を依頼に来た靴磨きのおじいさんに指摘される。
それに対して主人公は迷いながらもこう答える。
「でも、わたし、もうこの靴を脱ぐつもりはないんです。自由になんかなりたくないんです。
この靴を履いたまま、標本室で、彼に封じ込められていたいんです」(p87)。
そしてその後すぐに自分の薬指の標本を弟子丸に依頼するために、標本室の扉を
開けるところで物語は終わる。「弟子丸はわたしの標本を大事にしてくれるだろうか。
時々は試験管を手に取り、漂う薬指を眺めてほしいと思う。私は彼の視線を一杯に
浴びるのだ」(p90)
何故、靴は標本にせずに、薬指を標本にすることを選んだのだろうか?
深い余韻を残す作品だった。
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薬指の標本 (新潮文庫)
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「ナミヤ雑貨店の奇蹟」by 東野圭吾
久しぶりの東野圭吾。
物語のあらすじは、コソ泥の3人組が逃げ込んだ古い家。そこはかつて悩み相談を請け負っていた雑貨店だった。
廃業しているはずの店内に、突然シャッターの郵便口から悩み相談の手紙が落ちてきた。
時空を超えて過去から投函されたのか?3人は戸惑いながらも当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書くが…。
次第に明らかになる雑貨店の秘密と、ある児童養護施設との関係。
もう最高にハートフルな物語だった。
色々な人物が登場して、それぞれの悩みをナミヤ雑貨店の親父さんに相談していくんだけど、
相談への回答が味わい深くて、とても前向きな気持ちにさせてくれる。
死病を患った恋人を看病するべきか、自分の夢だったオリンピック出場を優先させるべきか?
売れないミュージシャンが歌い続ける理由、その曲によって必ず救われる人がいるから。
そしてその救われた命が大人になり、ミュージシャンの道を継ぎ、その曲を後世に広める。
登場人物は全員児童養護施設に関係していて、それぞれが結末に向かって繋がっていく。
そして雑貨店と児童養護施設の繋がりが最後に明らかになる。
設定自体はファンタジーだし、ナミヤ雑貨店に寄せられる悩みも回答もそもすれば、良くある体の物語だ。
ただ、人物描写や背景設定がすごく丁寧なので、どんどん物語に引き込まれる。
ここら辺は東野圭吾ワールド全開だった。ただただ、すごい筆力だなと。
最後にコソ泥3人組が更生を誓って再出発するんだけど、そこが素晴らしい。
ナミヤの親父さんは白紙の便箋を地図と捉え、次のように結ぶ。
「白紙なんだから、どんな地図だって描けます。すべてがあなた次第なのです。
何もかもが自由で、可能性は無限に広がっています。これは素晴らしい事です。
どうか自分を信じて、その人生を悔いなく燃やし尽くされることを心より祈っております」
そうなんだ。この本のテーマは売れないミュージシャンの遺作と同じ「再生」なんだと。
この物語の主人公たちは、いずれも何らかの「喪失感」を持ち合わせていた。
でもそこから「再生」をしていった。そして最後に白紙の地図を自由に歩んで行けと。
万人にお勧めできる小説だと思う。読んで決して後悔しない。
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ナミヤ雑貨店の奇蹟 (角川文庫)
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「観察力を磨く 名画読解」by エイミー・ハーマン
タイトルからして名画を鑑賞して、その隠されたメッセージとかを解説する本かと思ったら
違っていた。「知覚の技法」という思考のフレームワークが本の主題なのだが、その例示や
盲点などを指摘するためにアートを使っている。そういう意味ではこの本はよくある思考の
フレームワーク本だと思う。ただアートを使って我々に自発的に気付かせたり、
認識させたりするアプローチはかなり面白かった。
「アートとは途方もない量の経験と情報の蓄積なのだ。私の観察力、分析力、コミュニケーション力を鍛えるのに
必要な情報をすべて備えている(p29)」
「知覚の技法」というフレームワークは観察(Assess)、分析(Analyze)、伝達(Articulate)、
応用(Adapt)という4つのAを核としている。特に観察の項に多くのページを割いていて、
例えば「レンショウの牝牛」は面白かった。最初見た時は何なのかさっぱり分からなかったが、
これは牡牛を書いていると分かった途端、もう一度見ると牡牛にしか見えなくなる。
これは人間の知覚の面白いところで「簡単に上書きされるが、きっかけがないとなかなか
変わらない(p65)」らしい。
この観察では「細部を細かく注意して観察する」ことに重きが置かれているのだが、
例えばダビデ像なんかの例は非常に面白かった。遠くから見ると穏やかでリラックスしている
ように見えるダビデ像が近くで、視点を合わせてみると険しい表情に変わる。
他にもモネの3枚の睡蓮の絵を見て違いを比較する例なんかは、かなり細かく見ても何も
分からなかったが、実は絵の外の額に影が付いている事が差分で、絵ばかりに注目していると、
抜け落ちるという体験をした。こういう観察の盲点をアートを使って実体験するのは
かなり面白い。
この「細部を細かく注意深く観察すること」はビジネスでも有効に使えると
思う。実際に盲点に気づかないこともあるし、単純に面倒くさくなり細部の確認を
怠ることもある。そうなると色々な重要なメッセージを見逃すことになるという事を
アートを通じて実体験できる本はなかなか無いと思う。
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観察力を磨く 名画読解
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The Man in the Arena: 2017年の自分への叱咤激励
2016年は僕にとって大きな転機になった年だった。
今まではインキュベータとして、他社の事業支援をしていた。
それが今年は自分の手でその事業を推進していくという事業転換を行った。
幸いにも新規の受注が決まり、プロジェクトを推進していく事になった。
昔の仲間たちも集まってくれ、幸先の良いスタートを切れた。
そして今、もがき苦しんでいる。
お客様にも多大なご迷惑をかけている。
12月は毎日呼び出され、毎日怒鳴られた。
そして薄氷を踏むようなギリギリの状態で毎日進んでいった。
ようやく薄日が見え始めたと思ったときに、また問題が起きた。
そして今もその状態は続いている。まだ夜が明ける気配はない。
「これ俺の責任なの?」、という自分と、「いやいや代表でしょう」という自分が交互に現れる。
今の状況で一番つらいのは僕はエンジニアではないので、直接の問題解決の
手段を持ってないということ。本当に今まで経験したことが無いほど苦しかった1か月だった。
早く解放されたくなって、弱気になって舞台を降りたくなった。
そんな時、また「The Man in the Arena」というルーズベルト大統領の演説を読み返してみた。
舞台に立ち続けることの重要性を説いたこの演説は、過去このブログでも取り上げていた。
http://ameblo.jp/yt25/entry-10099523387.html
当時はあくまでな印象的なスピーチ的な取り上げ方だったんだけど、
今回は自分が当事者だ。苦境の中で感じた「The Man in the Arena」は
「舞台に立てることの喜び」だった。舞台は立つことは辛い事もあるし、色々な事を言われる。
そこから降りることは簡単だけど、降りたらもう夢は見られない。
それ以上に辛いことはないんだなぁ。それに比べたら、今はむしろ幸せだろう。
ここ最近は僕は自分がなんて不幸な男なんだろうと思っていたけど、
今この舞台に立っていられる幸運を考えたら、どうでも良くなってきた。
2017年も最初は辛い時期が続くと思う。でも1つ1つ目の前の課題をクリアしていく。
大晦日の夜に誓おう。「舞台に立ち続ける。Get Over 本厄!」と。
(原文)
"It is not the critic who counts; not the man who points out how the strong man stumbles, or where the doer of deeds could have done them better. The credit belongs to the man who is actually in the arena, whose face is marred by dust and sweat and blood; who strives valiantly; who errs, who comes short again and again, because there is no effort without error and shortcoming; but who does actually strive to do the deeds; who knows great enthusiasms, the great devotions; who spends himself in a worthy cause; who at the best knows in the end the triumph of high achievement, and who at the worst, if he fails, at least fails while daring greatly, so that his place shall never be with those cold and timid souls who neither know victory nor defeat."
(訳文)
"批判はどうでもよい。つまり人がどれだけ強く躓いたか、行動力のある辣腕の人にやらせたらどこがもっとうまくできたか、粗探しはどうでもよい。名誉はすべて、実際にアリーナに立つ男にある。その顔は汗と埃、血にまみれている。勇敢に戦い、失敗し、何度も何度もあと一歩で届かないことの繰り返しだ。そんな男の手に名誉はある。なぜなら失敗と弱点のないところに努力はないからだ。ところが常に完璧を目指して現場で戦う人、偉大な熱狂を知る人、偉大な献身を知る人、価値ある志のためなら自分の身を粉にして厭わない人…結局最後に勝利の高みを極めるのは彼らなのだ。最悪、失敗に終わっても少なくとも全力で挑戦しながらの敗北である。彼らの魂が眠る場所は、勝利も敗北も知らない冷たく臆病な魂と決して同じにはならない。"
「確率思考の戦略論:USJでも実証された数学マーケティングの力」by 森岡毅
USJのマーケティング担当役員である森岡毅氏の著作。
実はこの方はP&Gでサマーインターンをした時にちょっとお世話になった。
僕はHerbal Essenceというブランドでインターンしたんだけど、森岡さんはブランドマネージャーの上のヘアケア担当アソシエイト・ディレクターというポジションにいた。
ブランドマネージャーの上司の人だったので、直接の接触はそれほどある訳ではなかったが、それでも何回か話をさせて頂いた。実は森岡さんは当時から最年少のディレクターに昇進して、社内ではシャイニング・スターと呼ばれていた。そんな彼がUSJで大活躍していることを知った時、驚くと同時に何故か納得した。そのくらい、当時からそしてごく僅かの接触からでも印象を与える人だった。
さて、そんな森岡さんの著作の主題はタイトルからもわかる通り、「ビジネス戦略の成否は「確率」で決まっている。そしてその確率はある程度までは操作することができる」だ。マーケティングはどれだけ成功確率を高められるかを模索する化学であり、科学である以上「再現性」が求められる。そしてこの科学的な根拠に数字や数式から導かれる示唆を使っていく、というのが本書の一貫したメッセージだ。
彼の理論では売上を伸ばすためには、「1)自社ブランドへのプレファレンスを高める、2)認知を高める、3)配荷を高める、の3つしかない(no.537)」。プレファレンスを上げることで成長させる前者を「ブランドの質的な成長」と呼び、認知や配荷を上げることで成長させる後者を「ブランドの量的な成長」と呼ぶ(no.557)。このうち、プレファレンスは主に「ブランド・エクイティー、価格、製品パフォーマンスの3つによって決定される(No.545)」と唱えている。
そして本書はこれらの要素をどうやって高めていくか、及び高めていく際にいかに定量化な証拠に基づいて確立を上げるかという事に関する実務的なノウハウを取り扱っている。
例えば売上を規定する7つの基本的要素がある。
①認知率
②配荷率
③過去購入率
④エボークト・セットに入る率
⑤1年間に購入する率
⑥年間購入回数
⑦平均購入金額
これらを組み合わせて年間売上の予測を立てるのだが、これらの式は逆算に使う事が多いとの事。例えば必要な「年間売上」や「年間購入者の割合」などの目的となる必要数値を入れてみて、それらを実現するために必要な認知率や配荷率を、どの程度目指さなくてはならないのか逆算するわけだ(no.1149)。
本書が扱うのは実務担当者が使う知識がメインなので、かなり細かいが、読みやすく工夫されているし、また色々なシチュエーション・用途に使えそうな内容だと思う。例えば著者のバックグラウンドはB2Cの日用品だったが、本書の考え方はある程度テクノロジーのマーケティングにも通用する考え方だと思う。
僕はテクノロジー業界にいるが、そこではどうしてもエンジニアの意向(技術的な思考)が強くなる。勿論それは重要だと思うのだが、日用品マーケティングのような畑違いのエッセンスをうまく活用することで、普段意識していなかった考え方(例えば配荷率や認知率)などが吸収できるので非常に勉強になる本だった。
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「Originals:誰もが人と違うことができる時代」by アダム・グラント
久しぶりの書評だ。最近システムやコーディング関連の本を中心に読んでいたので
書評を書くにも書けぬ状況だったが、久しぶりにSuaddブログ(http://suadd.com/wp/)を
見たらこの本が紹介されていたので読んでみた。
傑作だ。目からウロコのオンパレード。
事業をやってて、踏み切れなくてクヨクヨ悩んでいる時に、自分に対する自信がなくなってくる。
スガシカオではないが、理想の自分ってもっとカッコ良かったのに。。と
些か凹んでいたのだが、この本を読んで元気が出た。
著者は言う。「分野を問わず、ユニークなアイデアで世界を前進させる人たちが、信念とやる気にあふれていることはまれである。自発的に行動する人であるように思われるが、彼らの行動は他者にうながされていることが多く、強制されているときすらある。「リスク大歓迎」のように見えても、できればリスクは避けたいというのが本心なのだ(No.514)。」
著者は「ワービーパーカー」というメガネのネット通販で成功したスタートアップの例を
紹介しているが、彼らは起業した後も副業をしばらく続けていたそうだ。
創業後も商業化の機会を探して、他のビジネスアイデアを検討していた。常に代替案を
考えていたおかげで、本業に自信が持てたと言っている。
「ある分野において安心感があると、別の分野でオリジナリティを発揮する自由が生まれる
(No.579)」
ここは非常に印象に残った。本業一本だと実は本当のスタート時は結構きつい。
というか意外に時間を持て余す。営業が回り始めるまで結構時間がかかる。
なのでこの時期に他の収入源を確保しておくことは本業の成功率を高めるためにも
大事なことなのではと思った。打席に多く立つには、長く生き残ることも重要だと思うので。
この事と少し関連するが、成功への近道として著者は「アイデアを多く出せ」と言っている。
「ある分野における天才的な創作者は、同じ分野にとり組む他の人たちよりも、とくに創作の質が優れているわけではない、という。 ただ、大量に創作すると、多様な作品が生まれ、オリジナリティの高いものができる確率が高くなる。多くの人が斬新なものに到達できないのは、アイデアをちょっとしか出しておらず、その少数のアイデアを完璧に磨き上げることにとらわれているからだ(No.902)」
面白いことにDellの創業者も同じことを言っていた。多くのスタートアップが「Perfection」を
追及するがそれは間違いで、数を多くこなせと言っていたのが印象に残っていた。
本書はタイミングの重要性も説いている。
「最も重要な要因はアイデアのユニークさでもなければ、チームの能力や実行力でもなく、
ビジネスモデルの質でも資金調達量でもなかった。一番の要因はタイミングだった(No.2141)」
勿論これは実際にビジネスをやっていて実感することがある。市場の成長性だ。
大体ベンチャーは成長市場に賭けるものだが、市場が伸びないとどんなに頑張っても
成長するのはキツイ。この事から著者は先送りは必ずしも悪いことではなく、むしろ好ましい結果をもたらすと述べている。
「偉大なクリエーターには専門的ノウハウが必ずしも必要というわけではなく、
むしろ、幅広い視野が必要であるのだそうだ。 また、成功とは多くの場合、ほかの人たちを
出し抜くことで得られるものではなく、行動を起こす絶好のタイミングを待つことでこそ
得られるものである(No.34)」
色々逆説的で凹んだ時に元気をくれる本だが、結局は不安を乗り越えて「行動」する事が
大事だと結んでいる。
「オリジナルなことを実現して成功している人たちの中身は、私たちとさほど変わるものではない。彼らも、みなと同じような恐怖や不安を感じている。 しかし、何が違うかといえば、「それでも行動を起こす」ということだ。 「失敗することよりも、やってみないことのほうが後悔する。彼らはその事を身をもって分かっている人たちなのである(No.714)」
そう、結局は行動する事なんだ、と。
色々勉強になったが、結局原点に戻ってきた。
前進あるのみ。
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「ホタル帰る」 by 赤羽礼子、石井宏
若い特攻隊員たちを親身に世話した女主人の鳥浜トメと隊員たちの姿を娘の礼子が語った本だ。
主題のホタル帰るの基になった宮川軍曹の話や、朝鮮人として特攻隊に加わった光山少尉など、
それぞれの特攻隊員とトメの間のエピソードが収録されている。
若くして死んでいく命は悲しいのだが、本書ではむしろ残された人たち(特攻隊員の親、
兄弟、恋人、そして鳥浜トメ)の姿が各章のエピローグとして描かれている。それが心を打つ。
戦争の本当の悲惨さはむしろ戦後にあるのかもしれない、と思った。
しかしその戦後も70年が経ち、悲しい戦後を体験した語り部たちがだんだん少なくなり、
日本人の記憶が風化しつつある。かくいう僕も普段はそんな事は全く考えない。
でも一年に一度くらいは、この時期くらいは、こういう本を読んで、戦争の記憶を
次の世代に引き継いで行きたいと思った。
文庫 ホタル帰る 特攻隊員と母トメと娘礼子 (草思社文庫)/草思社

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「ローマ人の物語II ハンニバル戦記」by 塩野七生
カルタゴとの間に起きたポエニ戦役を中心に、ギリシアやシリアなどとの対外戦争の時代である。
この130年間の出来事をサマると「イタリア半島を統一後、更に海外進出を図ったローマは地中海の
制海権と商圏を握っていたフェニキア人の都市カルタゴと死闘を演じる。これをポエニ戦役という。
カルタゴを滅ぼして地中海の覇権を握ったローマは当方ではマケドニアやギリシアを次々に征服し、
シリアを破って小アジアを支配下に収めた。こうして地中海はローマの内海になった」になる。
このポエニ戦役でカルタゴ側の武将の1人にハンニバルがいた。
一方でローマにも卓越した武将が登場する。後に「スキピオ・アフリカヌス」と呼ばれるスキピオだ。
著者をして「アレクサンダー大王の最も優秀な弟子がハンニバルであるとすれば、そのハンニバルの
最も優れた弟子はスキピオではないかと思われる(第4章 第二次ポエニ戦役中期 No.3561) 」
大体傑出した人物は歴史上間隔をあけて登場するものだが、この二人は10歳少々しか年が離れてない。
しかも戦場で何度も相見え、有名な「ザマの戦い」で雌雄を決した。
著者はこの16年間の第二次ポエニ戦役を「ハンニバル戦争」と呼び、「更にはローマ人の地中海制覇は、
カルタゴまでの滅亡を含めて「ハンニバル戦争」の余波だった」と言明している。
僕にとって第2巻のハイライトは「ハンニバル戦争」でのハンニバルやスキピオが用いた戦術ではない。
ローマの領土拡大とともに起こった被征服国の扱いだ。これこそローマ帝国拡大の最大の要因であるとともに
領土拡大の中でどう異文化統治をなし得ていったかという第2巻のメインテーマだと思う。
まず「ローマ連合」がある。「ローマ連合」の構成は大体以下の通りになっている。
①ローマ: ローマの住人は貴族、平民問わずローマ市民権を有し、軍務に服す義務を負う。
ローマ市民は投票権及び被選挙権も持つ。
②ムニチピア:選挙権無しの市民権を持つ。地方自治体を指す「Municipal」の語源でもある。
③コローニア:戦略上重要な地域に入植し、現地住民との混血化を進める。入植者がローマ市民であれば
「ローマ植民地」、選挙権無しの市民権を持つもので占められれば「ラテン植民地」と呼ばれた。
④ソーチ: 同盟都市、同盟国などの都市国家。これらの都市は完全な国内自治が認められていた。
しかもローマ市民権の取得を奨励すらしていた。今でいう二重国籍だ。
②、③、④とも租税ではなく、兵力の提供をローマにしていた。
そしてアッピア街道に代表されるようにこれらの「ローマ連合」の加盟メンバーたちを幹線道路で繋いでいった。
勿論道路の整備に代表されるインフラ整備の主目的は軍隊の迅速な移動にあったが、
著者はローマ連合の結束を強める役割を果たした側面を評価している。
このインフラ整備を通じた同盟強化について著者はこう述べている:
「ローマ人は、今の言葉でいう「インフラ整備」の重要さに注目した最初の民族ではなかったと思う。
インフラの整備が生産性の向上につながることは、現代人ならば知っている。
そして生産性の向上が生活水準の向上につながっていく事も。
後世に有名になる「ローマニゼーション」とは、法律まで含めた「インフラ整備」の事ではなかったか。
そしてローマ人が持っていた信頼できる協力者はこの「ローマニゼーション」によって、ローマの傘下に
あることの利点を理解した、被支配民族ではなかったと思う(第二章 第一次ポエニ戦役後期 No 1057)」
ローマの被征服国の扱いの妙は「ザマの戦い」後のローマ・カルタゴ間の講和条項にも見て取れる。
1.ローマはカルタゴを独立した同盟国と見做し、カルタゴ国内の自治権を尊重する
2.カルタゴは海外のカルタゴ領の領有権を全面的に放棄する
3.カルタゴはヌミディア王国を公式に承認する
4.カルタゴはローマと同盟関係にある国や都市に戦いをしかけない
5.カルタゴの捕虜になっているローマ人を全員釈放する。ローマの捕虜になっているカルタゴ人
は興和の締結後に釈放する。
6.カルタゴは軍船10隻を除く全軍船と軍用象のすべてをローマに引き渡す
7.カルタゴはローマの承認なしに戦争をしない
8.講和が発行するまでの間、ローマ軍のアフリカ駐留経費をカルタゴは負担する
9.賠償金として1万タレントを50年の分割払いで支払う
10.カルタゴがローマとの講和条約を守るとの確証が持てるまでの歳月、スキピオが選抜する
14歳から30歳までのカルタゴ人100人をローマに人質として送る
前例にもれず1条でカルタゴの自治権を認めている。一方で被支配国の扱いの妙が伺える条項が
7条と10条だと思う。7条ではローマの許可なしにカルタゴの交戦権を認めないとしている。
これによりカルタゴの独立国としての主権の一部を確実に損なっている。
また10条ではローマは被支配国の指導層の子弟、つまり後の指導層予備軍を選んでローマで学ばせ、
ローマのシンパに育てるやり方と言える。要はアメとムチを巧みに織り交ぜながら、
ローマ連合に組み入れるやり方はその後の国際政治の中でもよく見られる。
ちなみにアメリカも中東の指導者層の子弟をハーバード大学などに留学させ、
米国流の考え方を刷り込ませ、こうした人的資産を使って中東政策の助けとしたことはよく知られている。
ローマの対外戦略は「穏健な帝国主義」と名付けて良いものだという。その理由として:
①派遣はローマが持つ
②その為他の強国の軍事力は自衛力の水準に落とされる
③ローマによる軍事上の占領はなく、軍事基地も駐留軍も置かない
④各国の国内自治は完全に認める
⑤各国の経済上の繁栄が平和裏に継続されることを希望する
(第7章 ポエニ戦役その後 No.5268)
著者によれば、「穏健な帝国主義」とは、ローマの派遣の許での、いずれも独立国である
これらの国々の共存共栄であった、としている。これが「パクス・ロマーナ」の萌芽だったとも。
ローマ人の物語 (2) ハンニバル戦記/新潮社

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