崎山蒼志『i 触れる SAD UFO』感想&レビュー【伝わる「何か大切なもの」の切実さ】 | とかげ日記

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●伝わる「何か大切なもの」の切実さ

2002年生まれの音楽界の若き俊英、崎山蒼志。その早熟ぶりは将棋界の藤井聡太に匹敵する。本作はそんな天才の彼のメジャー2枚目のフルアルバムになります。

彼の音楽には「何か大切なもの」を特に強く感じる。作品から受け取る「何か大切なもの」のイメージをふくらますのは評論の常套手段だ。その「何か」を言語化しようとレビュアー達も僕も努めている。なんだろうなぁ、崎山さんの作品の場合、少年と青年の間、優しさと熱意の間、空想(UFO!)と現実の間、やさしく触れてほしい自分の中にある陰、といったところだろうか。

メジャー1作目のフルアルバム「Face To Time Case」の「嘘じゃない」は繰り返し聴いてきた。オーバープロデュースされたスタジアムロックのようなスケール感の大きさはもう少し抑えた方が良いとも思ったが、「嘘じゃない」はまさに、この「何か大切なもの」を感じさせてくれる曲なのだ。あと、崎山さんの曲はサビが弱い曲も多い(多分あえて狙っている)が、「嘘じゃない」はサビが強めで即効性があって嬉しいのだ。



本作『i 触れる SAD UFO』でも、「何か大切なもの」を感じ取れる。崎山さんは言葉とその歌い方に魅力のあるアーティストだ。彼の魅力は削り研ぎ澄まされた言葉なしでは考えられない。ありていの言葉にしたら野暮なモチーフでも、彼の魔法にかけると何か大切なものを歌っているように聴こえる。計り知れないピュアネス(≒純粋性)や、対象へのアクロバティックな観察力は本作でも健在だ。

たとえば、#5「剥がれゆく季節に」では、リラックスできるが哀しみを覚えさせる「静」のパートが続くが、「動」の激しい奔流を感じさせるパートが終盤にある。そこに彼の言いたいことがあるのではないか。そういった一筋縄ではいかない箇所や流れはこれも「何か大切なもの」の一端なのかもしれない。

リズムへの嗅覚も鋭い。幕開けの#1「i 触れる SAD UFO 」に対して特に感じる(ぐいぐい動くベースも魅惑的だ)。なお、この曲はアルバムタイトルにしたり、一曲目に持ってきたりすることに納得できる訴求力のある曲だ。

純音楽的な音楽への誠実なまなざしも感じられる。#2「In Your Eyes」は物憂げでメランコリックな名曲であり、 相対性理論『ハイファイ新書』に通じるディープで純音楽的な喜びがある。相対性理論の「バーモント・キッス」のように、「In Your Eyes」は音と歌唱に深みがありすぎて孤独な深淵がもうそこにのぞいている。 アルバム全体でも音楽を愛し音楽に愛される純音楽的なバイブスがある。

#3「燈」。この曲がこのアルバムで一番聴きやすいし、オススメかな。ささやかなドラマティックぶりに惹き込まれる。そして、僕にとっての「何か大切なもの」の切実さを本作の収録曲の中で最も感じるのだ。アニメとタイアップできる大衆性のある(筆者も大衆)リード曲だし、位置づけ的にもまずこの曲でリスナーを魅了させようという製作側の心積もりが見える。



ところで、今まで彼の実験的な曲は、「ああ、実験だな」と思うことが多かったが、この新譜はそんなことを思わないくらい実験が歌に自然に溶け込んでいた。本作収録の多くの曲の曲中にも実験的で挑戦的なギミックが積まれているが、ポップに機能している。曲単位でいうとバックトラックのリズムが冒険している#4「プレデター」#6「いかれた夜を」#7「覚えていたのに」を挙げられるだろうか。

また、ジャンルを横断した音楽的な挑戦もある。 #9「翳る夏の場 」ではR&Bに挑戦。まさに「翳る」ようなダウナーな感じがイカしている。また、#8「I Don’t Wanna Dance In This Squall」みたいな、音の感触はオルタナティブだが、スケール感がある曲もある。野外ライブの大ステージに映えそう。

終盤の曲も魅力的だ。#10「Swim」はアコギの高音が夏の海の水しぶきのようだ。シリアスな曲だけではなく、こんな爽やかで軽やかな曲を作れる感性に脱帽。しかし、少しばかりの憂いも感じられてそこも魅力だ。

そして、ラストの#11「太陽よ」へ。前作のアルバムラスト「タイムケース」も弾き語りだったけど、今作でも弾き語り終わり。弾き語りでレイドバックしてしんみりと(しかし力強く)終わるのも良いですね!


僕は「切実性とはその表現をその表現者がやる必要性」だという定義をしているが、崎山さんの曲はどの曲も切実な曲だと思う。誰も泣いていない街角だけど、崎山さんの涙が見えてきそうなそんな曲。

僕はこれからも彼の曲を聴き続ける。オルタナティブな感性と歌ものへの意識。作家性と大衆性。それらが自分にとって黄金比のバランスなのだ。

ファルセットを多用するのは、笹口騒音(うみのてetc)さんと共通する。両者共にRadioheadが好きなので、その影響もあるのだろう。崎山さんの昔やっていたバンドは(なんと小学5年から!)「KIDS'A(キッズエー)」というくらいだしね。(バンド名をRadioheadの名盤『Kid A』に掛けている。)

この若さでこの表現! 僕の目や耳には崎山さんは悟っているようだけど、葛藤しているように映り、聴こえる。年を経るにつれ、「何か大切なもの」が感じられなくなっていくアーティストも多いが、30代になっても40代になってもお爺さんになっても「何か大切なもの」を感じられるアーティストでいてほしい。


《収録内容》※アマゾンから引用
01: i 触れる SAD UFO
02: In Your Eyes
03: 燈(TVアニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折」EDテーマ)
04: プレデター
05: 剥がれゆく季節に
06: いかれた夜を
07: 覚えていたのに
08: I Don’t Wanna Dance In This Squall
09: 翳る夏の場
10: Swim
11: 太陽よ



Score 9.0/10.0

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