崎山蒼志『Face To Time Case』感想&レビュー【天才、鬼才、19才】 | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



●天才、鬼才、19才

僕が崎山蒼志さんの音楽に出会ったのは、2018年にツイッター上で彼の弾き語り動画が出回っていたことがきっかけだった。書道の名作のように筆圧高くて力強く、筆先の繊細さと思い切りの良さが光る弾き語り。10代の若さでこの表現ができるのは、まさに天才だと思った。他のアーティストでいうと、大森靖子さんのように空間を支配する力があり、笹口騒音さん(うみのてetc.)のように弾き語る歌に芯があると感じた。本作『Face To Time Case』のラストを飾る「タイムケース」は彼の弾き語りの魅力が詰まっているので聴いてほしい。

次に崎山さんの音楽が気になったのは、2019年に彼が発表した「むげん・ (with 諭吉佳作/men)」という曲を聴いた時だった。天才の音楽とはこういう音楽を言うのだなと分かる曲。16ビートのリズムの取り方、歌詞の日本語の使い方、キャッチーなメロディ、全てが鮮烈に響く。彼の曲は弾き語りも良いが、バンドサウンドの方がもっと良いんじゃないかと思った。



月日が経ち、2022年にリリースされた本作『Face To Time Case』はバンドサウンドが中心でまさに俺得だと嬉しくなった。(彼がやっているKids Aというバンドの新しい音源もいつか聴いてみたい。)

本作収録の歌もの曲がとにかく素晴らしいんですよ。序盤の3曲(「舟を漕ぐ」「Helix」「嘘じゃない」)を聴いただけでノックアウトされる。また、本作後半に控えるJ-POPど真ん中畑の水野良樹さんとの共作である「風来」を聴いていると、ポップであることを恐れていないなと思う。(ロックミュージシャンには必要以上にポップに音楽を作ることを拒む人も多い。)



例えば、TVアニメ『僕のヒーローアカデミア』第5期のエンディングテーマにもなった「嘘じゃない」。歌の良さで直球勝負している曲だ。サウンドがオーバープロデュースだとも思ったけれども、これくらいベタでドラマチックだとリスナーも沼にハマりやすいのかもしれない。サビで濁流のようにあふれ出す切実さに僕も虜です。



そして、石崎ひゅーいとの共作曲である「告白」。ぴったりと息の合ったコーラスが心地よい。ハモりの音程の上を崎山さんが取ったり、石崎さんが取ったり、二通りのハモりを楽しめるのが嬉しい。歌詞もいつもの崎山さんよりも直接的かつ率直で胸に迫るものがある。

また、リーガルリリーとタッグを組んだ「過剰/異常」も素晴らしい。個人的にリーガルリリーのファンなので、この人選に嬉しくなった。崎山さんとリーガルリリーには、不思議で切実なファンタジー感を覚える。この感覚は他のアーティストでは出せないと思う。



「幽けき」はリズムを牽引するアコギに導かれ、オーケストラが彩る深遠な深淵にリスナーを運んでいく。歌詞に出てくる「優しい陰を作ろう」という歌詞は、崎山さんの人間性だからこそ生まれる言葉だと思った。僕にとってこの曲は大切で「忘れられない花」のようになる予感がしている。



#6「Pale Pink」からは彼の彼自身を鳴らすような実験性の強い曲が3曲続く。彼の音楽表現の幅広さを感じさせるし、これがアルバムで良いアクセントになっている。音楽性は違うが、その実験精神は彼の敬愛するRadioheadを彷彿とさせる。

その他の曲もリズムのアプローチに革新性がある。この革新性は時代というよりも、彼の個性によるところが大きい。ザクザクと切り込むアコギの弾き方、他のアーティストがしないような譜割り、他のアーティストでは出せないグルーヴ。どれも、貴重なものだと思う。

歌ものとしての聴きどころがあり、音楽としての挑戦もある。19才という若さでこの作品を作ったことに拍手を送りたい。20代もこの勢いで駆け抜けていってほしい。

アルバムタイトルについて、崎山さんは次のように語っている。

「“Time Case”というのは過去現在未来という時間が、その場所ごとに保管されてるという意味で。“Face To Time Case”は一つの場所に訪れた時、そこにあったたくさんの記憶が現出して、自分が直面するという意味があって。このアルバムも色んな記憶に直面する場所であり、Time Caseであって欲しいです」

僕はこのアルバムを聴くたびに2022年の今を思い出すのだろう。色づきながら積み重なっていく記憶、希望と不安が交差する有限の未来、その中で今をどう輝かせるか。崎山さんの今は誰よりも輝いていると思った。

Score 8.3/10.0


💫関連記事💫以下の記事も読まれたい❣️
年間ベストソング2021年(邦楽9曲、洋楽1曲)
👆崎山さんもランクインしていますよ^_^

🦎過去のとかげ日記ランキング記事は👇からどうぞ!
【平成のベストアルバム】
平成のベストアルバム 30位~21位(邦楽)
平成のベストアルバム 20位~11位(邦楽)
平成のベストアルバム 10位~1位(邦楽)

【2010年代ベスト】
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
2010年代ベストアルバム(邦楽)20位→11位
2010年代ベストアルバム(邦楽)10位→1位

【年間ベスト】
年間ベストアルバム2021年(邦楽洋楽混合)
年間ベストソング2021年(邦楽9曲、洋楽1曲)
2020年間ベストアルバム(邦楽・洋楽混合)
2020年間ベストソング(邦楽洋楽混合)
2019年間ベストアルバム(邦楽・洋楽混合)
2019年間ベストソング(邦楽・洋楽混合)
2018年間ベストアルバム(邦楽・洋楽混合)
2018年間ベストソング(邦楽・洋楽混合)