大森靖子『超天獄』感想&レビュー【"超歌手"は伊達じゃない】 | とかげ日記

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●"超歌手"は伊達じゃない

"超歌手"大森靖子が放つ約2年ぶり、6枚目のオリジナルフルアルバム。

彼女の音楽には常にメッセージ性を感じる。届けたいという意思の強さが彼女の表現にはあり、リスナーの自分に向けて歌ってくれているという宛名性が彼女の歌にはあるからだ。BGMとして聴き流せない切実さがあるのだ。

だからこそ、彼女の音楽は様々な人の想いを背負っている。週刊文春で報じられた神田沙也加さんとの絆も含めて、彼女の音楽はギリギリのところで苦しんでいる人を救ってきた(しかし、神田さんの自殺の時のように救えない時もあった)。

サウンドの作風がアルバムごとに異なっている特徴がある。彼女のキャリアの中では、2ndフルアルバム『絶対少女』が最も好きだ。アンセム「ミッドナイト清純異性交遊」も収録されているし、1曲目「絶対彼女」やフィナーレを飾る「君と映画」も素敵な曲だ。ミュージック・マガジンによる「2010年代オールジャンル・アルバム・ベスト100」の特集で大森さんの作品で唯一このアルバムが選ばれているのもうなずける。(僭越ながら、僕も「とかげ日記が選ぶ2010年代ベストアルバム」で選出させていただいた。)


👆「ミッドナイト清純異性交遊」MV

また、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)に寄ったアルバムもあった。これまでの僕はEDMに音楽の旨味を感じることは少なかった。しかし、EDMでも大森さんの作品を聴いていられるのは大森さんの歌声が乗っているからこそ。

しかし、バキバキのEDMよりも今作『超天獄』のような適度にエレクトロのサウンドが好きなのは、バックサウンド(スープ)と歌声(麺)の関係が絶妙だからだ。このスープでこそ映える麺であり、この麺にこそ映えるスープのような音楽だと思う。

そして、神聖かまってちゃんの"の子"のボーカルに対して感じるのと同様に、ノリに乗った大森さんのボーカルには無敵感を覚える。超歌手という肩書きに深く納得できるスーパーサイヤ人級の唯一無二感だ。サウンドが気に入らない方は、ボーカルのこの無敵感に注目しながら聴いてほしい。木々としがらみをなぎ倒していくような攻撃力がある彼女のボーカルは、きっと他の全てを忘れさせてくれるだろう。

サウンドと無敵ボーカルの大森さんの関係は、音楽とダンスという関係にもなぞらえることができるかもしれない。様々なサウンドを舞台にして彼女は生き生きと踊って(歌って)いるのだ。そう感じさせる体感的な表現力が彼女にはある。

彼女のボーカルや表現に触れていて思うのは、名アイドルや名歌手のように自分の魅力の在り方を彼女は分かっているだろうし、そしてそれの見せ方も考えつくされているということだ。超歌手という肩書きはダテじゃない。

さて、今作『超天獄』ではあらゆる型やジャンルから勢いよくはみ出していく大森さんのボーカルはもちろん、演奏のアタック音からして、リスナーのしらがみや悩みを吹き飛ばしていくような明快な強度がある。そして、ピアノがその強度の城の敷地内にある音楽に豊かさと奥行きを与えている。

テンション100の曲だけではなく、テンション20や30の曲もあった方が大森さんの歌声の幅広い豊かさを感じられるのではないか。その意味でウッドベースが闇を運んでくる#1「VAIDOKU」は素晴らしかった。曲名は梅毒(性感染症)から取ったのだろうか。リスナーの僕はスローに毒が回ったようにこの曲に夢中になる。この曲を本作収録曲のベストに挙げる方は少ないかもしれないが、僕にとって確かにベストワンだった。

そして、アップテンポの曲も良いけど、個人的には大森さんに対してはスロー〜ミッドテンポの曲により魅力を感じているので、アルバム中盤の#9「天国ランキング」#10「東京のせいにして」はコクがあって沼にハマっていくようなスローさで佳曲だった。

#3「魔法使いは二度死ぬ」は彼女の過去のアルバムタイトルであえる『魔法が使えないなら死にたい』と掛けているのだろうか。今の大森さんはまさに音楽の魔法使いだ。彼女の音楽を求めるどこの誰でも元気づける力があるよ。

#5「告発」ではサブカル界隈で著名な吉田豪の名前が出てきたり、かなり明け透けに身の回りのことを歌っている。清純からはかけ離れた世界観。女性として、あるいは人間として本音をぶつける姿勢がカッコ良くて好きだ。

#7「XOXOXOン」。歌を聴くまで分からなかったけど、これ"メロメロメロン"と読むんだね。大森さんがスイートで萌えな歌声で歌っていて、歌声の表現のレンジが幅広くて感嘆する。

歌声の表現といえば、次の曲#8「前説ADvance」は#7「XOXOXOン」と打ってかわり、バース(≒サビ以外)の低音域のボーカルが胆力と旨さを感じさせる曲だ。この曲のタイトルは、観客の前で前説をするAD(アシスタントディレクター)と掛けているのだろうけど、この曲を聴いていると華やかなテレビ業界で情念を傾けて仕事しているADさんを連想できるよ。


👆「前説ADvance」MV

そして、アルバムタイトル曲#12「超天獄」が名曲だ。高揚感によって日常も天国も地獄も超えていくようなバイタリティを感じさせる。

最後の曲#13「最後のTATOO」に掛けて言うのなら、大森さんのアルバムを聴き、最高なソングライティングや絶頂のボーカルを自分の身体にTATOO(タトゥー)として刻みたい。次作も楽しみにしています!

Score 8.1/10.0

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【平成のベストアルバム】
平成のベストアルバム 30位~21位(邦楽)
平成のベストアルバム 20位~11位(邦楽)
平成のベストアルバム 10位~1位(邦楽)

【2010年代ベスト】
2010年代ベストアルバム(邦楽)30位→21位
2010年代ベストアルバム(邦楽)20位→11位
2010年代ベストアルバム(邦楽)10位→1位
2010年代ベストトラック(邦楽)10位→1位

【年間ベスト】
年間ベストアルバム2021年(邦楽洋楽混合)
年間ベストソング2021年(邦楽9曲、洋楽1曲)
2020年間ベストアルバム(邦楽・洋楽混合)
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2019年間ベストアルバム(邦楽・洋楽混合)
2019年間ベストソング(邦楽・洋楽混合)
2018年間ベストアルバム(邦楽・洋楽混合)
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