love storys  ~17歳、私と君と。~ -142ページ目

love storys  ~17歳、私と君と。~

どれだけ、時間が戻ればと思っただろう。

どれだけ、彼が愛おしいと思っただろう。

どれほど・・・

       私は君との未来を願っただろう。

二日目の朝。


目覚めが悪かったのは言うまでもなかった。


全身が悲鳴を上げる。


立ち上がる力が入らない。


僕は隣のベッドを見た。


隼人はもう起きていて、移動する準備を始めていた。


僕の記憶はあの後からはもうなかった。


多分意識を失っていたのだろう。


それか、なんとか歩いたか・・・。


その真実は後で夏帆から聞くしかない。


モーニングコールが鳴る。


隼人は無言でその音を止めた。


僕は何とか起き上がり、荷物をまとめる。


「っ・・・」


立ち上がると同時に腹部に痛みを感じる。


耐えられないほどの痛みではないが、十分痛い。


「・・・大丈夫か?」


こっちを見ることなく隼人は言った。


「おかげさまで・・・」


「・・・これ以上はなにもしねぇよ。ただ・・・」


そこで、隼人は一旦手を止める。


僕に背中を向けたままだけど。


「どちらか・・・選ばないと絶対後悔するぞ・・・」


「は・・・?」


隼人はなにを知ってるんだ?


まさか、由美のことを知ってるのか・・・?


「それだけだ。早く行くぞ。もうバス来てるかもしれないし・・・」


隼人は荷物を担ぎ、部屋を出る。


「ああ・・・」


僕も荷物を担ぎ部屋を出る。


そして、バスに乗って目的地である稚内に着いた。


バスを降りた途端に凄まじいほどの冷気が僕の体を襲う。


旭川より寒い。


ただ、そう感じるだけかもしれないけど。


息を吐くと白い吐息が見える。


まだ九月なのに・・・。


僕は周りを見渡す。


ここが稚内か。


ここのどこかに由美がいる。


お互い、ここに滞在するのは今日一日。


自由時間になったら早く探さないと。


観光名所を回っていれば会えるかもしれない。


けど、今はあんまり走れない。


腹痛のせいで。


でも、会える。


僕達が運命の糸で繋がっているのなら・・・。


そして、数か所を観光した後、自由時間になった。


わき腹が痛く、立ち上がるのさえ躊躇ってしまう。


「倒れてないで早く立てよ」


隼人は容赦なく、倒れている僕のわき腹を思いっきり蹴る。


「がはっ!!」


僕の唇が切れる。


痛い。痛い。痛い。


その単語だけが頭の中に駆け巡る。


でも、このまま倒れてるだけじゃただのサンドバックだ・・・。


僕は、手を使い必死に立ち上がる。


「へぇ・・・立てるんだ?」


隼人がそう言いながら僕の方に歩き出す。


一歩一歩、ゆっくりと。


そう。その動きは余裕。


もう、相手は攻撃してこないだろうという余裕。


・・・一矢は報いたい。


何となくそう思う。


やられっぱなしってのもなんか嫌だし。


そう思い、僕はもう一度だけ・・・全身の力を込めて余裕綽々で歩く隼人めがけてこぶしを放った。


それが見事に隼人の左頬にあたる。


「っ・・・」


隼人は苦悶の表情を浮かべた。


そして、その表情が一瞬で憎悪に変わる。


その表情を見た途端に、背筋が凍った。


いつもの隼人には想像できない瞳。


かなり冷たい瞳だ。その瞳は僕を捕える。


・・・何だよその瞳。


「やってくれるじゃん。裕樹」


隼人はニヤリと笑った。


不敵な笑みだ。


そして、指を鳴らした。


すると、そこには目を疑うような光景があった。


奥にあったドアから、たくさんの人が出てくる。


少なくとも高校生ではない・・・けど若い連中だ。


「なんの冗談だよ・・・」


僕は隼人の方に視線を戻す。


「暴力団のしたっぱってとこかな?」


冷たい声で隼人は言った。


「へぇ・・・で、こんな人集めて何する気だよ?」


自分の声が震えてる。


強気で言っているけど、震えるんだ。


もう、この先どうなるか・・・分かりきってることだから。


「お前をボコボコにしてやるよ」


さっきの連中が僕の周りを囲む。


「お前一人で来いよ」


「この方が面白いだろ?・・・いけ」


隼人がそう合図を出すと、怖そうな面々が指を鳴らしながら僕の方に近づいてくる。


もちろん囲まれているので逃げ場はない。


「安心しろ。顔には当てない。次の日に腫れあがってたらみんなが不思議に思うからな。骨折しない程度。一人一発だ」


そう言って、あらかじめ用意されていたもう一つの椅子に座る。


一人一発・・・。


僕は周りを見渡しながら苦笑いを浮かべる。


ざっと20人はいる。


それに顔に当てないってことは全部、腹部ってことになる。


あ~・・・明日3食のうち何食食べられるだろ?


そして、一発目のパンチが腹部に容赦なく命中する。


二発目は後ろから、背中にヒットする。


「やめて!!」


夏帆の声が聞こえるがそんなのは無意味。


すずめの涙にも満たないもの。


僕は、20発くらい終わり、地面に倒れ込む。


「じゃあ、帰るぞ」


隼人は足早に退散しようとする。


「なぁ・・・隼人・・・」


僕は倒れたまま隼人に声をかける。


「これで・・・なんになったんだよ?意味あったのか?」


僕のその問いに隼人は足を止め僕を見下ろす。


「言っただろ?ただの憂さ晴らしだって・・・」


隼人はそれだけ言って歩き出す。


なんだよそれ・・・。


「裕樹君!!」


夏帆が走ってこっちに向かってくる。


その時の君は僕にとっての光だった。









倉庫の目の前まで来る。


古びた倉庫。


もう夜ということだけあって余計に君が悪い。


僕は意を決して大きな扉を開けた。


嫌に大きい音が響く。


倉庫の中は明るい。


蛍光灯の電気がすべて点いていて、眩しいくらいだった。


そして、その中心あたりに2人の姿が映った。


隼人と夏帆だ。


夏帆は椅子に座らされていて、ガムテープで固定されていた。


「裕樹~。来るの遅いなぁ。待ちくたびれたんだけど」


隼人の声が倉庫中に響く渡る。


「遅くてごめんな。少し道に迷ってさ」


僕は隼人の方に近づく。


そして、二人の距離は5m弱にまで縮まった。


「隼人・・・。彼女に何してんだよ?」


少し怒りのこもった声で僕は言った。


「彼女・・・ねぇ」


隼人は苦笑した。


「なんだよ?」


「こいつはもう俺の彼女じゃない!!」


そういって、隼人は夏帆が座っている椅子を蹴った。


「きゃあ!!」


夏帆は身動きが取れないまま椅子とともに転がる。


「隼人!!」


僕は、無意識のうちにこぶしを握り締め隼人の顔面めがけて放つ。


しかし、隼人はそれを難なく右の掌で受け止めた。


そして、もう片方の手が僕のわき腹に入った。


「う・・・」


僕は声にならない悲鳴を上げて、倒れ込む。


「なあ、裕樹。俺がなんでこんなことをしてるかわかるか?」


僕を見降ろしながら、隼人は言った。


「わかんねぇよ・・・」


僕はわき腹を抑えながら立ち上がった。


「見たんだよ。お前と夏帆がキスしてんのを」


「・・・っ」


やっぱりそれか。


なんとなく想像はついたけど・・・。


「で?こんなことして何になるんだ?」


僕は強気にいった。


「ただの俺の憂さ晴らしだよ」


その途端に隼人の強烈なパンチが僕の頬にあたった。


速すぎてガードができない。


素人のできる芸当じゃなかった。


その時、前に楓が言ってた言葉を思い出す。


『隼人には暴力団との関係があるんだって』


・・・。


なんか嫌な予感がする。


銃でも出てくるんじゃないか。


そんな気がしてさえする。


この時、僕には隼人がすごく大きく見えた。




僕は夏帆に電話をかける。


なかなか繋がらない。


夏帆に何があったのだろうか?


楓が言っていた「嫌な予感」という言葉がよみがえる。


何が起きた・・・?


早く繋がってくれ!!


僕がそう願っていると電話が繋がった。


『もしもし・・・』


夏帆の声が聞こえる。すごく小さな声だった。


けど、反響して少し大きく聞こえる。


・・・反響?なんで・・・?


『夏帆。どうした?なんかあったのか?』


『今から、ホテルの外・・・。近くにある倉庫の来てほしい』


倉庫・・・。


ああ、あれか。


バスで通る時に見かけたあれだ。


麻薬密売でも行われてそうな古びた大きい倉庫。


主人公が悪に向かっていくときのドラマとかにも使われてそうな感じの倉庫だ。


けど、なんで夏帆がそこにいる?


繋がりが全く分からない。


『わかった。すぐに行く』


『ありがとう・・・』


少しほっとしたような夏帆の声。


『なあ、夏帆。何があったんだ?』


『来たら分かる。・・・・・」


その後、何か呟いたようだが、僕には聞こえなかった。


『え・・・?何?』


『裕樹君・・・。君は私のことどう思っていますか?』


ふいに夏帆が聞いてくる。


は・・・?


僕は困惑する。


けど・・・ここで素直な気持ちを言う。


『僕にとって・・・夏帆は大切な人だ』


僕がそう言ったと同時にグスン。と電話越しに聞こえた。


夏帆・・・泣いてる・・・?


『ありがとう。裕樹君。こっちに来るの怖くない?』


何を・・・さっきから言ってるんだ・・・?


『何が起きてるか分かんないから何とも言えないな・・・』


『そっか。私は裕樹君が大切な人だから、勇気を出して言うね・・・。裕樹君・・・こっちに来ないで!!!』


夏帆の大声が倉庫中に響き渡ったのか、かなり大きく反響した。


途端に男の声が聞こえた。


『夏帆~!!ふざけるな!!』


『きゃあ!!』


夏帆の悲鳴。


と同時に携帯が落ちたのか耳元でカランカランと聞こえて、耳が痛くなる。


そして・・・。


ツーツーツー。


電話が切れる音。


何が起きてる!?


少なくとも、いいことが起きていないことは確かだ。


僕は全速力で走り、ホテルから出る。


それに・・・あの男の声・・・。


聞き覚えがある。


というか、間違いなく隼人の声だ・・・。




過密スケジュールが終わった。


嫌な予感はなにも的中することもなく。


夕食を食べ終わって僕はホテルの自室に戻り


椅子に腰かけた。


相部屋の隼人は戻ってこない。


夕食を食べ終わったら部屋に戻るきまりなのに・・・。


まあ、隼人の性格からして先生の指示に従わないのは分かるけど。


風呂にでも行ったのかもしれない。


点呼までには戻ってきてほしいな・・・さすがに。


あんまり怒られたくないし。


明日からは違う人と相部屋だから今日一日の辛抱・・・か。


僕は立てかけてあった時計を見る。


7時30分。


当たり前だけど午後の・・・だ。


頼むから、10時までには帰ってこいよな~。


僕はそんなことを考えながらベッドに寝っ転がって目を閉じる。


みんなはきっと、男女混合でどこかの部屋で遊んでいるのだろう。


現に隣の部屋から、聞こえるはずのない女子の声が聞こえるし・・・。


声の数からして・・・2対2ってところか。


・・・俺にとってはどうでもいいことだけど。


変な声さえ聞こえてこなければ。


聞こえてきたら寝れなくなるし・・・。


『直樹君の負け~』


『直樹君、私とキスだよ』


『良かったじゃん。直樹、佳奈』


『良かった・・・のか?』


4人の楽しそうな声が聞こえる。


って・・・キスかよ。


ずいぶん軽いキスだな。


直樹も佳奈も・・・いつも大人しそうな人なのに・・・。


やっぱりこういう場所だと人は大胆になるのかもしれない。


壁が薄いのか、それとも異様に僕の耳がいいのか・・・それとも


先入観による擬音なのか二人の唇のかなさる音が聞こえた。


僕は自分の唇を触る。


キスは遊びでやるものじゃない。


例え好きな人であっても。


気持ちを伝えるのを照れ隠しするためのものじゃない。


お互いの愛を確かめるものだ。


けど・・・。


由美と・・・夏帆とキスをして・・・。


僕も人のこと言えない・・・か。


その時、ポケットの携帯が振動する。


僕は携帯を開いた。


「・・・!!」


夏帆からのメール。


そこには、ただ一言。


『助けて!!』


そう書いてあった・・・。