わき腹が痛く、立ち上がるのさえ躊躇ってしまう。
「倒れてないで早く立てよ」
隼人は容赦なく、倒れている僕のわき腹を思いっきり蹴る。
「がはっ!!」
僕の唇が切れる。
痛い。痛い。痛い。
その単語だけが頭の中に駆け巡る。
でも、このまま倒れてるだけじゃただのサンドバックだ・・・。
僕は、手を使い必死に立ち上がる。
「へぇ・・・立てるんだ?」
隼人がそう言いながら僕の方に歩き出す。
一歩一歩、ゆっくりと。
そう。その動きは余裕。
もう、相手は攻撃してこないだろうという余裕。
・・・一矢は報いたい。
何となくそう思う。
やられっぱなしってのもなんか嫌だし。
そう思い、僕はもう一度だけ・・・全身の力を込めて余裕綽々で歩く隼人めがけてこぶしを放った。
それが見事に隼人の左頬にあたる。
「っ・・・」
隼人は苦悶の表情を浮かべた。
そして、その表情が一瞬で憎悪に変わる。
その表情を見た途端に、背筋が凍った。
いつもの隼人には想像できない瞳。
かなり冷たい瞳だ。その瞳は僕を捕える。
・・・何だよその瞳。
「やってくれるじゃん。裕樹」
隼人はニヤリと笑った。
不敵な笑みだ。
そして、指を鳴らした。
すると、そこには目を疑うような光景があった。
奥にあったドアから、たくさんの人が出てくる。
少なくとも高校生ではない・・・けど若い連中だ。
「なんの冗談だよ・・・」
僕は隼人の方に視線を戻す。
「暴力団のしたっぱってとこかな?」
冷たい声で隼人は言った。
「へぇ・・・で、こんな人集めて何する気だよ?」
自分の声が震えてる。
強気で言っているけど、震えるんだ。
もう、この先どうなるか・・・分かりきってることだから。
「お前をボコボコにしてやるよ」
さっきの連中が僕の周りを囲む。
「お前一人で来いよ」
「この方が面白いだろ?・・・いけ」
隼人がそう合図を出すと、怖そうな面々が指を鳴らしながら僕の方に近づいてくる。
もちろん囲まれているので逃げ場はない。
「安心しろ。顔には当てない。次の日に腫れあがってたらみんなが不思議に思うからな。骨折しない程度。一人一発だ」
そう言って、あらかじめ用意されていたもう一つの椅子に座る。
一人一発・・・。
僕は周りを見渡しながら苦笑いを浮かべる。
ざっと20人はいる。
それに顔に当てないってことは全部、腹部ってことになる。
あ~・・・明日3食のうち何食食べられるだろ?
そして、一発目のパンチが腹部に容赦なく命中する。
二発目は後ろから、背中にヒットする。
「やめて!!」
夏帆の声が聞こえるがそんなのは無意味。
すずめの涙にも満たないもの。
僕は、20発くらい終わり、地面に倒れ込む。
「じゃあ、帰るぞ」
隼人は足早に退散しようとする。
「なぁ・・・隼人・・・」
僕は倒れたまま隼人に声をかける。
「これで・・・なんになったんだよ?意味あったのか?」
僕のその問いに隼人は足を止め僕を見下ろす。
「言っただろ?ただの憂さ晴らしだって・・・」
隼人はそれだけ言って歩き出す。
なんだよそれ・・・。
「裕樹君!!」
夏帆が走ってこっちに向かってくる。
その時の君は僕にとっての光だった。