梶よう子。広重ぶるう:大地震からの復興祈願図 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

地上波で再放送された梶よう子原作『広重ぶるう』の原作本を読んだところ、ドラマでは原作の半分ほど『東海道五十三次』で世にでるまでのお話。広重(阿部サダヲ)と妻の加代(優香)との夫婦愛の比重が高くなっているが、原作では美人画中心の錦絵に対して、広重の名所絵は北斎の『富嶽三十六景』とは違った「真景」としての風景画を確立していくさまが描かれる。

 

武家あがりの安藤広重は、遺された彼の肖像画や作品から、どちらかといえば温厚な性格との印象を受けるが、本著では定火消同心にして、町火消の荒くれ(臥煙)とも付き合うことから、鉄火伝法な一面が描かれる。

 

梶よう子:広重ぶるう(2022)新潮社

 

大庭柯公おおばかこう江戸団扇(1986)中公文庫』の団扇絵表紙を載せたのは『広重ぶるう』後半部、安政の大地震によって倒壊した江戸復興を願って、歌川豊国と広重合作で描かれる『雙筆五十三次』や、広重の『名所江戸百景』などが本著後半のテーマになっている。大地震からの復興祈願図なのである。

 

梶よう子作品は読むのは初めて。ライトノベル系の作家かなと思っていたが違いましたね。横判の『東海道五十三次』から縦判に変えて描かれた『名所江戸百景』の意味合いなど興味深い。ちょっと、小林清親を描いた杉本章子『東京新大橋雨中図(1988)新人物往来社』を想起する。