岡本綺堂。随筆 思い出草 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

明治時代の写真から

 

ちょっと前に、岡本綺堂の随筆『思い出草(1937)相模書房』を買ってしまい「あちゃー」そーいえば、手元に岩波文庫版の『岡本綺堂随筆集』があったよなぁ。だったのだが、特に興味深い盧溝橋事件(1937.07)後に発表した戦時もの『非常時夜話』3篇を含む全体の4分の3ほどが文庫版に未収録で。


といっても『非常時夜話』の内容は日清戦争の思い出を語ったもので、本来であればこの盧溝橋事件をもって「大東亜戦争勃発」という節目のはず。にしては、きわめてのんびりとした内容で逆に驚かされる。

 

岡本綺堂の随筆:思い出草(1937)相模書房

 

綺堂は明治20年代半ば3年ほど銀座京橋区に住んでいた。銀座の大通りも7月、8月、冬の12月は夜店が立ち混雑したが、その月以外夜歩きは寂寥として、その暗いなかに鉄道馬車の音が響くだけ。その当時、東京の空にはトンビがトロトロと飛んでいたが、昭和に入るとほとんどみかけない。そういえば鶴も。

 

新装カバーを

 

こういった明治時代の思い出を詰め込んだ随筆は、とりわけ根をつめて読む必要もないから、寝しなに2〜3編読んでは「戦前の東京ではすでにトンビは絶滅危惧種だったか」などと思いつつ、今の時代こんなどーでもいい内容の随筆は、はたして出版してもらえるのか? などと心配しながら寝落ちする。

 

本書は「特織染布装」の上製本仕様。ただ、函欠ということで安価に惹かれてつい買った。当時の売価が2円。ということは白米が8kg弱買える見当になる。