広重ぶるう。安藤広重あれこれ | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

ドラマ 広重ぶるう

 

梶よう子原作のドラマ『広重ぶるう(2023)NHK』が地上波再放送され、主演の阿部サダヲをはじめキャスティングも適せん愉しめた。

 

広重関連本では、一ノ関圭のコミック『茶箱広重(1992)小学館』は、広重の娘が少女から大人への時間列に沿って、偉大な初代を継いだ二代・三代広重の苦悩が描かれる。珍しいところでは仁科又亮『江戸美術考現学—浮世絵の光と影』に、広重のスケッチ帖に彼の指紋が残っていたとか。また、昭和初年ころ当時のお金で2000円もあれば広重の作品がほぼ集められたとある。

 

早くに明治時代の木版石版などの価値に気づいた蒐集家・料治熊太は幕末横浜ものから、初代~三代広重、井上安治など哀惜溢れる『明治の版画(1976)光芸出版』を残している。

 

広重晩年の〝雪月花〟三部作から「木曽路之山川」

 

知人から譲ってもらった広重晩年の〝雪月花〟三部作からの一枚『木曽路之山川(雪)』。そしてセットとなる『武陽金澤八勝夜景(月)』『阿波鳴門之風景(浪=花)」は色数を押さえた広重にしてはなかなかハードボイルドな仕上がりに。

 

広重の団扇絵を模した千社札

 

奥田敦子監修『広重の団扇絵(2010)芸艸堂』によると、団扇絵は絵店で錦絵などといっしょに売られることは稀で、団扇は背負った行商が「本渋団扇、なら団扇、更紗団扇や、反古うちわ~」と呼ばわって売り歩いた。1本16文(そばと同じ価格で安価)だったが、行商が廃り店売り専門になった天保(1830)以降は徐々に値上がりして3倍くらいになった。

 

最初は円形だったものが後に(江戸団扇といわれる)横に張り出した楕円形になった。広重の団扇絵は500点ほどが確認されているらしいから、どのくらいの点数があったものか。広重も喰うためにせっせと描いたか、弟子に描かせたか、あるいは版元が勝手に原画をリメイクしたのかも。

 

原信田実:謎解き 広重 江戸百(2007)集英社新書

 

お気に入りは、原信田実『謎解き 広重 江戸百(2007)集英社新書』で、広重の傑作『名所江戸百景』は単なる名所の紹介ではなく「ある意図を巧妙に隠し入れたジャーナリスティックな連作だった」というもの。新書ながら制作月順の絵索引で全120点を一挙掲載している。

 

蛇足になるが。江戸後期の浮世絵には「劇画」の萌芽(はしり)がある。特に北斎の『新編水滸画伝』や富嶽三十六景の『神奈川沖浪裏』などは「まんま劇画じゃん」ということで、ある意味すっかり現代の血肉となっている。一方、広重はというと都会的平準さ(フラットな軽さ)があって近代的モダンな感じが。