この記事では、蓄電池の容量の比較やAhからkWhの容量換算・変換はできるのか? KWhからkWへの換算はできるのか? できるとしたらどんな情報が必要なのか?について解説していきます。
よくある間違いとして以下のようなものがあります。
・100Ahと200Ahの蓄電池は、電圧に関係なく200Ahのほうが蓄電池容量が大きい
・AhからWhへの換算は、単にAhにV(ボルト)を掛ければ良い
・「100Ahの鉛蓄電池」という情報だけわかれば、kWhに変換できる。
これらは全て間違いとなります。
蓄電池についてAhからkWhへの容量換算を行うときに、電圧やセル数、直列、並列などの情報なしに行ってはいけません。
これらも含めてこの記事で解説していきたいと思います。
蓄電池の単位
蓄電池容量の単位には、以下の3つがあります。
(1)Ah
(2)Ah・セル
(3)kWh
まずは、それぞれの単位の意味するところを解説します。
(1)Ah
1Aの電流を1時間供給できる場合の容量となります。
単純に電流Aと時間hの掛け算です。
例えば、10Ahは10Aの電気を1時間流すことができる容量になります。電流値が5Aだったら2時間、電流値が20Aだったら30分流すことができるということになります。
(※効率や劣化は無視した場合です)
しかし、この単位の欠点として、電圧値の前提がわからないということがあげられます。
Ahは、1Aの電流を1時間供給できる場合の容量といいましたが、それは電圧が100Vの場合なのか50Vの場合なのかで意味は全然異なってきます。この点は蓄電池の仕様書などで確認する必要があります。
(2)Ah・セル
これは、昔の消防法において、蓄電池の規制の基準の際に、よく用いられていた単位となります。
単純に電流Aと時間hとセル数の掛け算です。
ここで、セルという言葉の意味について説明します。
蓄電池は蓄電池の種類によって、それぞれ1セルあたりの公称電圧が決まっています。
鉛蓄電池 2V
ニッケル水素蓄電池 1.2V
リチウムイオン蓄電池 3.7V
蓄電池の最小単位をセルといって、これらのセルを直列に繋いだり並列に繋いだりすることで、電圧を調整したり容量を調整したりしています。
直列接続は蓄電池の容量を変えずに電圧を変えたいときに使用します。
例えば鉛蓄電池で100Vの電圧を供給したいときは、鉛蓄電池を50セル直列で接続することにより、2V✕50セル=100Vとすることができます。
2Vで10Ahの蓄電池が100Vで10Ahの蓄電池になるということになります。(2Vで10Aを1時間供給できていたのが、100Vで10Aを1時間供給できるようになる)
逆に鉛蓄電池で供給可能な時間を増やしたいときは、鉛蓄電池を並列に接続します。
例えば50セルを並列に接続した場合、供給可能な時間が50倍に増えることになります。
2Vで10Ahの蓄電池があったとしたら、2Vで500Ahの蓄電池になるということになります。(2Vで10Aを1時間供給できていたのが、2Vで10Aを50時間供給できるようになる、もしくは5Aを100時間供給できるようになる。)
ここで、本題であるAh・セルの単位に戻りますが、
10Ahの蓄電池が並列に50セル接続されていた場合、Ah・セルは10✕50=500Ah・セルとなります。
逆に、10Ahの蓄電池が直列に50セル接続されていた場合も、Ah・セルは10✕50=500Ah・セルとなります。
つまり、Ah・セルは、蓄電池が並列に接続されていても直列に接続されていても数値が変わらない単位と言えます。
Ahは直列か並列かで数値が変わりますが、Ah・セルはセル数が同じなら、直列でも並列でも値は変わないというわけです。
(3)kWh
産業用の蓄電池においては一番よく使われる単位かつ一番わかりやすい単位になります。
1kWの電力を1時間供給できる場合の容量となります。
10kWhだったら、10kWの電力を1時間供給することができます。1kWの電力だったら10時間供給することができるということになります。
1kWというとドライヤーくらいの消費電力なので、ドライヤーを10時間つけっぱなしにできるくらいの容量があるということになります。
(※効率や劣化は無視した場合です)
蓄電池容量の比較やAh⇔Whの換算
蓄電池について、容量を比較したりするのに単位を変換する必要が生じることがあるかと思います。
例えば、100Wの電気設備を何時間使えるのか調べるのに、単位がAhだったら分かりづらいですよね。
すごく簡単な式になりますが、AhとWhの換算は以下の式になります。
Ah×V=Wh
これを見ると、簡単に算出できるように思えますが、この式にそのまま当てはめてしまうと実は大きな落とし穴があります。
例題を通して、説明していきたいと思います。
例1)
150Ahと4080Ahはどちらの容量が大きいでしょうか?
答)
この条件ではわからないが正解です。
Ahは電圧が同じ場合のみ比較可能な単位です。
同じ150Ahでも2Vの電圧で150Ahなのか、240Vの電圧で150Ahなのかで蓄電池容量は大きく異なります。
4080Ahよりも150Ahのほうが容量が大きい場合も十分にありえます。
そのため、よく企業が環境配慮へのアピールで、自社ビルに200Ahの蓄電池を設置しましたと発表していることがありますが、その数値は電圧値も一緒に発表しないと全く意味がありません。
電圧値を記載しないなら「Ah」ではなく、「Ah・セル」か「kWh」のどちらかで表示する必要があります。
例2)
下記の仕様の鉛蓄電池をkWhに換算すると答えは
A)とB)どちらになるでしょうか?
蓄電池容量 150Ah
セル数 120セル
鉛蓄電池の公称電圧 2V
A)
150Ah✕2V=0.3kWh
B)
150Ah✕2V✕120セル=36kWh
答)
これだけの情報ではどっちが正か判断できません。
鉛蓄電池の公称電圧は確かに2Vですが、そのセルを直列に接続してたら、電圧は2V✕120セル=240Vとなります。
逆に全セルを並列に接続していたら、電圧は2Vのままとなります。
直列の場合、電圧は足し算、並列の場合、電圧は同じというのは、中学の理科で習った回路の勉強と同じです。
なので、セルが並列ならaが正 セルが直列ならbが正となります。
つまり、セルが直列か並列かもわからずに、AhからkWhに換算する事はできません。
ここを理解せずに、間違った換算をしてしまう人が非常に多いです。
例3)
下記の鉛蓄電池をkWhに換算するとどうなるでしょうか?
蓄電池容量 150Ah
定電圧充電電圧300V(120セル✕2.5V/セル)
答)
120セル✕2.5V=300Vとなっていますので、これは、120セルを直列で接続しているものだと判断できます。
そのため、換算の式は以下のようになります。
150Ah✕(2V✕120セル)=36kWh
※1セルあたり、2.5Vとの記載がありますが、これは電源から蓄電池にかける電圧の仕様であり、鉛蓄電池の公称電圧は2Vなので、計算では2Vを使用します。
例4)
消防法の旧ルールでは、蓄電池容量が4800Ah・セル以上の場合、蓄電池の規制の対象となっていました。
では、下記の蓄電池は4800Ah以下なので、消防法の規制の対象外になるのでしょうか?
蓄電池容量 150Ah
定電圧充電電圧300V(120セル✕2.5V/セル)
答)
消防法の旧ルールの規制の対象となります。消防法で言ってるのは、Ahではなく、Ah・セルです。
上記の例では、150Ah✕120セル=18000Ah・セルとなるため、消防法の規制の対象となります。
よく、他のネット記事で4800Ahは17.76kWhに該当するなんてことが書いてありますが、これは大きな間違いで、Ahという単位を使う以上、公称電圧や直列か並列かによって違うということになります。AhとAh・セルは全く持って意味が違います。
正確に書くと、4800Ah・セルのリチウム蓄電池に関して言えば、換算すると17.76kWhとなります。
※2023年度より、消防法の蓄電池の規制の単位がAh・セルからkWhに変更され、20kWh以上のものが対象となりました。
そのため、導入した蓄電池の単位表示がAh表示になっている場合は、安直にAh×V=Whという計算をせずに、それが直列なのか並列なのか、蓄電池の種類は何なのかを仕様書で確認してから変換を行ってください。
kWhからkWの換算
10kWhという蓄電池があったとして、これが、1000Wの出力をだしたり、1000kWの出力を出したりできるかといえば、そうではありません。
そのため、蓄電池の出力kWは重要です。
しかし、蓄電池においてkWhからkWへの換算は不可能です。
これは家の電気代でも同じで電力会社から電力量1000kWhという明細が来たときに、ドライヤーなどの1000W程度のものを使用したのか、照明ような10W程度のものを使用したのかまではわかりません。
kWというのは瞬時値であり、10kWhの蓄電池の最大出力は1kWかもしれませんし、10kWかもしれません。
kWhという値からkWを予測することはできません。
蓄電池の出力を知りたければ、メーカーの蓄電池の仕様書を確認するしかありません。
まとめ
・Ahは電圧が同じ場合のみ比較可能な単位
100Ahと200Ahはどっちの容量が大きいかは、電圧値がわからなければ、比較できない。
・Ah⇔kWhの換算は蓄電池が直列か並列かがわからなければ換算ができない。
・Ah・セルは蓄電池が直列でも並列でも数値が変わらない単位である。
・kW⇔kWhの換算はできない
AhからkWhへの換算を頼まれたときに、間違っても、蓄電池の仕様書などの情報なしに引き受けないようにしましょう。
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