ここでは、非常電源専用受電設備とはなにか? 
認定キュービクルや告示7号適合キュービクルとの違いはなにか? 普通のキュービクルと何が違うのか?
について解説していきたいと思います。



よくある勘違いとして
・非常電源専用受電設備は認定キュービクルにしないといけない。

非常電源専用受電設備と認定キュービクルは同じ意味である

・非常電源専用受電設備や認定キュービクルはキュービクル内に蓄電池が内蔵してあるから、非常電源として採用できる

専用受電というくらいなのだから、専用で受電している


というものがあります。

これらのよくある誤解についても、解説していきたいと思います。



消防法において、非常電源はどのようなときに必要か?

消防設備を有している建物では、災害時に停電して消防設備が使えないということが起きないよう、非常電源を設ける必要があります。

屋内消火栓やスプリンクラー、誘導灯、自動火災報知設備、非常放送、排煙設備などは火災時に停電が起きても、確実に使用できるようにしなければなりません。


消防法で非常電源として認められているのが、
(1)自家発電設備
(2)蓄電池設備
(3)燃料電池設備
(4)非常電源専用受電設備

の4つとなります。

自動火災報知設備や非常放送は、特に何も考えなくても、メーカー標準で主装置に蓄電池が内蔵してありますし、誘導灯も蓄電池内蔵が主流なので、それらの設備ではあまり非常電源について考えることは少ないですが、屋内消火栓などは、メーカー標準で蓄電池が内蔵しているわけではないので、非常電源として何を採用するか検討する必要があります。


もちろん、屋内消火栓のために自家発電設備や蓄電池を設けるのがいいのですが、それだと費用が高額になってしまいます。


あまり費用をかけずにやりたいときに採用するのが、非常電源専用受電設備となります。



非常電源専用受電設備とは?


非常電源専用受電設備とは、電力会社からの通常の電力を非常電源として扱うという考え方です。
専用という名前になっていますが、専用で引き込むわけでも、消防用に一般の負荷と別で引き込む分けでも、特別に災害に強い配電線を引き込むわけでもありません。通常の受電と同じです。
そのため、電力会社が停電した場合は、当然、停電することになります。
初めて聞く人は、それのどこが非常電源なんだと思われるかもしれませんが、日本の電力は諸外国に比べ安定性が高く信頼できるという考えのもと成り立っています。
それもあり、大規模な特定防火対象物には認められていないものとなります。
主に学校などで採用されることが多いです。


電力会社の通常どおりの引込を使用すると述べましたが、キュービクル本体については、いくつかの条件がつきます。




非常電源専用受電設備の条件



先程、非常電源専用受電設備にするのに、電力の引込に関しては、特に条件はなく通常通りだと述べましたが、受変電設備については、満たすべき条件があります。
具体的には、受変電設備の設置に関して、消防法施行規則第12条により、以下の3つのいづれかを満たす必要があります。

(1)屋外設置の場合、建物等から3mの離隔が取れていること
(2)3mの離隔が取れない場合は、3m未満にある建築物の部分が不燃材料で作られ、開口部に防火戸が設けられてること。
(3)屋内設置の場合、専用不燃室に設置すること

※意訳ですので、正確な文は「消防法施行規則第12条」をご確認ください

以上の条件のいづれかを満たしていれば、普通の一般キュービクルを非常電源として使用することができます。

簡単に言うと、3mの離隔がとれてれば、建物が火事になっても、火がキュービクルに燃え移らず(電力会社がダウンしない限り)停電にならないため、非常電源として使用可能という意味合いになります。
専用不燃室についても同様です。


ちなみに3mの離隔についてですが、屋上に設置の場合、建築物だけでなく、空調の室外機や太陽光パネルなど、建築設備も設置してあるかと思います。

以前、消防に確認したときは、建築設備からは3mの離隔は不要との回答をもらいましたが、そこは所轄消防の判断になるかと思います。


そして、ここからが本題ですが、この条件(3mの離隔や専用不燃室)を満たせない場合でも、告示7号適合キュービクルもしくは認定キュービクルを採用することによって、非常電源専用受電設備とすることができます。



告示7号適合キュービクル、認定キュービクルとは?


告示7号適合キュービクル
→消防庁告示7号に適合するように製作したキュービクルのこと

認定キュービクル
→消防庁告示7号に適合しているキュービクルであることを日本電気協会が認定したもの。




この2つは構造はほぼ同じになります。
違うのは、認定キュービクルの場合、認定の銘板が貼ってあるということくらいですね。

告示7号に適合したキュービクルがどんなものかというのは、以下の法文をご確認ください。

簡単に法文の内容をまとめると

火が回りにくい構造

・不燃材料を使用している

消防負荷のブレーカーが不燃材料の赤い障壁で囲ってある

(消防負荷だとわかりやすくする目的と、ブレーカーを火から守る役割がある 

※一般キュービクルであっても消防負荷が接続されてるブレーカーは赤い障壁で囲みます)

・保護協調をしっかりと取っている



などのようなことに配慮したキュービクルということになります。


本来は建物からの火がキュービクルに移らないように3mの離隔が必要ですが、告示7号適合キュービクルや認定キュービクルだと、キュービクルそのものが火の回りにくい構造になっているため1m程度の離隔に緩和されます。


これを読むと、一般のキュービクルでも必須の条件じゃないのか?と思われるかもしれません。
一般のキュービクルでも、火が回りにくい方がいいですし、不燃材料のほうがいいはずです。

そのため、一般のキュービクルでも告示7号のキュービクルでも、ほとんど内容が変わらないというメーカーは非常に多いです。
メーカーによっては値段も一般キュービクルとさほど変わらなかったりします。


また、消防によっては、新設時には告示7号適合キュービクルは認められず、認定キュービクルにするよう指導される場合があります。

例えば、東京消防庁の予防事務審査・検査基準では、できるだけ認定品にするよう記載がありますが、一般的には認定品までは求めない自治体のほうが多いと思われます。

ただ、消防側も認定品のほうが検査が楽かもしれません。


ちなみに余談ですが、認定キュービクルには形式認定と個別認定というものがあります。
形式認定の場合、盤を制作するたびに、毎回、日本電気協会の人に確認してもらうわけではありません。
ある程度の形式が決まっていて、その形式なら、個別に認定を取らなくても製作することが可能ということになります。
特殊なものや、そのメーカーがもっていない形式のものを製作するときは、個別認定といい、日本電気協会の人に確認してもらうこど必要となります。




認定キュービクルを改造するとどうなる?


認定キュービクルを改造した場合、基本的に認定は外れることになります。
盤の増設などの大掛かりなものに限らずブレーカー増設程度のものでも、盤内をいじった時点で認定は外れます。
日本電気協会の人に現場に来てもらって再度認定をもらうなんてことはできません。
詳しくは日本電気協会のキュービクル式非常電源専用受電設備Q&Aの質問132をご覧ください。


改造で認定が外れる場合でも、告示7号に適合した改造であれば、問題ありません。

具体的には、消防に改造の内容を事前に協議して、それが認められれば、問題なく非常電源専用受電設備としての使用が可能です。
(実際には相談せずに改造してしまってる場合がほとんどですが…)




非常電源専用受電設備ではない場合はどうなる?


非常電源専用受電設備の場合、消防法施行規則により、以下の(1)-(3)のいづれかを満たす必要がありました。

(1)屋外設置の場合、建物等から3mの離隔が取れていること
(2)3mの離隔が取れない場合は、3m未満にある建築物の部分が不燃材料で作られ、開口部に防火戸が設けられてること。
(3)屋内設置の場合、専用不燃室に設置すること


では、非常電源専用受電設備ではない場合はどうなるのでしょうか?

結論から言うと、非常電源専用受電設備ではない場合は、消防法施行規則では設置場所は制限されませんが、条例によって設置場所が制限されるため、結果として上記については満たす必要があるということになります。


東京都火災予防条例第11条では、以下のような記載があります。


「屋外に設ける変電設備(柱上及び道路上に設ける電気事業者用のものを除く。以下同じ。)にあつては、建築物から三メートル以上の距離を保たなければならない。ただし、不燃材料で造り、又は覆われた外壁で開口部のないものに面するときは、この限りでない。」



つまり、屋外に設置の場合、条例により、変電設備であれば設置場所の制限が適用されるということとなります。
(あくまで東京都の条例ですが、他の自治体も基本的には準じてると思われます。)


さらに、条例からは読み取れないのですが、屋内に設置の変電設備について、東京消防庁の予防事務審査・検査基準II第三章には、専用不燃室にすることの記載があります。


まとめると、消防法施行規則では、非常電源専用受電設備の場合について、設置場所の制限をしていますが、東京都火災予防条例及び予防事務審査・検査基準にて、非常電源専用受電設備か否かに関わらず、変電設備として設置場所の制限をしているということになります。


結局は、受変電設備だったら、非常電源専用受電設備でない場合でも、同じように設置場所の制限が適用されるということになります。
結果として、設置場所の制限は、すべての受変電設備に適用されてしまうんですね。
そのため、非常電源専用受電設備でもないのに、離隔の緩和や専用不燃室の免除のため、告示7号適合キュービクルを設置することもあります。
(消防負荷がない場合、日本電気協会の認定品のキュービクルは作れないのですが、代わりに推奨品というものが製作可能となります)


しかし、余談にはなりますが、同じように見えて、消防法施行規則と東京都火災予防条例では、設置場所を制限している意味合いは少し異なります。


消防法施行規則では、非常電源である受変電設備に、火が燃え移らないように、つまり受変電設備を守るために、3mの離隔等の条件をつけています。
建物から受変電設備へ火が燃え移り、非常電源である受変電設備が機能しなくなるのを防ぐためです。
だから、設置場所の制限の対象を非常電源専用受電設備のみとしています。


火災予防条例及び予防事務審査・検査基準では、上記のような意味合いもありますが、もうひとつ大事な理由として、受変電設備を発火物、つまり火が出る元になるものと考え、受変電設備から建物に火が燃え移らないように、3mの離隔等の条件をつけています。
そのため、発火物かどうかは非常電源専用受電設備か否かにかかわらないので、変電設備としてすべての受変電設備を対象としています。

消防法施行規則と東京都火災予防条例で、同じことを言ってるようで、設置場所を制限している意図は少し違ういうことになります。


他の自治体もこれに準じていると思いますが、一応、条例となるので、詳細は、所轄消防に確認が必要です。



まとめ

まとめとして、最初に示したよくある間違いを見てみましょう。


非常電源専用受電設備は認定キュービクルにしないといけない。
→屋外の場合3mの離隔、屋内の場合、専用不燃室を設ければ、一般のキュービクルでも良い


非常電源専用受電設備と認定キュービクルは同じ意味である
→同じではない。認定キュービクルは非常電源専用受電設備の候補の一つであり、告示7号適合キュービクルとする方法や、一般キュービクルで3mの離隔を取るという方法もある。


非常電源専用受電設備や認定キュービクルはキュービクル内に蓄電池が内蔵してあるから、非常電源として採用できる
→火が回りにくい構造なだけで、蓄電池や予備電源が内蔵してるわけではない。

専用受電というくらいなのだから、専用で受電している
→普通の引込と何も変わらない。



以上になります。




※記事を読んだ方からの、ご指摘があり、一部内容を修正いたしました。


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