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++  エピソード日本史 ~日本史の女性(土曜ダイジェスト版)~
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.042━2007.02.17━…‥*


 ◆◇ 大神杜女 《オオミワ(の)モリメ》…


 奈良時代の豊前国宇佐八幡宮の巫女。毛理女とも書く。
 聖武天皇が東大寺大仏建立事業に際し、八幡宮に勅使を遣わし神託を請ったとされ、
 弟の多麿と共に八幡大神を奉じて入京したとされるが・・・


 《豊前国:ブゼン(の)国…現在の福岡県東部から大分県北部》
 《宇佐八幡宮:ウサハチマングウ…大分県宇佐市にある宇佐神宮の通称》
 《勅使:チョクシ…天皇の使者として赴く者のこと》
 《神託:シンタク…神の意を伺う事。また、その時伝えられた言葉》
 《多麿:タマロ…大神田麻呂のこと》


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■ 神輿の起源と尼スタイル巫女、大神杜女
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大仏建立。奈良時代における国家プロジェクトともいえる大事業。
聖武天皇の威信をかけたこのプロジェクトは
多くの人々に影響を与えた考えられます。

仏教とは異なる宗教でもある神道への影響も大きかったと思われる節が、
この大神杜女の入京からうかがい知る事が出来ます。

杜女は生没年不詳とされており、分かっているのは日本古来の氏族大神氏の子孫にあたり、
近くは欽明天皇の時代に豊前宇佐郡馬城嶺に大菩薩となって出現した応神天皇の魂を、
鷹居八幡神社を建立して祀ったといわれている大神比義を先祖に持つということ。

《大神氏:オオミワ氏…オオガ氏ともいう。大物主神の大神神社を祀る氏族》
《宇佐郡:ウサ郡…現在の大分県宇佐市・豊後高田市の一部》
《馬城嶺:マキ(の)ミネ…現・御許山》
《大菩薩:ダイボサツ》
《鷹居八幡神社:タカイハチマンジンジャ》
《大神比義:オオミワ(の)ヒギ》


そんな杜女が登場するのは天平勝宝元(749)年。
聖武天皇が上皇となり、娘・孝謙天皇の時代。

同年11月19日に、八幡大神が東大寺大仏を拝したいとの託宣を下され、
12月18日に入京し、平群郡の梨原宮に入ったとされています。

《宣託:センタク…神のお告げ》
《郡:コオリ…律令制の地方行政区画の一種。郡の下は郷、その下は里となる》
《平群郡:ヘグリ(の)コオリ)…大和国にあった郡》
《梨原宮:ナラハシ(の)ミヤ》


同月27日に八幡大神を伴い祢宜尼大神杜女は、天皇と同じ紫色の輿に乗り、
孝謙天皇・聖武上皇・皇太后とともに東大寺大仏を参拝しました。

《祢宜尼:ネギニ…尼スタイルの巫女》


この時の神輿が史料に初めて登場するということから、
この出来事が神輿の起源といわれています。


ある種の栄華を誇った杜女に突如大きな逆風が吹き荒れました。
それは、天平勝宝6年11月のこと。
薬師寺僧行信らの厭魅呪詛事件に連座して除名され、
八幡宮の禰宜職も解任、日向国に流されてしまいました。

《厭魅:エンミ…図形や人形などを用いて人を害するまじないの法》
《呪詛:ジュソ…それを用いてまじない呪うこと》


また伝説には、大赦を受け、日向より戻る事ができたものの、
宇佐にて初沢の池に身を投じてしまったとも言われています。
他にも杜女とは一人の女性の名ではないという言い伝えも残されているそうです。

《大赦:タイシャ…天皇によって刑が軽減されること》
《初沢の池:ハツサワの池…日本三沢の一つ》


神道にまで影響を与えていた世界遺産「奈良の大仏」。
当時の日本に与えた影響は計り知れないものであったことは間違いないようです。


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さて今週は、この大神杜女の生きた時代を描きました。
不比等の思惑を実現させようとする藤原一族と対抗する人々とのせめぎ合い、
そして、その過程で大きな影響を生む大仏が完成いたしました。

先週の不比等の夢の体現者とも言える光明子の甥にあたり、
逆風の中にあった藤原氏を立て直した藤原仲麻呂。
その仲麻呂を引き上げてしまった不遇の名相・橘諸兄。
諸兄と共に反藤原勢力として立ち塞がった美女帝・元正。
その元正を押さえ込み藤原の天皇として即位した聖武。
そしてその聖武によって大仏建立を任された仏師・国仲連公麻呂


【~唐被れした大臣、藤原仲麻呂~ vol.037】
http://ameblo.jp/yatarou/entry-10026052532.html

【~不比等に迫った三千代の子、橘諸兄~ vol.038】
http://ameblo.jp/yatarou/entry-10034872025.html

【~麗しき美女帝のまぼろしと恋、元正~ vol.039】
http://ameblo.jp/yatarou/entry-10034872239.html

【~早過ぎた民主主義?コンプレックス大帝、聖武~vol.040】
http://ameblo.jp/yatarou/entry-10034872337.html

【~天平のミケランジェロ、国仲連公麻呂~vol.041】
http://ameblo.jp/yatarou/entry-10034872535.html


さて来週は、いよいよ天皇家に最大の危機が襲いかかります。
そして不比等の描いた夢の行方はどうなってしまうのか。
奈良時代の終焉に登場した怪僧道鏡が登場する時代へと移ります。



┏━◇ 来週の予告 ◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

 道鏡事件と奈良の終焉

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━━[編集後記]━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
随分と長期間の不定期更新となってしまっております。
残念ながらメルマガも完全に休止となってしまい、
書き続けることの難しさをかみ締めております。
出来るだけ時間を見つけて、少しずつでも書いて行こうと思いますので、
ぜひとも応援のほど、よろしくお願いいたします。

ちなみに、大神杜女の神輿については、
『宇佐八幡みこしフェスタ』で再現されています。
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