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<ある中学担任教師からの悩みメール>
 先生、聞いてください。合唱コンクールは、担任としてとてもおもしろいです。でも、今年は悩んでいます。

 

 自由曲を決める際、学級ごとにアンケートをとったら、ほとんどの学級の歌いたい曲がかぶってしまい、けっきょく「くじ」で決めることになりました。その結果、ぼくが受けもつクラスは、自分たちが歌いたい曲の中で最下位の曲となってしまいました。それを告げると、生徒たちはうなだれてしまいました。

 先生だったらこのような時、生徒たちにどのような声をかけますか?勉強させてください。

 

 ちなみにぼくは次のように声をかけました。
「みんなの希望の歌に決まらなかったのは残念だった。でも、先生はこう思ってる。逆にこの状況を楽しんじゃおうと。ぼくら全員で、この歌の歌い方を本気で考えて、合唱コンで、聞いている人たちに感動を届けられたら、そして最優秀賞をとることができたら、先生はすごいと思うぞ。みんな、曲の歌詞をしっかりと考えてみたか。この歌は世界平和を歌っている素晴らしい曲だよ。このクラスのように仲が良いクラスだからこそ、本気で心を込めて歌えるんじゃないか。最初から好きな歌を選ばなくたって、この歌をこれからみんなが工夫しながら創り上げていくことで、きっと何かが見えてくると思う。それは聞いている人が決めてくれるはず。どう、わくわくしない?」


 こんな感じで話をしました。本当は、自分が話すのではなく、実行委員らリーダーを動かし、話をさせるべきだったと反省していますが、その時のクラスの雰囲気から、ぼくがでる場面だと思って動いてしまいました。


 練習についても、相談にのって頂きたいです。以前先生に頂いたプリントを参考にさせてもらってます。ありがとうございました。

 


<僕の返信メール>
 まさしく“青春教師”だね。熱いコメントだ。きっと、子どもたちはどんどん変わっていくだろうな。そして同時に“優等生教師”でもある。

 でも、これって本心とは違うんでしょ。それって、子どものためになるのかなあ?


 僕だったら、違う動きをするな。だって、好きでもない、というより、魅力がもてない歌をなんで選ばなきゃいかんの? 誰が決めたの? くじ? それって自由曲じゃないじゃん。


 僕の現役の頃の選曲方法は、まず、音楽教師の僕が何曲か選んでおき、音楽の授業で、そのクラス向きのものを選ぶようにうまく声をかけ紹介していく。つまり“操作”する。けっして、学年集会で全員で選ぶというような“無謀”なことはしない。そのクラス向けの魅力ある紹介をしっかり考えて“選ばせる”。これが“手だて”だと思ってる。

 そして、それでも重なった時は、2クラス重複はそのままその曲でいく。3クラス重複は、それはもはやクラスごとの自由曲とはいえなくなるので、“没収”。つまり、自由曲枠から外し、どのクラスにも選曲させない。

 

 まあ、そんな状況になったとしたら、こちらの“手だて”が失敗したということ。

 「魅力ある曲を一定数準備できなかった」ことと、「選曲時に魅力ある言葉かけができなかった」ってこと。

 いわゆる教材研究不足で、音楽教師としてもっと精進しなきゃいけないってことだ。

 没収曲は、学年全体で卒業式などで歌ったり、チェンバーの曲にする。


 さて、今回のように“はずれ”になったとしたら、僕が担任だとしたら、こうする。

『自分で別の曲を探してくる。』

 そして担任として、その曲にするよう、音楽教師にお願いする。過去に、そういう人いたよ。僕の教えてた学年じゃなかったけど、その担任さん、音楽教師が選んだ曲が魅力ないっていって、自分でその年のNHK全国学校音楽コンクールの課題曲を選んできた。そしてそのクラスは準優勝したな。


  そもそも「教師側の力不足・準備不足」を、きれいな言葉で飾って子どもに納得させるのって、“優等生教師”だよね。

 他の教師からは煙たがられるかもしれないけど、子どもに歌いたいって言わせるものを探してくる“青春教師”で、僕はありたいな。    

 

 

<中学担任教師からの第2信>
 別の曲を用意するという手かあ…。思いもよらぬ方法でした。選び方も純粋にくじなので、自分の中では割り切ってしまってました。確かに、歌いたい曲を歌う方が、生徒は気持ちよくスタートを切れますね。

 選曲したのは、実は夏休み前の話なので、その方法を取る手段も時間もありました。もっと早く先生にお話しすればよかったです。


 今の練習では、生徒一人一人の心の温度差をどう埋めるかかが課題です。今日は、生徒同士が練習の仕方でもめて、良いケンカが起きました。これも心の温度差によるものだと思います。熱い子たちに引っ張られて、学級が一つになれると良いなと思っています。

 


<僕から返信>
 本当にいい先生やってるなあ。

 さっきは、かき回すコメントでごめんね。もう本番間近ってことなんだね。

 今までクラスで努力を続けてきてるなら、今、先生が信じるやり方が一番。心でぶつかってる先生だからこそ。

 今をたのしもまい。合唱コン、健闘を祈るよ。


<翌朝、僕から再信>
  昨日のメールは「たのしもまい」って、ある意味“無責任な発言”だったと、一晩ずっと後悔してました。

 だって、「現状維持」ってことで、先生の今とるべき手だてを何も助言してないもんね。きれい事で終わらせただけだから。


  そこで、昨夜、帰ってから、僕が担任だったら、今できることは何だろうと、もう一度考えてみました。あと合唱コンまでどれだけか知らないけど、2週間しかないとして、やれることは何か。取り組むことによって、子どもたちが自分たちの歌をもっと好きになって、かつ観客にもすごいって思わせられる手だては?


  そんな中で思いついたのは、
①曲の中にソロを入れる。

 一部分、クラスのだれもが認めるうまい子を一人か二人、場合によってはそれ以上、一人で歌うフレーズをつくる。
②この曲は、テンポの変化がない。ずっと同じテンポで歌われ、指揮者のしきりにより曲を揺らす部分がない。すごくゆっくりになったり急に早くなったり等、クラス独特感が出せる曲ではないけど、そういう部分をつくっちゃうのも手。

 例えば、同様にテンポの変化がない「大地讃頌」だったら、最後の「讃えよ大地を Ah~」のところで、思いっきりテンポを引っ張りつつ、「Ah~」の直前で3秒ほどゲネラルパウゼを入れる。そこで、会場全体に緊張感をつくるのだ。観客全員が息をのむ瞬間を演出してやるのだ。
③一部分、身振り手振りや手話動作などを入れる。


  こういう「しかけ」が一カ所でもあると、歌い手自身がワクワクするし、観客にもサプライズを味わわせられる。変更もそれほどたいした労力はかからないし。
  こんな形を取り入れることで、今あるものを自分たち独自のさらに魅力あるものにできたらいいね。

 健闘を祈ります。

 


<中学担任教師からの第3信>
 熱いメッセージありがとうございます。

 ①~③の共通点は、うちのクラスならではの工夫を行うことで、自分たちの曲への思いを深め、モチベーションを高めるってことですね。

 これは、なんとかなるかもしれません。

 実行委員やパートリーダー、指揮者、伴奏者に相談して、チャレンジしていきたいと思います。

 いつも温かく相談にのって下さり、本当にありがとうございます。

 

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